「着けてるだけでシックスパック!」は可能なのか

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連載「骨格筋評論家・バズーカ岡田の『最強の筋肉ゼミ』36限目」

「THE ANSWER」の連載「骨格筋評論家・バズーカ岡田の『最強の筋肉ゼミ』」。現役ボディビルダーであり、「バズーカ岡田」の異名でメディアでも活躍する岡田隆氏(日体大准教授)が日本の男女の“ボディメイクの悩み”に熱くお答えする。36限目のお題は「EMS器具の効果」について

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 Q.EMS器具でマッチョになれますか? 「着けてるだけでシックスパック!」と謳うCM、もう何年もよく見ているけど、EMSの器具は本当に効果がありますか? 刺激は感じるけど、いまひとつのような……。

 EMSとは電気刺激で筋肉の収縮運動を強制的に繰り返し、筋肉を刺激する技術です。元々はボディメイクではなく、リハビリテーションの領域で用いられていました。筋肉は神経損傷などで使えないことで小さくなったり(廃用性筋萎縮)、使わないことで弱くなったり(廃用性筋力低下)します。これを電気刺激で抑えよう、というのがリハビリでEMSが使用される理由です。

 私は理学療法士ですので、EMSの筋肉に対する効果はもちろん、わかってはいます。しかし、あくまでもリハビリの領域での話。果たしてボディメイクにどれほどの効果があるのかと、以前は半信半疑でした。

 でも、安心してください。腹筋を鍛える効果はあります。

 実は仕事で腹筋用のEMSトレーニング器具に携わる機会があり、実験を組み、被験者のデータにも目を通し、また自分でも体験しました。まず、EMS器具を8週間程度使用した被験者のデータをみると、筋肉が厚く成長し、また体脂肪が多い人であればウエストサイズも実際に減る可能性があります。そして、もう一度いいますが(笑)、半信半疑で自分自身で巻いてみたところ、私でも筋肉がギューッと収縮し、筋トレのようになっていることを感じられました。EMS器具は電気の刺激で無理矢理、筋肉に収縮を起こしますが、腹筋をギューッと掴まれるような感覚があれば、筋肉が力を出力している証です。

EMS器具にある2つの良さ、「技術不要」と「ながら刺激」

 EMS器具の良い点は2つあります。1つ目は腹筋運動の技術がいらない点。

 腹筋には腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋があります。皆さん、腹筋運動さえやれば腹は鍛えられると思いがちですが、自重トレーニングでこれらの筋肉に狙いを定め、鍛え上げるには、確実に刺激を入れるための技術も必要です。また隣接する股関節の関与が大きくなりやすく、実はターゲットを的確に刺激できていないトレーニング愛好家も多くいます。

 例えば、力こぶにあたる上腕二頭筋を鍛えるとします。上腕二頭筋は長頭と短頭の2つに分かれているため、本当はそれぞれに刺激を入れないと、狙った形通りに筋肉をつけるのは難しい。漫然とダンベルを上げ下げしているだけでは、最大限の刺激が入りにくいんですね。もちろん、鍛えられないことはないのですが、効果を感じるまでの時間がものすごくかかってしまいますし、最悪の場合、狙っていない形になってしまいます。

 頑張って腹筋を続けてもなかなか結果が出ないという人は、実は動きの精度が低く、狙った部位に大して刺激が入っていなかった、という場合が非常に多い。筋トレで効果を出すためには筋肉一つ一つに向き合うことで動きの技術を磨き、その精度を上げることがとても大切なのです。

 でも、一般的にはなかなかそこまで筋トレに向き合えないし、そもそも、筋肉と対話する大切さには気づけない。腹筋運動は、誰でも家でできる筋トレの代名詞ですから、誰もそこまで探求しないでしょう(笑)。でも、EMS器具なら、誰がやっても確実に刺激できる。つまり、筋肉の知識や筋トレの技術がなくても効果的に鍛えられると言えます。

 2つ目は、いわゆる「ながら」で刺激できる点です。今言ったように筋トレの効果を最大化するには、動きの精度が大切。つまり鍛えたい筋肉やそれをしっかり伸縮させる動きに意識を集中することが不可欠です。でも、多くの人は毎日が忙しく、鍛えたくても筋トレのためだけに時間を割き、心身と向き合う余裕なんてない。その点、EMS器具なら装着するだけで、仕事をしながら、テレビを見ながらでも筋トレのような効果が得られますから、活用した方がいいと思います。

誰しもがEMS器具で鍛えられるわけではない

 しかし、残念ながら誰しもがEMS器具で鍛えられるわけではありません。

 特にこれまで、ある程度のトレーニングを積んできた人には、おそらく期待するような変化は起こらないでしょう。やはり、技術の高いガチの腹筋運動を上回る刺激は入らないと思います。

 これはEMS器具に限らずですが、いつまでも体脂肪が落ち続けたり、筋肉が増え続けたりする方法なんてありません。筋肉が成長を続けるには、常に「プラス1」の刺激が必要です。例え100キロのバーベルを持ち上げても、体が慣れてしまえば筋肉の成長は止まりますからね。重量を上げる、回数を上げる、違う種目にトライする必要がある事と同じです。

 ということで、EMS器具はトレーニング経験のない方が鍛えたい時の、最初の一歩としてはすごくいいと思います。むしろ、初心者は結果が出やすいので、体の変化からモチベーションも上がるでしょう。それを機に、プラス1を意識して、新たなトレーニングに進んでくれたら最高です。

 ただし、これだけで“マッチョ”になるのは難しい。EMSから始めて、筋肉のレベルが少し上がったら、別の運動や食事を組み合わせて、シックスパックを目指してください!(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビューや健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌などで編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(共に中野ジェームズ修一著、サンマーク出版)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、サンマーク出版)、『カチコチ体が10秒でみるみるやわらかくなるストレッチ』(永井峻著、高橋書店)など。

岡田 隆
1980年、愛知県生まれ。日体大准教授、柔道全日本男子チーム体力強化部門長、理学療法士。16年リオデジャネイロ五輪では、柔道7階級のメダル制覇に貢献。大学で教鞭を執りつつ、骨格筋評論家として「バズーカ岡田」の異名でテレビ、雑誌などメディアでも活躍。トレーニング科学からボディメーク、健康、ダイエットなど幅広いテーマで情報を発信する。また、現役ボディビルダーでもあり、2016年に日本社会人ボディビル選手権大会で優勝。「つけたいところに最速で筋肉をつける技術」「HIIT 体脂肪が落ちる最強トレーニング」(ともにサンマーク出版)他、著書多数。「バズーカ岡田」公式サイトでメディア情報他、日々の活動を掲載している。