カップ麺史上、あまり例のない取り組みが始動する(撮影:今井康一)

大手コンビニのファミリーマートが、自社オリジナルによる新たなカップ麺の大型企画商品の開発、投入の準備を進めていることが東洋経済オンラインの取材でわかった。

日清食品、東洋水産、サンヨー食品、エースコック、明星食品の即席麺大手メーカー5社がすべて加わり、「ラーメンデータバンクイチオシ、大崎さん推薦!」と銘打ってシリーズ化。全国の名店5店とのコラボによるカップ麺、計5種類をそれぞれのメーカーが受け持ち、順次開発、投入する。

第1弾は9月28日、北海道・利尻島の人気店「利尻らーめん味楽」(みらく)のカップ麺をサンヨー食品の開発・製造により、全国のファミマで一斉に発売する。第2〜5弾以降も順次投入していく。すべて同じ縦型ビッグサイズのカップ麺で価格は1個あたり税込み228円を予定している。

即席麺大手メーカー5社を特定のコンビニエンスストアが1つの自社オリジナルカップ麺のシリーズでまとめあげるのは、これまでほぼ例がない。いったいどんな取り組みを行っているのか。独占取材した。

「手間をかけた商品」を、もっと認知してほしい

今回、ファミリーマートが開発するカップ麺は、激戦市場である「名店とのコラボ商品」だ。なぜ、この段階で同市場に挑むのか。同社の足立光氏(CMO=チーフマーケティングオフィサー兼マーケティング本部長)がこう説明する。

「有名店とのコラボカップ麺は、ファミリーマートをはじめコンビニ各社が出しています。でも開発に手間がかかる割に、発売した後の消費者からの商品認知度が低かった。

もっとできることがあるはずです。そこで(1)『認知がとれる仕組み』をつくり、(2) 『ラーメンの味は専門家のお墨付き』で証明したいと考えました」

(1)で白羽の矢が立ったのはスマートニュースだ。商品の告知に定評があり、配信クーポンも強いからだという。

(2)では、ラーメン評論家として活躍する大崎裕史氏(ラーメンデータバンク会長)と組んだ。同氏が会長を務める会社は検索情報サイト「ラーメンデータベース」を共同運営し、「日本最大級のラーメン店検索サイト」を掲げる。実店舗の情報網と専門家の知見も“隠し味”に加えた、といえよう。

もちろん嗜好品のラーメンは、好みが人によって違うが、「誰が美味しいといっているか」を重視した。店の選定も味づくりも大崎氏が関わり、商品をブラッシュアップしていく。


ラーメンデータバンクが運営する「ラーメンデータベース」は人気店の情報などを紹介(左)、ラーメンデータバンク会長の大崎裕史氏(右)

在宅が増え、インスタントラーメンが伸びた

少し引いた視点で見てみよう。長引くコロナ禍で、多くの社会人は在宅勤務の日が増えた。学生にも影響し、部活の大会や発表会などのイベントも縮小や中止が続く。

そうした巣ごもり状況の日常食事で好まれるのが「パパッと簡単」だ。その代表例がインスタントラーメンだろう。朝晩は涼しくなり、気軽に食べやすい季節となった。筆者の周囲でも「在宅勤務でカップ麺に手を伸ばす機会が増えた」と話す人が目立つ。

ちなみに日本で作られているインスタントラーメンの量は約60億食(59億7523万食)もあり、その3分の2に当たる約66%(39億2238万食)がカップ麺だという(※)。

巣ごもり消費の節約志向で、同調査では約31%(18億6451万食)の袋麺が伸びたが、カップ麺も好調だ。やはり簡単に作れて食べられる利便性は大きい。

※一般社団法人 日本即席食品工業協会の調査による

ファミマがカップ麺に注力するのは、こんな状況もあるのだ。

今回の取り組みで興味深いのは、日本を代表する即席麺メーカー大手5社が開発に参加したこと。日清食品、東洋水産、サンヨー食品、エースコック、明星食品は、袋麺・カップ麺ともにおなじみのメーカーだ。各社の強みと各店の味との親和性によって開発するメーカーが決まるという。

だが、例えば日清食品なら「ご当地ラーメンシリーズ」を自社で開発・販売してきた。メーカー側のメリットは何だろう。ファミリーマートはこう答える。


ファミリーマートCMOの足立光氏 (写真:ファミリーマート

「今回のコラボ企画は各メーカーさんも好意的で、競合がやっているからという難色はありませんでした。理由のひとつが安定して配荷されて売り上げが見込めることでしょう。

ファミリーマートは国内に1万6642店(2021年8月末現在)あり、1日に約1600万人が来店されます。店頭が巨大なメディアのようなもので、メーカーさんが自社で小売店に配荷することに比べてメリットも大きいと思います」(足立氏)

商品納入を決めるのは加盟店オーナーだが、「本部推奨」もして積極的に働きかけるという。発売後はどう陳列されていくのだろうか。

第1弾は「利尻らーめん味楽」を発売

9月28日、第1弾の商品が全国発売される。選ばれたのは、北海道・利尻島の人気店「利尻らーめん味楽」だ。

「利尻昆布をふんだんに使い旨味を凝縮した和風スープと、とんこつ、鶏ガラのスープをブレンドした味が人気の店です。ちぢれ麺のもちもち食感も特徴で、今回のカップ麺ではサンヨー食品さんが担当されています」(商品本部 加工食品・飲料部の石田照雄氏)


