マルセイユ守備陣でひろり気を吐いた酒井。 (C) Getty Images

写真拡大

 5人の主力を欠いたオリンピック・マルセイユは現地時間4日夜、敵地アミアンで手痛い敗北を喫した。1−3で敗れたアウェーチームにおいて、ゴールを決めたダリオ・ベネデットと並んで奮戦したのが、本職ではない左SBで起用された酒井宏樹だ。

 この日の中継局は地元局の『Canal+Sport』。ゲスト解説には、元フランス代表アタッカーのシドネー・ゴブが招かれた。心地よい声と穏やかな口調で、的を射た解説をする人気上昇中のコメンテーターは、試合の序盤で見せた酒井の守備について、こう評した。

「サカイが見事に救いましたね。敵の攻撃のコースをきっちり防ぎました。これが非常に大切なんです。サイドバックをプレーしている若い選手たちは、このサカイのプレーをお手本にして学ぶといいと思います。実はなかなかできないプレーなんですが、サカイは素早く身体を入れ、しっかりとコースを消しています」

“手本”となるシーンは33分にも訪れた。アミアンの左サイドアタッカーを務めたフェルネイ・オテロに、マルセイユのヴァレール・ジェルマンとブナ・サールが受け持つ右サイドを突破された。並行して中央と右サイドからも攻め上がられ、マルセイユのCBペアは完全に置いていかれる形となった。

 計3人の敵アタッカーがGKステーブ・マンダンダの守るゴールに迫る。アミアンにすれば、そのまま左から持ち込んでも、もしくはクロスを送り込んでも1点という絶好のチャンスだった。

 だが、酒井がいた。

 日本代表DFは驚異的な走力でゴール前に駆け戻り、クロスを先読みしてコースを塞ぐ。そして読み通りに送り込まれたクロスをクリアし、チームの危機を救ったのだった。文字通り”決定的”な守備だった。

 実況アナも「またサカイが救いました。2度目です!」とゴブに同調した。総崩れのマルセイユの守備陣の、酒井はまさに救世主的存在だった。

 しかもこの後、攻撃面でも輝くのだ。ゲームメーカーが不在の状況を打開すべく、酒井は左サイドから果敢にアミアンを崩しにかかり、絶好のクロスをゴール前に上げたうえ(75分、ブナ・サールが打ち損ねた)、81分には自身もシュートを放ったが、相手の足に当たって防がれた。
 試合後の討論番組『L’EQUIPE DU SOIR』では、マルセイユのアンドレ・ヴィラス・ボアス監督が、試合後の会見で「攻撃を組み立てられなかった」と悔いていたことを取り上げ、「問題は守備の方だろうに!」とコメンテーターたちが盛り上がりを見せていた。

 そのうち、辛口アナリストのジル・ファバール氏は、「話にならない」と手厳しくマルセイユの選手たちを切って捨てた。ところが「サカイは?」と聞かれると、「彼は自分の仕事をした」と語ってニンマリし、珍しく批判しなかったのだ。

 討論を仕切る番組創設者で、フランス・フットボール界に大きな影響力をもつオリビエ・メナール氏も、採点コーナーで酒井を取り上げられなかったことを悔やむかのように、「今日はサカイもよかった」と念押ししていた。

 一夜明けた5日の『L’EQUIPE』紙は、完敗したマルセイユの採点表でベネデットと酒井にのみ「6」をつけ、「アルゼンチン人アタッカーは、サカイとともに、昨日の試合で高いレベルを見せつけた数少ない選手だった」と評した。試合に勝利していれば、評価は「7」に繰り上がっていたことだろう。

 故障者や出場停止の続出で、昨シーズンと似たような状況に陥っているマルセイユ。酒井自身も怪我に見舞われ、新監督の下で戸惑っている感もあった。だがこの試合を観る限り、ファンから愛されているヒロキ・サカイは健在だ。今後も決定的な守備でチームを救いながら、チャンスがあれば攻撃でも結果を残したいところだ。

文●結城麻里
text by Marie YUUKI