●国民的キャラクターを背負い、芽生えた責任感

『ドラえもん』のジャイアン役をはじめ、ラッププロジェクト「ヒプノシスマイク」や『仮面ライダーリバイス』といった話題作に参加するだけでなく、子ども向けバラエティ番組『おはスタ』のMCを担うなど、声優・木村昴の勢いが止まらない。映画『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(10月22日公開)の日本語吹替え版では、クールな主人公スネークアイズに命を吹き込んでいる。



これまでの道のりを振り返ってもらうと、「声優業に打ち込んできたことで、いろいろなことに挑戦できるようになった。ものすごく幸せ」と充実の表情を浮かべた木村。14歳から『ドラえもん』という国民的アニメに携わってきたからこそ、「もし自分が誰かを失望させるような行動をとってしまったとしたら、迷惑をかけてしまう人がたくさんいる」と責任感を強くしながら、声優道を突き進んできたという。サービス精神と笑顔いっぱいにインタビューに応じ「真面目は最強」と熱く語る姿から、マルチな活躍の秘密に迫る。

木村の八面六臂の奮闘ぶりには目を見張るばかり。2005年に14歳にして『ドラえもん』のジャイアン役で声優デビューをした彼だが、キャリアを振り返ってもらうと「もともとは声優志望ではなかった」と告白する。

「今もそうなんですが、根本はめちゃくちゃ目立ちたがり屋なんです」と口火を切り、「子供の頃は、自分の人生のミッションは『人気者になること』だと思っていました」とにっこり。それを実現させるために児童劇団に入り、「お芝居やダンスがどんどん楽しくなっていって、ミュージカルにも出ることができました。僕の父親はオペラ歌手で、母も声楽家なので、両親に通じるものができている誇らしさも感じました」とやりがいを味わったものの、「そうしているうちにラップにハマったり、子役としてタレント業も経験させていただいていたんですが、中学1年生にして『いろいろやっているけれど、僕が一生をかけてやっていきたいものはなんなんだろう?』と先が見えなくなってしまった。中1にしてスランプです!」と混乱期があったという。

そんな時期に受けたのが、『ドラえもん』のオーディションだ。「『ドラえもん』のオーディションに参加したというだけでも、絶対にクラスの人気者になれますから! 記念受験のつもりで行ったんですが、まさかの合格」と思いがけず人生の転機が訪れ、声優として歩みを進めることになった木村。ミュージカルやタレント業、ラッパーと心を動かされるものがありつつ、「その3つの道を諦めて、声優業を頑張ろうと思いました」と覚悟したが、「不思議なことに、声優というひとつの道に一生懸命に打ち込んだ結果、諦めたはずの3つのことにも今は挑戦できている。声優業が諦めていた道につながっていたと思うとたまらなくうれしいです」と喜びを噛み締める。

「いろいろなことをやらせていただいていますが、すべては声優業に生きるはずだと思ってやっています」と今の思いを口にした木村は、「真面目は最強」と目の前の仕事にひたむきに向き合ってきた。常に心に刻んでいるのは「誰かを失望させるようなことはしてはいけない」とキッパリと語る。

「『ドラえもん』のオーディションに受かったときに、覚悟したことがあって。例えば僕が赤信号を渡ってしまったとして、それを子供たちが見たらガッカリしますよね。未成年での飲酒や喫煙は当然、スキャンダルなど、もし僕がなにかをしでかしてしまったら、作品に関わっている方に迷惑をかけてしまったり、失望をする人がたくさんいるんだと14歳にして覚悟しました。それに僕は楽しいことや笑ってくれることが好きなので、誰かが嫌な思いや悲しい顔をするようなことはしたくないんです」と国民的キャラクターを背負う上では、並々ならぬ決意があった様子。声優としての実力はもちろん、この誠実な姿勢こそ、彼が各方面から求められる理由だろう。

●スネークアイズ役で新境地「こだわりはミステリアスさ」



映画『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』の日本語吹替え版では、主人公スネークアイズ役に挑戦した。本作は、戦闘エキスパートチーム「G.I.ジョー」と悪の組織「コブラ」の戦いを描き、全世界でメガヒットを記録した映画『G.I.ジョー』シリーズの最新作で、「G.I.ジョー」最強の戦闘能力を持つ忍者ヒーロー、スネークアイズの誕生秘話を描く。

