なぜビジャレアルは久保建英を獲得したのか?番記者が明かす“プラン変更”の舞台裏「カソルラの後釜としてエメリが…」【現地発】
ビジャレアルのこの夏の最重要補強ポイントが、2019-20シーズン終了後に退団したサンティ・カソルラ(アル・サッドへ)の後釜探しだった。
百戦錬磨のMFは、35歳となった昨シーズンもビジャレアルの攻撃を力強く牽引。チーム2位の11得点、同トップの9アシストを記録したうえ、随一の局面打開力を示し、さらに攻撃を組み立てる役割も担った。
ただその役割があまりにも多岐に渡ったがゆえに同じレベルの幅広い働きができる選手は、いくら市場を物色してもそう簡単に見つかるものではない。資金にも限りがあるビジャレアルにとっては不可能なミッションと言ってよかった。
そこで首脳陣が捻り出した案が、中盤で攻撃の舵を取ることができる経験豊富なセントラルMFと、ラスト30メートルで局面を打開して相手の守備のバランスを崩し、得点もアシストもできる2列目のアタッカーの2枚獲りだ。
前者はダニ・パレホ(バレンシア)とホセ・カンパーニャ(レバンテ)、後者はオスカル・ロドリゲス(昨シーズンはレガネスに在籍。シーズン終了後にレンタル元のレアル・マドリーに復帰)を獲得候補としてリストアップした。
しかし、そうしたクラブが思い描いていた構想が急遽見直しを迫られる事態が起きた。ハビエル・カジェハからウナイ・エメリへの監督交代だ。とりわけ新指揮官が強く主張したのが、2列目の強化のための久保建英の獲得だった。
エメリが久保に抱いているイメージは、若い頃のカソルラ、あるいはバレンシア監督時代に指導したダビド・シルバ(マンチェスター・シティ)やファン・マヌエル・マタ(マンチェスター・ユナイテッド)といったプレーヤーだ。
2列目ならどこでもこなし、鋭いドリブルでラスト30メートルを切り裂き、自らフィニッシュにも絡む。エメリは久保の中に、オスカル・ロドリゲスを上回る局面打開力やコンビネーションで崩すスキルを見て取ったのだ。
エメリはこうした理由を列挙し、久保の獲得の必要性を訴えた。そしてフロントはその熱意に折れる形ですでにオファーを提示していたオスカル・ロドリゲスのオペレーションを棚上げにしてまで、久保のレンタル獲得に全力を注ぐこととなったのだ。
一方、マドリーもビジャレアルからのオファーに歓迎の意を示した。ビジャレアルは攻撃的なサッカーがアイデンティティーとして確立されており、記憶に新しいところでは久保と同じく2列目を本職にするアタッカーのデニス・スアレス(現セルタ)が15年夏に加入すると大活躍を見せ、1年後買い戻しオプションを保有していたバルセロナへの復帰を勝ち取っている。
加えて育成に力を入れるクラブとしても知られ、近年でもサムエル・チュクウェゼやパウ・トーレスら有望株がカンテラから次々と台頭している。
さらにビジャレアルの大きな魅力が、クラブ全体を包んでいるアットホームな雰囲気だ。人口5万人ほどの小さな街をホームタウンにしていることもあり、他のライバルクラブのように過度な重圧が選手たちに降りかかるようなことはない。こうした周囲を取り巻く環境が若手はもちろん、他の選手のパフォーマンスにもプラスに働き、ここのところ毎シーズンのように上位に顔を出し、すっかり欧州カップ戦の常連チームになっている。
そんななか、さらなる飛躍を期して、結果を残したカジェハを切ってまで招聘したのが国際舞台での経験も豊富なエメリだった。首脳陣にとっては大きな賭けであるわけだが、同じく成長を期す久保にとっても、自らが頭に描いていたマジョルカに続く移籍先の条件とビジャレアルのこうした特徴が合致し、最終的に新天地として選択することとなったのだ。
ビジャレアルが1年間のレンタルのために支払う金額は年俸も含めて総額500万ユーロ(約6億2500万円)。オスカル・ロドリゲスの獲得額は1000万ユーロ(約10億2500万円)前後と見積もっていたため、その半額で昨シーズンにラ・リーガでもっとも鮮烈な印象を残した選手のひとりを手に入れた計算になる。
もちろん1年後にはマドリーに戻ることになるが、逆に言えばそうした点を差し引いても、ビジャレアルにとって久保の獲得はメリットが大きかったと言える。
最後に起用法についてだが、エメリ監督は当面は左右両サイドを託す考えだ。前述のチュクウェゼに加え、ハビエル・オンティベロス、モイ・ゴメスといった選手が定位置争いのライバルとなる。
