サウジアラビアの石油施設が無人機の攻撃を受け、生産量の半分に影響。原油価格が急騰している(写真:AP/アフロ)

サウジアラビア東部の石油生産設備が9月14日、無人機(ドローン)の攻撃を受けたことで原油価格が急騰している。

ニューヨークの原油先物価格WTIは13日の1バレル54.85ドルから約15%上昇し、16日には同62.9ドルへ急騰した。

折しも米中貿易摩擦などによる世界経済の減速懸念が出ており、原油価格の上昇が世界経済にどのような影響を及ぼすのか、不透明な展開が続きそうだ。

日本の原油輸入の4割をサウジに依存

サウジの国営石油会社サウジアラムコによれば、今回の攻撃によって日量570万バレルの石油供給が停止したという。中東最大の産油国であるサウジの生産量は日量約1000万バレルにのぼる。その半分以上の生産力が一時的にせよ失われるとなれば、その影響がいかに大きいかがわかるだろう。


原油輸入量の約4割をサウジ産原油に依存する日本にとっても由々しき事態だ。

経済産業省は17日、対策本部を設置し、IEA(国際エネルギー機関)や関係国と連携して供給量を確保する方針だ。今のところ、各国の戦略備蓄等を活用すれば、原油供給がすぐさま逼迫するとは考えにくい。

しかし、当面は原油価格の値動きに地政学リスクが織り込まれることは確実と言えそうだ。仮に原油高が続けば、ガソリン価格はもちろん、さまざまな石油製品価格を押し上げることになる。

ドローン攻撃を受けたのは、サウジ東部に位置するアブカイク、クライスの石油生産設備だ。特にアブカイクはサウジ最大の石油埋蔵量を誇るガワール油田から産出された原油の前処理を行っている。クライス油田もサウジ有数の油田の1つで、攻撃されたのはまさにサウジ原油生産拠点の中核といえる。


これだけ重要な石油生産設備への攻撃を許したことは世界中に衝撃を与えた。ある石油業界関係者は「サウジには防衛能力がないのではないかとマーケットは不安を感じている」と話す。というのは、これまでサウジの防衛体制は一定程度評価されていたからだ。

消えぬサウジの石油関連設備への脅威

実は、アブカイクが攻撃を受けるのはこれが初めてではない。2006年にもアルカイダによる自爆テロの標的となったが、設備が被害を受けるには至らなかった。しかし、今回は万全の警備体制を敷いているはずだった設備で大規模な被害を受けた。

今回はどこから攻撃が行われたのかなど、攻撃の実態はいまだによくわかっていない。14日の攻撃を行ったと宣言しているイエメンの武装組織「フーシ派」はサウジの石油関連設備への攻撃を継続する考えで、脅威が収まる気配は見えない。

サウジは同国南部に隣接するイエメンに2015年から武力介入している。イランに近いフーシ派がイエメン全土を掌握するのを阻止するためで、対するフーシ派もサウジに繰り返し反撃。2019年5月にはサウジの石油パイプライン設備、8月には同国のシェイバー油田への攻撃が行われた。

焦点となっているのがフーシ派を支援するイランが今回の攻撃にどう関与したのかだ。今月下旬にはニューヨークで国連総会開催を控える中、攻撃は行われた。国連総会に合わせてアメリカのトランプ大統領とイランのロウハニ大統領の会談が模索されていた。

イランに対して強硬姿勢だったとされるジョン・ボルトン大統領補佐官が解任されたこともあり、アメリカとイランの関係改善へ何らかの動きがあるとの観測もあった。しかし、今回の攻撃によりいったんそうした機運は立ち消えになった。ロウハニ大統領はイランの関与を否定しているが、アメリカ側はイラン関与の可能性を示唆している。

日本貿易振興機構・アジア経済研究所の福田安志・上席主任調査研究員は「(攻撃によって)イラン革命防衛隊がアメリカとイランが関係を改善することを阻止しようとした可能性もある」と指摘する。

サウジアラムコの株式公開も当面延期に

一方、石油設備を攻撃されて威信を傷つけられたサウジ政府は国連などに対して現地調査を求める考えだ。同国政府は「攻撃にはイラン製兵器が使われた」と主張しており、イランへの反発が高まっている。

国内政治を主導するムハンマド・ビン・サルマーン皇太子(MBS)にとっても、フーシ派に関わる方策を誤れば、「皇太子の権力基盤が揺らぎかねない」(日本エネルギー経済研究所中東研究センターの保坂修司・副センター長)。2014年に国防大臣に就任したサルマーン皇太子にとって、「最初の大きな仕事がイエメンへの軍事介入だった」(同)からだ。

サウジ政府は公式にはアブカイクの復旧見通しなどについて明示していないが、一部報道によれば数カ月かかるとされる。そのため、予定されていたサウジアラムコの新規株式公開(IPO)も当面難しくなった。

サルマーン皇太子は2016年4月に策定した経済改革計画「ビジョン2030」でサウジ経済の石油依存型からの脱却を掲げ、そのためにアラムコのIPOによって得られた資金を活用するとしていた。今回の事件はサウジ経済の改革プランも大きく狂わせることになるかもしれない。