金正恩(キム・ジョンウン)氏

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北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は今年9月29日、1面に「電気の節約こそ、電気の生産である」という記事を掲載した。

記事はまず「塵も積もれば山となると、すべての単位、すべての家庭で電気節約闘争を力強く繰り広げ、1ワットの電気も節約すれば、厳しい電力問題を解決するのに、大きな助けになるだろう」という金正恩党委員長の言葉を紹介し、「10%節約することは、10%生産することより経済的効果が大きい」と説いている。

また、「新たな火力発電所を建設し、石炭を生産、保障する炭鉱と鉄道を開設したり、水力発電所を作るには多くの資金と労働力、長い期間が求められる」としつつ、省エネなら短期間で成果が出る上に新規投資も要らないなどと主張し、「1ワットの電気も大切に使うよう努力する人が、こんにちの真の愛国者だ」としている。

この記事以外でも、「電気の節約」で検索すると11月には9本、10月には10本、9月には14本、合計で33本の記事が掲載されている。うち、1面への掲載は8本だ。

ここまで電気の節約が強調されているのは、それだけ電気が足りないからだ。

北朝鮮の電力需要量は800万キロワットと言われているが、生産電力は380万キロワットにも満たない。その上、国際社会の制裁で原油の調達が難しくなり、火力発電所の稼働に支障をきたしていると伝えられている。制裁で輸出ができなくなった石炭を国内の発電所に回していたが、外貨不足で炭鉱の操業が不安定となり、それも厳しくなった。

当局が省エネキャンペーンの一環として行っているのは、電気を規定量以上に使った国営企業を「さらし者」にすることだ。

平安南道のデイリーNK内部情報筋によると、朝鮮労働党平安南道委員会が行っている放送が、電力を超過使用した企業と個人の実名を挙げて批判した。この放送は、北朝鮮国民の自宅に備え付けられたスピーカーから流れる有線ラジオ「第3放送」と思われる。

批判されたのは、順川(スンチョン)製薬工場、牡丹峰(モランボン)時計工場、平城(ピョンソン)愛国革工場、鳳鶴(ポンハク)総合食糧工場などだ。基準を超えた電気を使った工場の責任者は解任された上で、労働鍛錬隊(軽犯罪者を収容する刑務所)送りにされたという。労働鍛練隊は人権侵害が横行する北朝鮮の収容施設の中では環境がマシな方だが、それでも日本の基準で見れば強制収容所にも等しい。

(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態

この吊し上げに対しては、疑問の声が上がっている。というのも、順川製薬工場と牡丹峰時計工場は、施設の老朽化と電力不足で数年前から生産量が急減、まともに稼働ができていないと言われている。それなのに無駄使い企業として糾弾されたのは、「見せしめにされたのではないか」ということだ。

この放送は「電気の節約を実務の問題と考えるな」として、節約は朝鮮労働党の政策で、異論は許さず、是が非でも貫徹せよということだ。しかし、まともに稼働している工場の場合、もし電力が必要以上に制限されたとすると、生産量が減少してしまうため、電力使用の統制は困難ではないかと見られている。

ほかにも、「生活が苦しいのに電気をこれまで以上に節約しろと言われると、いっそう負担が大きい」との嘆きが聞こえてくるとのことだ。「金持ちならソーラーパネルを設置して自家発電するだろうが、懐事情の寂しい人にはそれすら難しい」として不満の声が上がっている。

当局は、太陽光発電所の建設を進めていると宣伝しているが、昨今の外貨不足で計画通りに進められるかは疑問だ。