かまいたち山内がお笑いに対して本気で向き合った出来事とは?
2017年キングオブコント優勝、2019年M-1グランプリ準優勝。今やテレビで見ない日はないといえるほどの活躍を見せているお笑いコンビ「かまいたち」。
そのボケ担当である山内健司さんは、2019年のM-1決勝戦前日、関西で5ステージをこなし、家に戻ると翌日の決勝の舞台でやるネタを1人でしつこいほど練習していた。完璧にできるかどうか、何度も試していた。
そんな勝負師としての姿を垣間見られるワンシーンから始まる山内さんの初めてのエッセイ『寝苦しい夜の猫』(扶桑社刊)は、M-1やキングオブコントのことをはじめ、コンビ、恋愛、家族、そして自分の半生をあますことなく書きつづった一冊。文章のテンポが良く、すらすらと読めてしまう。
新刊JP編集部は今回、そんな『寝苦しい夜の猫』について山内さんにzoomにてリモートインタビューを敢行。ここでは相方・濱家隆一さんのこと、お笑いに真剣に向き合った瞬間などについてお話をうかがった。
(構成・聞き手:金井元貴)
■かまいたち・山内がお笑いに対して本気になった瞬間とは
――NSC時代に今の相方である濱家さんと出会います。濱家さんの第一印象はどうでしたか?
山内:ほんまにチャラくて、面白くないのに威張っているという感じでした。芸人になる人って、性格は暗いけれどいつも面白いこと考えている人というイメージで、学校ではあまり目立ってないけど、面白いやつっていますよね。そういう人だと思っていたんです。逆に学校内で目立って人気者だったお調子者系は全員消えるだろうなと思っていて、その消えるだろうな系の代表格みたいな顔をしていたのが濱家です。
――この本でも「絶対に友達になりたくないタイプ」と書かれていましたよね。
山内:そうですね。仲良くはならないだろうなと思っていました。
――ただ、コンビを組むようになって、実際の濱家さんはどういう方に思いましたか?
山内:細かいところを最後まで詰めるタイプです。ネタの仕上げとかは特にそうで、僕はネタを書いて、ある程度直したら達成感を覚えて満足してしまうんですけど、濱家はさらにそこからもうひと伸びするところを考えたり、やっぱりいまいちだからやめようと捨てたりとか、そういうことができる人です。すごいですよね。
――山内さんがネタを考えるときって、どういう風に作られていくのですか?
山内:ネタを書くときは基本、日常で面白いなと思ったメモしたりしていて、その面白いと思った部分をどういうネタにすればいいのか考えていくような感じでやっています。
例えば、2019年のM-1決勝でやったUSJとUFJの言い間違いのネタは、間違えているのに認めない人っておもろいなというのがあって、それがどういうシチュエーションだったら面白いのか、これは漫才とコントどっちにすればそのネタがより面白くなるのかで仕分けていきました。
だから、まず核となる面白い部分があって、それを漫才でやった方が良いか、コントでやった方が良いか、どっちでやったら面白いのかを決めていくというような感じでやっていますね。
――漫才とコント、どちらの方が面白くなるのかで分ける。
山内:はい。UFJとUSJのネタだったら、言い間違いを認めないということをコントでやるよりも、いつもの山内と濱家がしゃべりだして僕の方が認めないという風にしたほうが人間性も出るし、(見ている人の)腹立つ加減も際立つんちゃうかなということで、漫才にしました。
キングオブコントで優勝した「告白」は、告白された時の練習をしているというネタなんですけど、これは漫才でやるよりも完全にその世界に入ったほうがより変なヤツ感が際立つだろうなというところでコントにしました。
だから、ネタによって漫才かコントかケース・バイ・ケースですね。どちらにすれば面白いと思う部分が際立つかで決めます。
――本書を読んでいて、山内さんの中でお笑いに向き合う覚悟が決まる瞬間がいくつかあるのが印象的でした。例えばスロットの台を譲ってもらうために男としての勝負をかけた瞬間、アルバイトで親指を痛めてスロットをやめたこと、決勝に行くための決意など、マインドチェンジをする瞬間があったんですよね。
山内:そうですね。その中でも自分にとって一番の転機は2015年のキングオブコント2回戦で落ちた時です。あのときははっきりとマインドが変わりました。そこがなかったら今の自分たちはないというか、こんなに伸びていなかったと思います。やっぱり痛い目みないとちゃんとしないんだなと。
――それは一つの挫折と言ってもいいでしょうか。
山内:そうかもしれません。それまでキングオブコントではずっと準決勝まで行っていて、準決勝いっていればなんとか芸人としてかっこつけられると思っていたので、そこで満足ではないけど「これでいいか」と思っていたんだと思います。
ただ、2015年のキングオブコントは2回戦で敗退してしまって、ものすごい焦燥感というか、やばい、落ち目中の落ち目やんっていう気持ちになったんですよ。そこからですね、変わったのは。めちゃくちゃ頑張りました。
――2回戦で敗退して焦燥感を覚えて、どういうところを変えていったのですか?