ファミリーマート商品本部の石田照雄氏

新横浜ラーメン博物館にも出店しているが、カップ麺としては初めての発売になる。

「実際に食べておいしかった店、知らない人が食べてもおいしいと思える店を選んだ」と大崎氏は話すが、第1弾ではサプライズ効果も狙ったはずだ。

北海道最果ての島である利尻島は、現地に行くには時間がかかる。しかも本店の営業時間は11時半から14時までの2時間半だと聞く。そうした希少性も意識したのだろう。


北海道・利尻島にある「利尻らーめん味楽」(写真:ファミリーマート

「シリーズ展開なので、地域のバランスと味のバランスを重視した」という。そのためシリーズとしての共通ロゴは「ラーメンデータバンクイチオシ、大崎さん推薦!」となった。

容器は「縦型ビッグ」、価格は「228円」

容器を「縦型ビッグサイズ」として価格を「税込み228円」にした理由は何だろうか。足立氏はこの理由を次のように話す。

「縦型ビッグサイズは、日清食品さんの『カップヌードルBIG』に代表されます。実はコンビニでは定番で陳列されており、当社では売上構成比の約45%を占める売れ筋商品群です。レギュラーサイズはスーパーで目立つ商品ですが、逆に縦型ビッグはスーパーにはほとんど置かれていません。

また価格は縦型ビッグの多くが232円なので、その下として設定しました」(足立氏)

第1弾が利尻島の名店と聞いて、筆者は“妄想旅行の味”をイメージした。これには理由がある。昨年の東洋経済オンラインで、北海道のコンビニ・セイコーマートが手がけるPB商品「セコマ」の北海道メロンソフトなどを取り上げた。

本州の大手小売店でも売られており、この商品を食べた仕事仲間は「道内旅行で食べたソフトクリームのよう」と話していた。コロナ禍でなかなか現地に行けない状況では、数百円のカップ麺やソフトクリームを味わい、「行った気になる」のではないだろうか。


人気観光地の北海道も、コロナ禍でなかなか行きにくい(写真:takuyama/PIXTA)

消費者に支持されるのは「再現性」

コラボカップ麺に求められるのは、何よりも「味の再現性」だ。その店に行った人はもちろん、行っていない大半の人にも支持される“らしい”味。実際に商品を食べてみないと何とも言えないが、監修を手がける大崎氏は次のエピソードを明かす。

「カップ麺に関わって20年になりますが、近年の味の進化は素晴らしいです。実際に完成間近の商品を食べた有名店店主からは『え〜っ、おいしいですね』『最近はすごいのね』『ラーメン屋さんも、うかうかしていられないね』と言った声が上がるほど。今回の商品も関係者で試食しながら、細かくブラッシュアップしています」

多くの有名店店主も「カップ麺」には意欲的だという。その理由は、実際に来店できない人にも、店の味を知ってもらえる宣伝効果があるから。「全国の人に向けて、自分の店を宣伝できて開発費用もいただける、二重のメリットも大きいでしょう」(同)。

夏に比べて「冬は130〜140%」、味噌や濃厚さが人気

ところでカップ麺は、夏と冬では売れ行きがどれぐらい違うのか。

「商品によって異なりますが、全体的には夏が100とすると冬は130〜140。3割から4割伸びる市場です。また寒くなると、味噌や濃厚な味が人気となります」(石田氏)

そうめんや冷やし中華に代表されるように、夏の麺類はさっぱり味が好まれるが、冬は消費者意識も変わっていく。

また、スーパーなどの大型小売店では、来店客に振り向いてもらうために、店頭ビデオを設置して購買意欲を促すことも行う。当初その気がなかった客にも「ついでに買っておくか」と誘引する効果もあると聞く。だが、コンビニのカップ麺は少し状況が違うようだ。

「カップ麺コーナーに来たお客さんは、カップ麺のどれかを食べようとする目的買いがほとんどです。まずはコア層である20代〜50代男性に支持されたい。今回はツイッターなどSNSでも積極発信して、売り場に来てもらうように仕掛けたいですね」(足立氏)

名店カップ麺で「あなたと、コンビに、」が高まるか

最後に、この取り組みを通じて「会社として何を目指すのか」を聞いてみた。

ファミリーマートは今年で40周年になります。そこで40周年に向けたチャレンジ『40のいいこと!?』の5つのキーワードを策定しました。(1)もっと美味しく、(2)たのしいおトク、(3)『あなた』のうれしい、(4)食の安全・安心、地球にもやさしい、(5)わくわく働けるお店――の5つです。今回の名店カップ麺は (1)と(3)、もっと美味しく、『あなた』のうれしい、になります」(同)

全社で掲げるミッションを、各部門がどう落とし込み事業活動につなげるか、だろう。

コラボカップ麺では、セブン-イレブンの「セブンプレミアムゴールド」の「らーめん山頭火」などが人気だが、ファミマにも「来来亭 背脂しょうゆ」「来来亭 背脂こってり」(税込みで各216円)などの人気商品がある。

今回の名店シリーズを通じて、「あなたと、コンビに、」(同社のキャッチフレーズ)がどこまで高まるか。商品の反響に注目したい。