ゆうちょ銀行の公式サイトでは、不正引き出し問題で確認を呼びかけている。

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NTTドコモの「ドコモ口座」を悪用した預貯金不正引き出し事件は、ドコモ口座以外のキャッシュレス決済サービスも不正引き出しの「踏み台」となっていたことが相次いで発覚。引き出された被害の規模が最も大きな金融機関は、ゆうちょ銀行であることも分かってきて、問題の本質は「ドコモ口座」から「ゆうちょ銀行」に移ってきた。

ゆうちょ銀行は口座をキャッシュレス決済サービスにひも付けている約550万人に対して、口座に不正な出金がないか確認を呼びかけたが、またしても日本郵政グループの企業体質が問われる事態となっている。

情報開示への姿勢

「少しでも早く公表すべきという点は反省しており、深くお詫びする」。ゆうちょ銀行の池田憲人社長は2020年9月24日に開いた記者会見で、同行口座からの不正引き出しに関する顧客からの申告が約380件、約6000万円に達することを明かして、公表の遅れを陳謝。さらに同30日には追加で約60件、約220万円の被害申告があったと発表した。預貯金口座を持つ人が知らないうちに口座とキャッシュレス決済サービスがひも付けられ、預貯金が不正に引き出される被害は、公表されている情報では、ゆうちょ銀行の口座が最大だ。しかも、ドコモ口座の被害が発覚した当初、ゆうちょ銀行は情報開示に消極的だった。

ゆうちょ銀行でドコモ口座以外にも同様の被害が起きていたことが公になったのは、同15日に高市早苗総務相(当時)が閣議後記者会見で明かしたのがきっかけだった。その4日前の同11日には、ゆうちょ銀行も含む日本郵政グループ4社のトップが記者会見して、不正販売問題を踏まえて自粛していた保険営業の再開を宣言していた。その場でゆうちょ銀行の池田社長は記者からの質問にドコモ口座以外の被害に言及することはなかったが、実はこの時点で総務省に被害を報告し、池田社長本人も把握していた。

「また郵政グループか...」

24日の記者会見で、11日にドコモ口座以外の被害に触れなかったことを問われた池田社長は「ドコモ口座に関する質問だったから」と驚くべき釈明をしている。

あきれるのは経営トップの対応に限らない。高市氏が被害を暴露した日の翌16日、あわてたゆうちょ銀行は記者会見を開いて、被害の状況を説明。同18日までに発表した被害額は137件、2205万円だった。ただこれは2020年1月以降のものに過ぎず、24日に発表された被害には、17年7月から19年末までの約150件が加わっていたのだ。このうち約50件は補償を済ませており、18日の時点で担当部署は把握していたものの、上層部に報告していなかったことになる。24日の記者会見で池田社長は「目詰まりがあった」と述べ、組織内の情報共有に問題があることを認めた。

都合が悪いことを現場が上司に報告しないという構図は、日本郵便とかんぽ生命で長く行われていた保険の不正販売の全容が明らかになるまで月日がかかったケースと似ている。情報セキュリティーに関する対応が甘かっただけではなく、企業統治(ガバナンス)にも課題が残ると改めて認識された日本郵政グループ。どこからか「また、郵政か」とあきれる声が聞こえてきそうだ。