プロアマ形式のツアー競技の魅力〜米女子ツアー開幕戦に思う〜【原田香里のゴルフ未来会議】
2021年3月まで日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の理事を務め、いまは女子ゴルフ界発展のため尽力し、自身のゴルフ向上も目指す、女子プロゴルファーの原田香里。まだまだこれからと話すゴルフ人生、そして女子ゴルフ界についての未来を語る。
ゴルフを愛するみなさん、こんにちは。原田香里です。アメリカの女子ツアーが開幕し、笹生優花さんが2試合続けて優勝争いを見せてくれました。あと一歩で優勝こそできませんでしたが、実力者たちにまじっての堂々の戦いぶり。自分をしっかり持った地に足の着いた姿勢は、全米女子オープン優勝者の風格を十分に漂わせていました。気負いもなく自分のゴルフをしっかり続ける様子を見ると、この先への期待を抱かずにはいられません。
渋野日向子さんの参戦は3月からになるようですが、ツアー5勝の畑岡奈紗さん、ルーキー古江彩佳さんの2人も加わる様子は、3月からの日本ツアーと併せて楽しみです。
その米ツアー開幕戦のヒルトン・グランド・バケーションズ・トーナメント・オブ・チャピオンズは、過去2年間のツアー優勝者など実力者しか出場できない大会でした。ここにレジェンドのアニカ・ソレンスタム(スウェーデン)が出場していたのに驚いた方も多かったのではないでしょうか。
実はこの大会、プロアマ形式での開催でした。29人の選ばれしプロと、アマチュアを含むセレブリティ枠の50人が、4日間、一緒にプレーしました。チーム戦ではなく、プロたちはプロたちだけで通常と同じ72ホールのストロークプレーで勝負し、アマチュア中心のセレブリティたちは、別な試合を行っていたのです。
ホール・オブ・フェイマー(世界殿堂入り選手)となって引退したアニカは、セレブリティ枠で出場していたというわけです。
プロのスコアが『●アンダー』などとなっているのに対し、セレブリティのスコアは「138」などと書かれていたのに首を傾げた方もいたのではないでしょうか。日本ではあまりなじみがありませんが、こちらだけがステーブルフォード方式というポイント制のゲーム形式になっていたからです。
これは、スコアが決められたポイントに変換されるものです。イーグルなら5点,バーディなら3点、パーなら2点,ボギーなら0点,ダブルボギー以上ならマイナス1点、なので、ストロークプレーとは違って積極的に攻めてポイントを稼いだほうが有利になるゲームです。
例えば、飛ばし屋なら2オンの狙えるパー5では、ミスしてパーに終わっても2ポイント、もっとトラブルでボギーでも0ポイントですが、イーグルが獲れれば5ポイントとなります。ストロークプレーなら、狙うかどうか迷う場面でも、狙う選択をする選手が圧倒的に多くなるギャンブル性の高いフォーマットです。米ツアーではメジャー裏の大会で採用されていたり、国内男子ツアーのアコムなどで採用されていました。
セレブリティが出場するプロアマ形式のトーナメントは、お祭りの意味合いが強いものがあります。プレーする側も見ている側も、それで盛り上がって楽しむ。これをチャリティにつなげるというわけです。
セレブリティ部門でプレーしたアニカは、元メジャーリーガーのデレク・ロウ選手と同ポイントでプレーオフを行い、敗れるという面白い展開になりました。
一方、現役選手たちは、そんなお祭りムードを楽しみつつも、自分たちの戦いに集中しなくてはなりません。今回はコース内、特にクラブハウス付近では終始、音楽が大きな音で流れていました。通常の静かなゴルフトーナメントとは違うムードでしたが、これもトーナメントの特色です。セレブリティたちと一緒にプレーしながら、音楽がかかるにぎやかな中で集中力が試されるというわけです。
実は、私が理事をしている時に、日本でもあるホールに音楽をかける提案があった大会があります。私の現役時代には考えられないようなお話に、戸惑ったというのが正直なところです。けれども、結果的に実現した大会の様子を見ると、ギャラリーはもちろん、選手サイドも大会を盛り上げようという姿勢が見られました。その時「ああ、こうやってゴルフって変わっていくんだな」と、感じたことをとてもよく覚えています。
