認知症を早期発見する5つのポイント

■認知症は他人事ではない

 アルツハイマー病は発病する約20年前から徐々に進行していますが、高齢者でない人たちは「自分が認知症になるかもしれない」ということにまだリアリティを感じないと思います。ある意味、「他人事」。しかし、今回は絶対に他人事ではない話をしたいと思います。

 それは、あなたのご両親――おそらく高齢者といわれる年齢に達していると思います――は、きわめて高い認知症のリスクを背負っているということです。

 年齢別認知症有病率(厚労省調べ)によると、70歳以上で25人に1人が認知症ですが、80歳以上になると5人に1人、90歳以上では5人に3人の割合。つまり、長生きをするほど、認知症になる確率が高まるのです。

■介護地獄を防ぐのはあなた自身

「認知症になるのは仕方がない」と思っているかもしれませんが、最近は認知症のメカニズムも解明されてきており、予防法についての研究もたくさん見られます。

 予防法のなかで最も効果的なのは「1日20分以上の運動」と「睡眠をきちんと取る」ということ。そしてなにより重要なのは、「早期発見」です。

 認知症は不可逆的な病気です。つまり、一度発症すると治ることがない。あとは、ただ進行していくのみです。

 しかし、認知症の前段階に相当する「軽度認知障害(MCI)」の段階で発見できれば、「可逆的」。つまり、運動療法などによって健康な状態に戻ることができるのです。認知症は「予防」と同様に「早期発見」が重要ということです。

 自分の親が認知症になると本当に大変です。「介護」の時間的、金銭的な負担。そして、精神的なストレスも尋常ではありません。いつ終わるとも知れない認知症の「介護」は、「介護地獄」という言葉があるくらいの苦しみです。

 しかし、そのリスクは回避することができる。MCI、もしくは、認知症のできるだけ早期の段階で発見できれば、というのが条件です。

 認知症のひとつの型であるアルツハイマー病の場合、明らかに症状が現われて発病する20年も前から、徐々に脳内の病理的な変化は進行しています。つまり、認知症は「突然」なるものではなく、何年もかけて進行するものなのです。

 それゆえに、家族がきちんと観察していれば、認知症は早期に発見することが可能なのです。ほとんどの人は、記憶障害などがかなりひどくなってはじめて病院で受診しますが、それではもはや手遅れなのです。

 そこで、ここからは、「認知症を早期に発見する5つのポイント」について、解説します。

■その1 エピソード全体を忘れる

 認知症といえば、「物忘れ」の症状が顕著です。しかし、「名前を忘れる」「昔の出来事が思い出せない」などは、年を取れば誰にでも起き得ること。つまり、認知症に特異的な症状とはいえません。

 しかし、健常高齢者の「よくある物忘れ」と「認知症の物忘れ」には明確な違いがあります。認知症の場合、「エピソード全体を忘れる」ということです。

 たとえば、昼ご飯を食べたのに、「食べたっけ?」と言い出すとか、「何を食べたか思い出せない」と言うことは、健常高齢者でもあり得ることです。「食べたのはうどんですか?」などの質問によって、「いや、蕎麦だった」と思い出せれば、正常範囲。

「蕎麦を食べたでしょう」と教えてあげても、「いや、食べていない」と言い張る場合は、認知症が強く疑われます。

 ところで、「物忘れ」は認知症の主要な症状なのですが、「物忘れ」が強く出てくるのは、認知症を発症した後。進行しないと、はっきりとした「物忘れ」が現われない場合もあります。

 そのため、親の行動に「あれ、おかしいな?」と思うところがあっても、「物忘れはひどくないから」と様子見をしてしまう。つまり、「物忘れ」だけに注目すると、認知症を見逃す危険性があるので注意が必要です。そこで「物忘れ」以外の症状を観察することが重要になります。

おふくろの味で認知症を見分ける

■その2 料理の味つけがおかしい

 先日、札幌の実家に帰省して、母親(81歳)の作ったいなり寿司、巻き寿司を食べました。昔食べた「おふくろの味」と同じ味つけで、ホッとしました。認知症でないことを確認できたからです。

 認知症の場合、「味覚」の異常が、かなり早期に現われることがあります。醤油や塩を入れすぎて「しょっぱすぎる料理を作る」というのは、危険な徴候です。

 また、料理というのは、いくつかの工程を同時進行するなど、作業がとても複雑です。「手際よく作れなくなってきた」というのも、認知症の恐れがあります。また認知症になると、上手に作れないので、「料理をしなくなる」ことも多くなります。

 あるいは、「鍋を焦がす」ということもありがちです。それは、注意低下が進んでいる証拠です。

■その3 同じものをたくさん買う

 実家に帰省したときに、同じものをたくさん見つけることがあります。これは、危険な徴候です。親が買ったことを端から忘れて、新しいものをどんどん買っているのです。

 台所に未開封の醤油が5本もあるようなときは、親の認知症を疑ったほうがいいかもしれません。

■その4 道に迷う

 外出先で帰路がわからなくなり、自宅に戻れなくなった。これは、健常高齢者では、まずあり得ないことです。

「視空間失認」といって、場所の認識力が低下するのは、認知症の主要な特徴です。親が自分の家に帰ってこられなくなることが一度でもあったなら、精神科で診てもらうべきです。

 認知症の発症の過程を、患者本人の目線で描いた映画『ファーザー』。患者の役をきわめてリアルに演じた主演のアンソニー・ホプキンスは、アカデミー賞主演男優賞を受賞しました。

 本作の中で特徴的なのは、アンソニー演じる老父が「自分がどこにいるのか」わからなくなる描写です。「自宅」なのか、「娘の家」なのか、「病院」なのか。どこにいるかわからないから、混乱し、不安になる。時に、パニックに陥ります。

 入院したときに自分の病室に戻れなくなる、というのも「視空間失認」が疑われます。

■その5 とりつくろう

 前記のような「認知症が疑われる行動」が認められたとき、「最近、物忘れがひどくない?」とか「よく鍋を焦がすよね」と、本人に指摘してみます。

 すると「そんなことない!」と強く否定する。「たまたま、焦がしただけ」と、とりつくろう。いろいろと言い訳をする、無理に話題をそらす、怒り出す……などの徴候が見られると、やはり認知症の危険が迫っています。

 これを心理学では、「否認」といいます。本人は、「衰え」を自覚しているからこそ、それがバレないように、強く否定するのです。あるいは、正常であるかのように装います。

「最近、物忘れがひどくてね」と、自分から認める場合は、正常であることが多い。しかし、認知症を発病しつつある人の場合、「大丈夫、大丈夫」と何事もないことを強調します。そうするほど否認が強いわけで、認知症である確率は高いと予想されます。

――あなたのご両親に、以上の5つの徴候がいくつか見られた場合、「物忘れ外来」がある精神科で診てもらってください。MCIなのか、認知症なのかは、専門医が診察しないと、素人にはわかりません。繰り返しますが、「MCI」から「認知症」に進行してしまうと、元に戻らなくなるのです!

 そして、「おかしいな」と思ったときに、「様子を見る」という判断をしてはいけません。結果として、それがあなたの「介護地獄」への入口になるのです。

かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動

イラスト・浜本ひろし

(週刊FLASH 2021年7月27日・8月3日号)