コンビニも時短営業をテスト、24時間営業は続く(2019年3月、時事)

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 先日、ファミリーレストランの「ガスト」や「バーミヤン」を展開するすかいらーくホールディングス(東京都武蔵野市)が、新型コロナウイルス感染症によるライフスタイルの変化を理由に7月から、深夜営業を取りやめることを発表しました。「サイゼリヤ」や「ロイヤルホスト」がすでに24時間営業を廃止した一方で、多くのコンビニエンスストアやファストフード店で、24時間営業が行われています。

 しかし、深夜に働く人や夜通し起きている人は一定数いるものの、深夜は一般的に、人の動きが止まる時間帯です。日中のように大勢の客が訪れる可能性は低く、お店を開けていることによる費用対効果はよくないように思います。今後も24時間営業のお店は必要なのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

1975年、24時間営業のコンビニが登場

Q.なぜ、24時間営業のお店は生まれたのですか。日本では、いつ生まれてどのように広がり、現在に至っているのでしょうか。

大庭さん「24時間営業のお店が生まれた最大の理由は、営業時間を長くすることで1日の売り上げを増やすためです。また、消費者に対し、『いつ行っても店が開いている』という安心感を与えることで、来店頻度を高めることも狙いでした。

24時間営業の先駆けは、コンビニエンスストアです。この店舗形態はアメリカで誕生し、1970年代に入ってから日本でも広まり始めました。日本では当初、午前7時から午後11時までというように時間を限定した営業でしたが、1975年、業界最大手のセブン―イレブンが福島県内に24時間営業の店を出店し、以降、24時間営業の店が主流となりました」

Q.深夜の時間帯は、日中のように大勢のお客がお店に訪れる可能性は低いと思います。お店を開けていることによる費用対効果はどうなのでしょうか。

大庭さん「費用対効果は、悪くなるといえます。深夜は日中よりも来店客数が減少するほか、1人当たりの客単価が向上するわけでもないので、1時間当たりの売り上げは日中よりも減少します。経費も、店の内外の明るさを保たなければならないので、電気代が日中よりも高くなります。

アルバイトなどの従業員を配置するときにも、防犯の観点から原則複数人を配置する必要性があることや、時給や月給に深夜の割り増しが必要となることから、人件費も高くなってしまいます」

Q.費用対効果が悪くなるのに、コンビニやファストフードの24時間営業は現在でも行われています。なぜ、24時間営業にこだわるのでしょうか。

大庭さん「4つの理由があると思います。

1つ目は『経営効率が向上するため』です。24時間営業を365日続けるためには、商品や原材料などの定期的な配送、商品の補充陳列、原材料の補充などが必要になります。深夜は道路がすいているため配送効率がよく、来店客が少ない深夜に、店員が商品や原材料の補充を行うことで経営効率が向上します。店内清掃も深夜に行うことで効率性を得られます。

2つ目は『本部の収益を増加させるため』です。フランチャイズ制を導入している場合、一般的に本部は、店の売り上げから仕入れや原材料などの原価を引いた粗利益に対してロイヤルティー(フランチャイズの加盟店が本部に毎月支払うお金)を設定しているため、総売上高の増加に伴い、本部のロイヤルティー収入も増加します。

3つ目は『ブランド維持のため』です。24時間営業を行っているというのはチェーン店としての特徴であり、それによるブランド効果が生じています。24時間営業をやめることで、他店との差別的要素がなくなり、ブランド低下による集客の減少につながる懸念があります。

4つ目は『社会的インフラ維持のため』です。24時間営業で店を開けていることで、『いつでも好きなときに買いに行ける』という安心感を地域社会に与えていた側面もあり、それに対する影響も無視できません。

24時間営業が行われているのは、単純に『費用対効果が悪い』という目先の損得勘定だけでは測れない要素があるのです」

Q.世の中の24時間営業のお店に対するニーズは、以前と比べてどうなっているのでしょうか。変化しているのであれば、どのように変化していますか。

大庭さん「21世紀になり、国民のライフスタイルの多様化が定着したことで、深夜や早朝の消費を必要とするニーズも一定程度存在しています。半面、今後の日本社会の環境変化に大きな影響を与える要因として、『働き方改革』と『高齢化の進展』があります。

働き方改革が世の中に浸透したことで、長時間働く労働者の数が減り、そのことが深夜や早朝の消費に対するニーズの減少につながっています。加えて、高齢化が進展していることも、深夜や早朝の消費に対するニーズの減少に直結します。

このような変化に加えて、例えば、人手不足によるコンビニエンスストアの店舗オーナーの窮状が表面化したことで、多くの国民の中に『お店を24時間も営業する必要はないのではないか?』という意識が高まり、24時間営業の廃止に理解を示すようになっています」

Q.では今後、24時間営業のお店は必要なくなるということでしょうか。

大庭さん「24時間営業のお店が必要なくなるとは思いません。確かに、人手不足や働き方改革の観点から、世の中全体で24時間営業をやめる店が増えています。この流れは短期的に見た場合、加速するものと思われます。

しかし、今後、デジタル化への対応が進み、無人での対応が可能な領域が拡大した場合、再び24時間営業の店の数が増えることも想定されます。国民のライフスタイルの多様化がさらに進展することで、深夜や早朝の消費を必要とするニーズも存在し続けるからです。特に、ライフスタイルの多様化が定着した都市部では今後も、24時間営業の店が必要とされ続けるのではないかと思います」