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米国、中国、インド、欧州、東南アジア、そして日本――世界を代表する50社超の新興企業と、その革新を支える「技術」「ビジネスモデル」を網羅した決定版、『スタートアップとテクノロジーの世界地図』。
前回は、ジャック・マーと中国政府との関係悪化により、アント・グループの20兆円とも言われる巨額IPOが中止に追い込まれたことにふれましたが、そもそも中国での共産党と企業の関係はどのようなものなのでしょうか?

共産党が企業を支配するしくみ

 2018年、Alibabaのジャック・マー会長が共産党員であるという報道があった。彼の「政府と恋愛するのは良いが結婚はするな」という発言とのギャップの大きさが、中国国内でも話題になった出来事だ。

 中国共産党の党員は、2019年末時点で9191万人。総人口の6.5%ほどのエリート集団といえる。しかし、彼らが共産党の思想に賛同して入党したのかというと、必ずしもそうではない。そこに入ることができる者は、成功者というラベルが貼られたようなものだ。そのインセンティブ目当てに、中国共産党の党員になる人は少なくない。

 また日本ならば、ある程度の規模の企業であれば経団連に加入すべきとされているのと同様、国を代表する企業人になったのであれば、社会貢献として共産党に入るべきという風潮が中国にはある。

 企業トップが共産党員になる理由としては「党委」による企業統治をスムーズに進めるためという側面も大きい。中国では、学校や企業、住民委員会など、あらゆる組織で共産党委員会との二重体制をとることになっている。共産党員が3名以上いる組織は、「党委」と呼ばれる共産党委員会を設置しなければならない。その組織率は国有企業の9割超、民営企業でも5割超ほど。そして「党委」は人事も含めて企業の意思決定を左右する存在になっているため、書記を経営陣が兼ねることが多いのだ。これは当然、巨大化したスタートアップも例外ではない。

 このような理由から、中国企業の経営陣が共産党員であることに、過剰反応を示す必要はないと考えられる。

 しかしながら、中国において共産党の命令は絶対的なものだ。党がスタートアップ企業に対して持っているデータや情報を国や軍に提出せよと命令されれば、彼らは断ることはできないだろう。中国企業の製品を利用すると、自社のデータが中国で勝手に利用されるのではないか警戒心を抱く企業は少なくない。

 お弁当を詰めるロボットアームのようなものであれば、重要なデータが流出することもないだろうから、中国のスタートアップと組むのもよいだろう。しかし、5Gや医療、軍事などセンシティブな領域に関しては、中国企業との付き合い方を慎重に考えていく、というのは、日米安全保障の連携の観点からも当然の判断になるだろう。

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