これまでのシリーズを見ていたという木村は、スネークアイズ役に抜てきとなり「飛び上がるほどうれしかった」と大喜び。「スネークアイズは非常に人気のあるキャラクターですが、これまで全くしゃべっていないんです。新しくスネークアイズを主人公にする映画ができる、そして今回初めてスネークアイズがしゃべると聞いて、僕自身『スネークアイズって、どんな声をしているんだろう』と気になって、ワクワクしていました。『日本語吹き替え版は誰がやるんだろう』と思っていたら、なんと僕でした(笑)! よっしゃー! とテンション爆上げです」と声を大にしつつ、冷静になってみると「どうする!? とプレッシャーを感じました」と苦笑いを見せる。

「吹替はストレスなく映画を観ていただくためのものだと思っている」そうで、吹替を担当する際は「あくまでもオリジナルありきで、オリジナルのキャストの方の声に近い形で演じたい。音声の選択があるとすれば、“日本語、英語”と切り替えてもあまり違いのないものになればいいなと思っています」と心がけていることを吐露。本作でも「オリジナルのスネークアイズの話し方や癖を研究して、吹替に臨みました」と役作りについて話す。

研究して気づいたのは、「いつもは淡々としていながら、アクションになると表情が変わる。そのギャップが見どころ。スネークアイズが静かにしていればいるほど、アクションシーンが際立つ。アクションシーンの仕上がりが、本当に見事なんですよ! もう虜です」という、スネークアイズの持つ“ギャップの魅力”。

「演じる上でのこだわりポイントは、スネークアイズのクールな表情の中に香る、ミステリアスさ。僕自身、映画を観ながら何度もスネークアイズに翻弄されましたから! 腹の底が見えないような雰囲気を意識しながら、スネークアイズを演じました」というが、そういった役柄は木村にとって新鮮な役どころだったと続ける。「これまで僕が演じさせていただいてきた役は、ガキ大将っぽかったり、テンションが高かったりと、自分を前面に出すキャラクターが多くて。スネークアイズは、僕のキャリアにとっても非常に珍しいキャラクター。だからこそ慎重に演じていきました」と、新境地を切り開く作品になったようだ。

●木村昴に影響を与えた家族、たてかべ和也さんの姿



インタビュー中、『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』のシーンを茶目っ気たっぷりに再現したり、どんな質問にも熱っぽく答えていた木村。ポジティブオーラの原点が気になるところだが、「家族も明るいんですよ」とのこと。「小さな頃は祖父と一緒に過ごすことが多かったんですが、とにかくギャグが好きな人で。ご飯を食べたあとには『うまかった(馬勝った)。牛、負けた』とか言うんです(笑)。ユーモアがあるって、いいことだなと教えてもらったような気がしています。あとは家族みんな、すごくオープンですね。隠し事もないし、なんでもさらけ出せるような家庭です」と楽しそうに語る。

豪快な笑顔がなんとも気持ちいい木村だが、オープンな家族だけでなく、先代のジャイアン役の声優で、2015年に亡くなった声優・たてかべ和也さんの生き様からも大きな影響を受けていると打ち明ける。

ジャイアンという大役を受け継いだあとは、「僕はジャイアン以外もできるんだということを知ってほしい、ジャイアン役のイメージから脱しなければいけない」と葛藤することもあったという木村。「たてかべさんが亡くなって、ご遺体と面会をさせていただきました。棺の中を見たら、たてかべさんはジャイアンのTシャツを着て、マイクを持っていたんです。その姿が、めちゃくちゃかっこよかった。『なんで僕は、ジャイアンのイメージから脱しようとしていたんだ』と思うくらいかっこよかったです。生涯をかけてジャイアンを演じた人がいて、そんなすばらしい役を受け継ぐことができたんだと。たてかべさんに相談すると、『ジャイアンは豪快なヤツだから、思い切りやってくれ』という一点張りでしたが、そのときに本当にその言葉の意味がわかったような気がして、豪快に生きるってこういうことなんだなと実感しました。僕も思い切りジャイアンを演じて、思い切り生きていきたいです!」と清々しく宣言していた。

■木村昴

1990年6月29日、ドイツ出身。2005年に『ドラえもん』の2代目ジャイアン役として声優デビュー。『輪るピングドラム』の高倉冠葉役や『呪術廻戦』の東堂葵役を務め、ラッププロジェクト「ヒプノシスマイク」では山田一郎役を演じてラップも披露している。2020年10月からは子ども向けバラエティ番組『おはスタ』のメインMCを担当。テレビ朝日で放送中の特撮ドラマ『仮面ライダーリバイス』では、主人公の相棒・バイス役を演じている。また「天才劇団バカバッカ」の座長としても活躍中。