サプライチェーンの混乱と、急速なデジタルシフトによる「半導体不足」の悪循環:2021年11月に最も読まれた10本のストーリー
新型コロナウイルス感染症の大流行が世界経済を一変させておよそ2年。リモートワークの浸透や巣ごもり消費の拡大によって、慢性的な半導体不足が深刻さを増している。その影響はPCやスマートフォン、ゲーム機、ネットワーク機器、医療機器、家電製品、自動車など、チップや集積回路を使うあらゆる製造業に波及している。これほど急激なハイテク製品の需要増加と長期的なサプライチェーンの混乱を、人類はまったく予期していなかった。
半導体を製造するための工場新設には莫大な費用がかかることに加えて、実際に稼働できるようになるまでには数年を要するとされている。米大手半導体メーカーのインテルや台湾のTSMC(台湾積体電路製造)がチップ増産に向けた投資に乗り出してはいるものの、新たな工場が稼働し始めるのは2024年だという。
一方、この需要増加がいつまで続くかは、誰にもわからない。特にチップ製造は利益率が低いことも多く、需要の増減には周期性があると考えられている。この先、半導体の需要が急激に減少した場合、工場の増設はチップの過剰供給を招いてしまう。こうした収益性に対する懸念から、工場への投資に消極的な力が働いている可能性もあると、アナリストは指摘する。
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なかでも、身近な家電製品や医療機器の部材となる集積回路のリードタイムが著しく増加しており、かつて1ドルで取引されていた部材が150ドルで販売されるケースもあるという。このように広く普及している部材ほど需要の変動も大きく、そのぶん投資リスクは高くなってしまう。つまり、半導体メーカーによる設備投資の大部分は人工知能(AI)や5Gといったデジタルシフトの要である最先端チップに割り当てられる可能性が高く、いわゆる旧式チップの供給増加に直結するとは限らない。この先も値上げの連鎖はしばらく続くだろう。
家電メーカーがスマートフォンをつくった理由
この11月は、高価格帯のトースターや扇風機で知られるバルミューダが、新ブランド「BALMUDA Technologies」の立ち上げと同時に発表したスマートフォン「BALMUDA Phone」にも、多くの関心が集まった。価格の“相場”を度外視した独自路線で家電業界での存在感を示してきた同社のスマートフォンは、やはり相場を度外視しており、発表直後からスペックやデザインに対する価格の合理性などについて否定的な意見も多く飛び交った。そうした賛否を含めて、話題づくりにこと欠かない門出となったことは間違いない。
リーマン・ショックで倒産寸前まで追い込まれたバルミューダを救う起死回生の一手となった扇風機を筆頭に、生活家電は同社にとって収益の柱だったはず。なぜ半導体大手による競争が苛烈を極めるスマートフォン業界に飛び込んだのか。「欲しいものが売っていないからです」と、バルミューダ創業者の寺尾玄は語る。「人類がいちばん使っている道具なのに、あまりにも画一的になってないかなと」
寺尾によると、BALMUDA Phoneに求めた「欲しいもの」とは、既存の機種とは異なる「Anotherの提案」なのだという。それはバルミューダがこれまで手掛けてきたトースターや扇風機と同様に、「自分だったらこういうものが欲しい」という提案によってユーザーの選択肢を増やしたいという変わらぬ願いなのだと、寺尾は自信を見せる。すでにBALMUDA Phoneの後継モデルも企画しているといい、BALMUDA Technologiesというブランドを展開する上で鍵を握るキーワードは「画面」だという。
バルミューダは、20年後に世界有数の企業に名を連ねるという大きな目標を掲げている。すでに経済成長の大波が過ぎ去った日本から羽ばたく術は、もはやイノヴェイションにしか残っていない。そのためには客数が多く単価も高い世界へ積極的に進出していくこと。BALMUDA Technologiesの立ち上げとスマートフォン事業への参入は、その流れを見据えての第一歩なのだという。
このほか、Netflixにて実写版「カウボーイビバップ」の配信がスタートしたことも、特筆すべき話題のひとつだった。過去にアニメの実写化が作品の本質を描き出せたためしはないとされ、今回の実写版も例に漏れず熱狂的な原作ファンを落胆させたことは言うまでもない。エンターテインメントとしての成功は往々にしてファンのノスタルジアに泥を塗るものなのだ。
ここからは、11月に「WIRED.jp」で公開された編集記事を中心に、最も読まれた10本を紹介する。
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