振り返れば、当時の私にまだまだ自分が育った時代のゴルフや、トーナメントのあり方に対する固定観念が残っていたのだと思います。今になって改めて考えてみると、トーナメントをより多くの人に楽しんでいただくためには、それぞれの大会に違う特徴があるのは素晴らしいことだと思います。それまでの“常識”を覆すには勇気が要りますが、日本でも様々な形でより多くの人に見ていただくことを考える必要があるでしょう。
特にプロアマ形式は、ゴルフの普及にはもってこいです。アマチュアは、レベルの高いプロのプレーを見ながら、自分たちのプレーを楽しむ。プロの方は、集中力が問われます。
アマチュアの方とペースが違う、という声もありますが、プロ同士でもプレーのペースは人それぞれです。その違いが少し大きいだけだと考えればいいのです。その中で自分のプレーを貫いてどれだけ真剣勝負ができるかどうか、ということでしょう。
自分たちは賞金のかかった試合をしてはいますが、一緒にプレーしているアマチュアの人に知らん顔をしてはいけません。ショットが曲がってボールの行方が分からない時には、一緒にボールを探すのは当然のマナー。ゴルファーとしてするべきことをするのは当然のことです。
ツアーの多くでは、大会前にスポンサーやそのゲストなどとのプロアマがありますが、試合とは別になっています。けれども、ツアー以外では、プロアマ形式で賞金が出るものも少なくありません。私も経験がありますが、意外にアマチュアの方が気を使ってくださったりするものです。
プロは集中力が磨かれた上にマナーが養われ、アマチュアは緊張感とプロのプレーを間近で楽しむ。プロアマ形式の試合には、いいところがたくさんあります。男子ツアーでは日本でも行われていますが、今後、日本の女子ツアーにも出現するかもしれませんね。ツアーの可能性を広げる選択肢の一つとして、その時は大いに歓迎したいと思います。
原田香里(はらだ・かおり)
1966年10月27日生まれ、山口県出身。11歳からゴルフを始めると、名門・日大ゴルフ部に進み腕を磨いた。89年のプロテストに合格しプロ転向。92年の「ミズノオープンレディスゴルフトーナメント」でツアー初優勝。93年には「日本女子プロゴルフ選手権大会」、「JLPGA明治乳業カップ年度最優秀女子プロ決定戦」勝利で公式戦2冠を達成。98年には賞金ランキングでも2位に入るなど通算7勝の活躍。一線を離れてからは日本女子プロゴルフ協会の運営に尽力。今年の3月まで理事を務めていた。
<ゴルフ情報ALBA.Net>
ゴルフを愛するみなさん、こんにちは。原田香里です。アメリカの女子ツアーが開幕し、笹生優花さんが2試合続けて優勝争いを見せてくれました。あと一歩で優勝こそできませんでしたが、実力者たちにまじっての堂々の戦いぶり。自分をしっかり持った地に足の着いた姿勢は、全米女子オープン優勝者の風格を十分に漂わせていました。気負いもなく自分のゴルフをしっかり続ける様子を見ると、この先への期待を抱かずにはいられません。
渋野日向子さんの参戦は3月からになるようですが、ツアー5勝の畑岡奈紗さん、ルーキー古江彩佳さんの2人も加わる様子は、3月からの日本ツアーと併せて楽しみです。
その米ツアー開幕戦のヒルトン・グランド・バケーションズ・トーナメント・オブ・チャピオンズは、過去2年間のツアー優勝者など実力者しか出場できない大会でした。ここにレジェンドのアニカ・ソレンスタム(スウェーデン)が出場していたのに驚いた方も多かったのではないでしょうか。
実はこの大会、プロアマ形式での開催でした。29人の選ばれしプロと、アマチュアを含むセレブリティ枠の50人が、4日間、一緒にプレーしました。チーム戦ではなく、プロたちはプロたちだけで通常と同じ72ホールのストロークプレーで勝負し、アマチュア中心のセレブリティたちは、別な試合を行っていたのです。
ホール・オブ・フェイマー(世界殿堂入り選手)となって引退したアニカは、セレブリティ枠で出場していたというわけです。
プロのスコアが『●アンダー』などとなっているのに対し、セレブリティのスコアは「138」などと書かれていたのに首を傾げた方もいたのではないでしょうか。日本ではあまりなじみがありませんが、こちらだけがステーブルフォード方式というポイント制のゲーム形式になっていたからです。
これは、スコアが決められたポイントに変換されるものです。イーグルなら5点,バーディなら3点、パーなら2点,ボギーなら0点,ダブルボギー以上ならマイナス1点、なので、ストロークプレーとは違って積極的に攻めてポイントを稼いだほうが有利になるゲームです。