山内:面倒くさがりなので、それまではネタ合わせも最小限にとどめたり、ネタ作りもなあなあでやっていたんです。でも、次の年からはキングオブコントとM-1に向けて、ネタの練習量や打ち合わせ量、本番までの稽古量を比べ物にならないくらい増やしました。
あとは、賞レースへの挑み方がまったく変わりました。早めにキングオブコントでやるネタを決めて、それをテレビでは一切公開せず、舞台で毎回それをやりながら、ウケの弱いところをどんどん直していきましたし、2回戦はこのネタ、3回戦はこのネタと、順番も戦略的に決めて挑むようにしました。
――その変化の結果が2017年のキングオブコント優勝という形で結実します。
山内:そうですね。ただ、その翌年の2016年には決勝に進んでいましたし、歌ネタ王決定戦でも優勝したりしていたので、お笑いに対する向き合い方を変えた瞬間から劇的に変わったのだと思います。
だから、キングオブコントで初めて決勝に行った2016年は、ネタのクオリティもこれまでになく磨きましたし、実際に準決勝でのウケも良かったんですよ。ただ、決勝進出者の発表でなかなか自分たちの名前が呼ばれなくて、めちゃくちゃ腹立ってましたね。これで決勝行けないなんて考えられへんって感じで。最後の1組でようやく名前が呼ばれたんですが、それくらい自分たちを追い込んで、完璧なものに仕上げた手ごたえはありました。
――最後に、『寝苦しい夜の猫』をどんな本に読んでほしいとお考えですか?
山内:かまいたちのことに興味のある人はもちろん、M-1やキングオブコントといった賞レースやお笑い全般のことも書いていたりするので、お笑い好きな人も楽しんでもらえると思います。
また、最後までスラスラ読めちゃうように奇跡的に仕上がっているので、かまいたちやお笑いについてあまり興味がない人にも、ぜひ気軽な気持ちで手にとって読んでいただければと思います。
(了)
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そのボケ担当である山内健司さんは、2019年のM-1決勝戦前日、関西で5ステージをこなし、家に戻ると翌日の決勝の舞台でやるネタを1人でしつこいほど練習していた。完璧にできるかどうか、何度も試していた。
そんな勝負師としての姿を垣間見られるワンシーンから始まる山内さんの初めてのエッセイ『寝苦しい夜の猫』(扶桑社刊)は、M-1やキングオブコントのことをはじめ、コンビ、恋愛、家族、そして自分の半生をあますことなく書きつづった一冊。文章のテンポが良く、すらすらと読めてしまう。
(構成・聞き手:金井元貴)
■かまいたち・山内がお笑いに対して本気になった瞬間とは
――NSC時代に今の相方である濱家さんと出会います。濱家さんの第一印象はどうでしたか?
山内:ほんまにチャラくて、面白くないのに威張っているという感じでした。芸人になる人って、性格は暗いけれどいつも面白いこと考えている人というイメージで、学校ではあまり目立ってないけど、面白いやつっていますよね。そういう人だと思っていたんです。逆に学校内で目立って人気者だったお調子者系は全員消えるだろうなと思っていて、その消えるだろうな系の代表格みたいな顔をしていたのが濱家です。
――この本でも「絶対に友達になりたくないタイプ」と書かれていましたよね。
山内:そうですね。仲良くはならないだろうなと思っていました。
――ただ、コンビを組むようになって、実際の濱家さんはどういう方に思いましたか?
山内:細かいところを最後まで詰めるタイプです。ネタの仕上げとかは特にそうで、僕はネタを書いて、ある程度直したら達成感を覚えて満足してしまうんですけど、濱家はさらにそこからもうひと伸びするところを考えたり、やっぱりいまいちだからやめようと捨てたりとか、そういうことができる人です。すごいですよね。
――山内さんがネタを考えるときって、どういう風に作られていくのですか?