システムを昨シーズン当初、カジェハが採用していた4-2-3-1へと回帰するなら、トップ下としての出場も可能だ。レギュラー争いは横一線からのスタートだが、久保は使い勝手の良さも魅力で、チームが3つのコンペティション(ラ・リーガ、コパ・デル・レイ、ヨーロッパリーグ)を戦う中で、出番は増えていくに違いない。
文●ハビエル・マタ(アス紙ビジャレアル番)
翻訳●下村正幸
百戦錬磨のMFは、35歳となった昨シーズンもビジャレアルの攻撃を力強く牽引。チーム2位の11得点、同トップの9アシストを記録したうえ、随一の局面打開力を示し、さらに攻撃を組み立てる役割も担った。
ただその役割があまりにも多岐に渡ったがゆえに同じレベルの幅広い働きができる選手は、いくら市場を物色してもそう簡単に見つかるものではない。資金にも限りがあるビジャレアルにとっては不可能なミッションと言ってよかった。
前者はダニ・パレホ(バレンシア)とホセ・カンパーニャ(レバンテ)、後者はオスカル・ロドリゲス(昨シーズンはレガネスに在籍。シーズン終了後にレンタル元のレアル・マドリーに復帰)を獲得候補としてリストアップした。
しかし、そうしたクラブが思い描いていた構想が急遽見直しを迫られる事態が起きた。ハビエル・カジェハからウナイ・エメリへの監督交代だ。とりわけ新指揮官が強く主張したのが、2列目の強化のための久保建英の獲得だった。
エメリが久保に抱いているイメージは、若い頃のカソルラ、あるいはバレンシア監督時代に指導したダビド・シルバ(マンチェスター・シティ)やファン・マヌエル・マタ(マンチェスター・ユナイテッド)といったプレーヤーだ。
2列目ならどこでもこなし、鋭いドリブルでラスト30メートルを切り裂き、自らフィニッシュにも絡む。エメリは久保の中に、オスカル・ロドリゲスを上回る局面打開力やコンビネーションで崩すスキルを見て取ったのだ。
エメリはこうした理由を列挙し、久保の獲得の必要性を訴えた。そしてフロントはその熱意に折れる形ですでにオファーを提示していたオスカル・ロドリゲスのオペレーションを棚上げにしてまで、久保のレンタル獲得に全力を注ぐこととなったのだ。
一方、マドリーもビジャレアルからのオファーに歓迎の意を示した。ビジャレアルは攻撃的なサッカーがアイデンティティーとして確立されており、記憶に新しいところでは久保と同じく2列目を本職にするアタッカーのデニス・スアレス(現セルタ)が15年夏に加入すると大活躍を見せ、1年後買い戻しオプションを保有していたバルセロナへの復帰を勝ち取っている。
加えて育成に力を入れるクラブとしても知られ、近年でもサムエル・チュクウェゼやパウ・トーレスら有望株がカンテラから次々と台頭している。
さらにビジャレアルの大きな魅力が、クラブ全体を包んでいるアットホームな雰囲気だ。人口5万人ほどの小さな街をホームタウンにしていることもあり、他のライバルクラブのように過度な重圧が選手たちに降りかかるようなことはない。こうした周囲を取り巻く環境が若手はもちろん、他の選手のパフォーマンスにもプラスに働き、ここのところ毎シーズンのように上位に顔を出し、すっかり欧州カップ戦の常連チームになっている。
そんななか、さらなる飛躍を期して、結果を残したカジェハを切ってまで招聘したのが国際舞台での経験も豊富なエメリだった。首脳陣にとっては大きな賭けであるわけだが、同じく成長を期す久保にとっても、自らが頭に描いていたマジョルカに続く移籍先の条件とビジャレアルのこうした特徴が合致し、最終的に新天地として選択することとなったのだ。
ビジャレアルが1年間のレンタルのために支払う金額は年俸も含めて総額500万ユーロ(約6億2500万円)。オスカル・ロドリゲスの獲得額は1000万ユーロ(約10億2500万円)前後と見積もっていたため、その半額で昨シーズンにラ・リーガでもっとも鮮烈な印象を残した選手のひとりを手に入れた計算になる。
もちろん1年後にはマドリーに戻ることになるが、逆に言えばそうした点を差し引いても、ビジャレアルにとって久保の獲得はメリットが大きかったと言える。
最後に起用法についてだが、エメリ監督は当面は左右両サイドを託す考えだ。前述のチュクウェゼに加え、ハビエル・オンティベロス、モイ・ゴメスといった選手が定位置争いのライバルとなる。
システムを昨シーズン当初、カジェハが採用していた4-2-3-1へと回帰するなら、トップ下としての出場も可能だ。レギュラー争いは横一線からのスタートだが、久保は使い勝手の良さも魅力で、チームが3つのコンペティション(ラ・リーガ、コパ・デル・レイ、ヨーロッパリーグ)を戦う中で、出番は増えていくに違いない。
文●ハビエル・マタ(アス紙ビジャレアル番)
翻訳●下村正幸