例えば、飛ばし屋なら2オンの狙えるパー5では、ミスしてパーに終わっても2ポイント、もっとトラブルでボギーでも0ポイントですが、イーグルが獲れれば5ポイントとなります。ストロークプレーなら、狙うかどうか迷う場面でも、狙う選択をする選手が圧倒的に多くなるギャンブル性の高いフォーマットです。米ツアーではメジャー裏の大会で採用されていたり、国内男子ツアーのアコムなどで採用されていました。
セレブリティが出場するプロアマ形式のトーナメントは、お祭りの意味合いが強いものがあります。プレーする側も見ている側も、それで盛り上がって楽しむ。これをチャリティにつなげるというわけです。
セレブリティ部門でプレーしたアニカは、元メジャーリーガーのデレク・ロウ選手と同ポイントでプレーオフを行い、敗れるという面白い展開になりました。
一方、現役選手たちは、そんなお祭りムードを楽しみつつも、自分たちの戦いに集中しなくてはなりません。今回はコース内、特にクラブハウス付近では終始、音楽が大きな音で流れていました。通常の静かなゴルフトーナメントとは違うムードでしたが、これもトーナメントの特色です。セレブリティたちと一緒にプレーしながら、音楽がかかるにぎやかな中で集中力が試されるというわけです。
実は、私が理事をしている時に、日本でもあるホールに音楽をかける提案があった大会があります。私の現役時代には考えられないようなお話に、戸惑ったというのが正直なところです。けれども、結果的に実現した大会の様子を見ると、ギャラリーはもちろん、選手サイドも大会を盛り上げようという姿勢が見られました。その時「ああ、こうやってゴルフって変わっていくんだな」と、感じたことをとてもよく覚えています。
振り返れば、当時の私にまだまだ自分が育った時代のゴルフや、トーナメントのあり方に対する固定観念が残っていたのだと思います。今になって改めて考えてみると、トーナメントをより多くの人に楽しんでいただくためには、それぞれの大会に違う特徴があるのは素晴らしいことだと思います。それまでの“常識”を覆すには勇気が要りますが、日本でも様々な形でより多くの人に見ていただくことを考える必要があるでしょう。
特にプロアマ形式は、ゴルフの普及にはもってこいです。アマチュアは、レベルの高いプロのプレーを見ながら、自分たちのプレーを楽しむ。プロの方は、集中力が問われます。
アマチュアの方とペースが違う、という声もありますが、プロ同士でもプレーのペースは人それぞれです。その違いが少し大きいだけだと考えればいいのです。その中で自分のプレーを貫いてどれだけ真剣勝負ができるかどうか、ということでしょう。
自分たちは賞金のかかった試合をしてはいますが、一緒にプレーしているアマチュアの人に知らん顔をしてはいけません。ショットが曲がってボールの行方が分からない時には、一緒にボールを探すのは当然のマナー。ゴルファーとしてするべきことをするのは当然のことです。
ツアーの多くでは、大会前にスポンサーやそのゲストなどとのプロアマがありますが、試合とは別になっています。けれども、ツアー以外では、プロアマ形式で賞金が出るものも少なくありません。私も経験がありますが、意外にアマチュアの方が気を使ってくださったりするものです。
プロは集中力が磨かれた上にマナーが養われ、アマチュアは緊張感とプロのプレーを間近で楽しむ。プロアマ形式の試合には、いいところがたくさんあります。男子ツアーでは日本でも行われていますが、今後、日本の女子ツアーにも出現するかもしれませんね。ツアーの可能性を広げる選択肢の一つとして、その時は大いに歓迎したいと思います。
原田香里(はらだ・かおり)
1966年10月27日生まれ、山口県出身。11歳からゴルフを始めると、名門・日大ゴルフ部に進み腕を磨いた。89年のプロテストに合格しプロ転向。92年の「ミズノオープンレディスゴルフトーナメント」でツアー初優勝。93年には「日本女子プロゴルフ選手権大会」、「JLPGA明治乳業カップ年度最優秀女子プロ決定戦」勝利で公式戦2冠を達成。98年には賞金ランキングでも2位に入るなど通算7勝の活躍。一線を離れてからは日本女子プロゴルフ協会の運営に尽力。今年の3月まで理事を務めていた。
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