5m超ミニバン!トヨタ新型「シエナ」なぜ日本で販売不可? 新型は並行輸入もダメな理由

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トヨタ最大級ミニバンの新型「シエナ」が日本で販売できない理由とは?

 トヨタが北米とアジアの一部(韓国や台湾)で全長5m超のミニバン「シエナ」を販売しています。
 
 以前までのモデルでは、並行輸入で日本に入ってきていたシエナですが2020年のフルモデルチェンジで4代目となった新型モデルは並行輸入が出来なくなっているといいます。何が理由なのでしょうか。

北米市場などで販売されているトヨタ最大級のミニバン「シエナ」(画像は4代目モデル)

 初代モデルは1997年、トヨタ「プレビア(エスティマの北米車名)」の後継モデルとしてアメリカで販売が始まりました。

【画像】デ、デカい! トヨタ最大級のミニバン「シエナ」をささっと見る!(31枚)

 2020年5月に4代目(2021年モデル)が発表され、北米ではホンダ「オデッセイ」と共に人気のミニバンとなっています。

 3代目まではガソリン車も選べましたが4代目からは全車2.5リッター直列4気筒エンジン+ハイブリッドシステムのみの設定となり、同時に発表されたトヨタ「ヴェンザ(北米版ハリアー)」と同じく、ガソリン車の選択肢がなくなりました。

 4代目となったシエナのシステム合計は243hpというハイパワーを発揮し、全車で最大3500ポンドの牽引に対応しつつ、北米トヨタの測定値では燃費が33MPG(14km/L)と発表されており、パワーと低燃費を両立したミニバンに生まれ変わりました。

 そんなシエナは、2020年モデル(3代目)までは並行輸入業者の手によって日本に持ち込まれ販売されていましたが、新型モデルの並行輸入は簡単にはいかないようです。

 なお、輸入車には大きく分けて「正規輸入」と「並行輸入」の2種類があり、正規輸入は海外自動車メーカーから日本のインポーター(正規輸入代理店やメーカーの日本法人)を通じて輸入する方法です。

 一方で海外の新車販売店などで購入したクルマを業者が独自に輸入することを並行輸入といいます。

 日本では中古車でも新車でも一定の基準を満たせば並行輸入車であっても登録が可能です。

 シエナも3代目まではアメリカ車や逆輸入車を扱う専門店によって、少数台数ながら並行輸入で販売されてきました。

 しかし、4代目となったシエナは未だ日本へ並行輸入された例は筆者(加藤久美子)が知る限りありません。

 その理由はどのようなことでしょうか。3代目までシエナを輸入販売していた業者は次のように説明します。

「全車ハイブリッドになったことが理由です。ハイブリッドのモーターを動かすバッテリー(駆動用)が日本の基準に合わないと聞いています」

※ ※ ※

 これはどういうことでしょうか。海外で販売されているトヨタ製ハイブリッド車でも、北米版「プリウス」は日本に並行輸入されています。

 また、シエナと同じタイミングで発表されたヴェンザも2020年12月には早くも並行輸入で持ち込まれ、日本で販売する業者も現れました。

 一般的に、アメリカからの並行輸入車の場合、FMVSS(アメリカの保安基準)の正しいラベルがあれば、日本の保安基準にも適合しているとみなされます。

 加えて、日本の排ガス検査や加速騒音検査などの基準を満たせば、ほぼ問題なく(一部例外アリ)日本のナンバーをつけることができます。ヴェンザもシエナも駆動用バッテリーは日本のメーカーが作っています。

なぜ、4代目シエナは並行輸入出来ないのか

 それでは、なぜ4代目だけが駆動用バッテリーを理由に輸入登録ができないのでしょうか。

 独立行政法人自動車技術総合機構(NALTEC)検査課に理由を聞いてみました。

「シエナは全車ハイブリッドとなったことで日本の保安基準を満たしているかの確認にはFMVSSのラベルのほかに、駆動用バッテリーの技術基準が関わってきます。

 日本では新たにEVやハイブリッド車を登録する場合、国連の協定規則UN/ECE R100-02という基準に適合していることが必須となります」

 このように、新型のハイブリッド車ではFMVSSのラベルだけではダメということのようです。

 その後、さらにNALTECに詳しく話を聞いたところ、2016年7月15日以降、バッテリー式電気自動車に係る協定規則100号第2部(R100-02)が採択され、新車型式登録をおこなう車両には再充電可能エネルギー貯蔵システム(REESS)に関する安全要求が義務付けられるようになったとのことです。

 協定規則に合致しているかどうかは、バッテリーやクルマの製造国ではなく、販売される国(仕向け地)がベースとなります。

 アメリカはUN/ECE の協定規則を採用する58協定の締約国ではないため、アメリカで販売されるハイブリッド車の場合、同じ型の車両が日本で販売されていない限り、並行輸入での登録は非常に困難になるようです。

 前述した北米版プリウスや北米版ヴェンザ(ハリアーと同構造)はすでに類似する型式の車両が日本で販売されているため、アメリカから並行輸入のハイブリッド専用車でも日本での登録が可能になるのです。

R100認定のための耐火性能試験(写真提供:JIMA)

 では、4代目が日本で登録される可能性はゼロなのでしょうか。

 EV普及活動を推進する一般社団法人JIMAは、国連協定規則UN/ECE R100-02の認定機関でもあり、小型EVを中心にこれまで数多くの認定をおこなってきました。

 JIMAの担当者は次のように説明しています。

「R100の認定はバッテリー単体での認定ではなく、BMS、BMUなどのコントロールユニット、ブレーカー、ヒューズ、ケーシングなど車載の状態でさまざまな試験をおこないます。

 耐火性の試験では実際にバッテリーに火を近づけて燃焼させるテストをおこないますのでR100をクリアして型式認定を取るとなると相当な費用が掛かるでしょう。

 ですが、新型シエナもR100の問題だけクリアすれば日本で登録が可能になります」

※ ※ ※

 日本で登録するハードルが高そうですが、可能性はゼロではないようです。

 ほかの可能性としては、北米で販売されるシエナにガソリン車が追加されるか、国連協定規則UN/ECEを採択しているEU圏内でシエナの正規販売がおこなわれれば、並行輸入のシエナであっても日本で登録される可能性が各段に高まることになります。

 もっとも理想的なのは、トヨタが日本でシエナそのもの、またはシエナと類似するミニバンを販売してくれることでしょう。

 同社のアルファード/ヴェルファイアよりも少し大きいミニバンですが、これらより大人しめのスタイリッシュなデザインでゆったりサイズのシエナは日本でも人気が出そうです。