山内:ネタを書くときは基本、日常で面白いなと思ったメモしたりしていて、その面白いと思った部分をどういうネタにすればいいのか考えていくような感じでやっています。
例えば、2019年のM-1決勝でやったUSJとUFJの言い間違いのネタは、間違えているのに認めない人っておもろいなというのがあって、それがどういうシチュエーションだったら面白いのか、これは漫才とコントどっちにすればそのネタがより面白くなるのかで仕分けていきました。
だから、まず核となる面白い部分があって、それを漫才でやった方が良いか、コントでやった方が良いか、どっちでやったら面白いのかを決めていくというような感じでやっていますね。
――漫才とコント、どちらの方が面白くなるのかで分ける。
山内:はい。UFJとUSJのネタだったら、言い間違いを認めないということをコントでやるよりも、いつもの山内と濱家がしゃべりだして僕の方が認めないという風にしたほうが人間性も出るし、(見ている人の)腹立つ加減も際立つんちゃうかなということで、漫才にしました。
キングオブコントで優勝した「告白」は、告白された時の練習をしているというネタなんですけど、これは漫才でやるよりも完全にその世界に入ったほうがより変なヤツ感が際立つだろうなというところでコントにしました。
だから、ネタによって漫才かコントかケース・バイ・ケースですね。どちらにすれば面白いと思う部分が際立つかで決めます。
――本書を読んでいて、山内さんの中でお笑いに向き合う覚悟が決まる瞬間がいくつかあるのが印象的でした。例えばスロットの台を譲ってもらうために男としての勝負をかけた瞬間、アルバイトで親指を痛めてスロットをやめたこと、決勝に行くための決意など、マインドチェンジをする瞬間があったんですよね。
山内:そうですね。その中でも自分にとって一番の転機は2015年のキングオブコント2回戦で落ちた時です。あのときははっきりとマインドが変わりました。そこがなかったら今の自分たちはないというか、こんなに伸びていなかったと思います。やっぱり痛い目みないとちゃんとしないんだなと。
――それは一つの挫折と言ってもいいでしょうか。
山内:そうかもしれません。それまでキングオブコントではずっと準決勝まで行っていて、準決勝いっていればなんとか芸人としてかっこつけられると思っていたので、そこで満足ではないけど「これでいいか」と思っていたんだと思います。
ただ、2015年のキングオブコントは2回戦で敗退してしまって、ものすごい焦燥感というか、やばい、落ち目中の落ち目やんっていう気持ちになったんですよ。そこからですね、変わったのは。めちゃくちゃ頑張りました。
――2回戦で敗退して焦燥感を覚えて、どういうところを変えていったのですか?
山内:面倒くさがりなので、それまではネタ合わせも最小限にとどめたり、ネタ作りもなあなあでやっていたんです。でも、次の年からはキングオブコントとM-1に向けて、ネタの練習量や打ち合わせ量、本番までの稽古量を比べ物にならないくらい増やしました。
あとは、賞レースへの挑み方がまったく変わりました。早めにキングオブコントでやるネタを決めて、それをテレビでは一切公開せず、舞台で毎回それをやりながら、ウケの弱いところをどんどん直していきましたし、2回戦はこのネタ、3回戦はこのネタと、順番も戦略的に決めて挑むようにしました。
――その変化の結果が2017年のキングオブコント優勝という形で結実します。
山内:そうですね。ただ、その翌年の2016年には決勝に進んでいましたし、歌ネタ王決定戦でも優勝したりしていたので、お笑いに対する向き合い方を変えた瞬間から劇的に変わったのだと思います。
だから、キングオブコントで初めて決勝に行った2016年は、ネタのクオリティもこれまでになく磨きましたし、実際に準決勝でのウケも良かったんですよ。ただ、決勝進出者の発表でなかなか自分たちの名前が呼ばれなくて、めちゃくちゃ腹立ってましたね。これで決勝行けないなんて考えられへんって感じで。最後の1組でようやく名前が呼ばれたんですが、それくらい自分たちを追い込んで、完璧なものに仕上げた手ごたえはありました。
――最後に、『寝苦しい夜の猫』をどんな本に読んでほしいとお考えですか?
山内:かまいたちのことに興味のある人はもちろん、M-1やキングオブコントといった賞レースやお笑い全般のことも書いていたりするので、お笑い好きな人も楽しんでもらえると思います。
また、最後までスラスラ読めちゃうように奇跡的に仕上がっているので、かまいたちやお笑いについてあまり興味がない人にも、ぜひ気軽な気持ちで手にとって読んでいただければと思います。
(了)
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