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ジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之さんから性暴力被害にあったとして慰謝料など1100万円の損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論が7月8日、東京地裁(鈴木昭洋裁判長)で開かれた。

伊藤さんと山口さんの尋問が実施され、伊藤さんは「やめて、痛いと伝えてもやめてくれなかった」と訴え、山口さんは「同意はあった」と話し、双方の主張は対立した。

午前から昼休憩を挟み、午後にまたがる形で2時間近く行われた山口さんの代理人弁護士による伊藤さんの尋問。

山口さんの代理人が「強姦被害にあった人が、加害者に安否を気遣う言葉を発することはありえますか。一般社会の常識ではありえない」と問いかけると、伊藤さんは「私の知っている常識はあなたの常識とは違います」と答えた。<原告側の代理人弁護士による伊藤さんの尋問の記事はこちら>

●被告側から伊藤さんに対する尋問

(弁)は山口さんの代理人弁護士、(伊)は伊藤詩織さん、(裁)は裁判官。

<伊藤さんが警察に訴えた内容について>

(弁)伊藤さんの著作である『BlackBox』(文藝春秋)、真実でなければ名誉毀損になるが、全て真実という主張か(伊)はい

(弁)『BlackBox』のP.71で「準強姦にあったかもしれない」と友人に話したという記述があるが、強姦と準強姦の違いは知っていたか。違いの説明を(伊)準強姦は飲酒やドラッグ精神的に抵抗できない状態で性交をすること。強姦は意識のある人にレイプするという認識

(弁)高輪署に告訴事実をどう告訴したか(伊)準強姦

(弁)なぜ強姦ではなかったのか(伊)私の判断ではなく捜査員

(弁)体を押さえつけられて窒息しそうになった。それでも準強姦と言ったのか(伊)はい

(弁)朝に目覚めた時の暴行でも準強姦といったのか(伊)はい

(弁)訴状では、4月4日の午前5時ごろ、伊藤さんが意識を失っているのに乗じて性行為を行ったこと、また、4日午前5時ごろ意識を取り戻し、性行為をやめるように求めた後も、性行為を続けようとした、と主張している。(今回の裁判で)準強姦と強姦とで区別する理由は(伊)私の認識では合意があった時点で酩酊していたかどうかのスタート。膝の被害はもみ合いの時のことではっきり言えないので、私の中で準強姦被害と分けて申告した覚えはないし、一連の出来事として申告した

(弁)強姦も準強姦も性的自由を侵害されたことに対する罪。強姦に絞らず、両建て(どちらも申告)する理由は(原告側の代理人弁護士から異議)法律構成を原告本人に聞く意味がない

(弁)同じ時間帯のこと、わざわざ分けて書いている(原告側の代理人弁護士から異議)時間帯は同じかもしれないけど、行為は2つ

(弁)準強姦は想像でしか物を言えないのに対し、強姦は認識した事実を訴えられたはず。わざわざ準強姦も主張する意味は(伊)捜査員には何があったか全て伝えた

(弁)意識に基づいて主張するだけでは足りないのか(伊)私が話しているのは、下腹部の痛みで目が覚めたどこかの時点で起きてからの話

(弁)被害にあった人にとっては、強姦は意識のある状況なので、そちらの方が深刻ではないか(原告側の代理人弁護士から異議)「法律議論は相応しくはない」

(弁)わざわざ付け足した主張をするのは、お酒にだらしなかったという醜態を隠すために付け足したのではないか(伊)どちらの方が重いか、誰にも評価できない。自分が意図せずコントロールされることは恐怖です

(弁)デートレイプドラッグは卑劣なやり方。冤罪と思っている加害者に対してもダメージが大きいことはわかるか(伊)もう一度お願いします(弁)時間がないので次に行きます

<病院での医師とのやりとり>

(弁)医者が性交渉の時間帯を偽る(偽ってカルテに書いた)理由は(伊)わかりません

(弁)カルテでは4月4日、午前2〜3時ごろにコンドームが破れたとある(伊)(医師に対してそのようなことは)一切答えていない。

<『BlackBox』の記述について>

(弁)山口さんから相談をうけて『BlackBox』を読んだが、論理矛盾がある。(伊藤さんの)弁護士から変だと指摘はなかったか(伊)なかった

(弁)『BlackBox』のP.3で「もし犯行時、被害者に意識がなかったら、(略)事件を起訴するには高いハードルがある。私のケースがそうだったように」とある。あなたは意識があったじゃないですか(伊)目覚めてからはありました

(弁)準強姦と言った理由は(伊)(行為が)始まるところで意識がなかった

(弁)あなたの場合、最初は意識がなかった主張をしているけど、途中から意識が起きた(戻った)。起訴は容易ではないのか(伊)それはわかりません

<伊藤さんが山口さんに送ったメールについて>

(弁)(事件の後)最初に送ったメールの内容は(伊)「無事ワシントンに戻られましたでしょうか?」とビザについて尋ねる内容

(弁)強姦被害にあった人が、加害者に安否を気遣う言葉を発することはありえますか。一般社会の常識ではありえない(伊)一般社会の常識とは

(弁)日本の常識です(伊)私の知っている常識はあなたの常識とは違います

(弁)強姦加害者のところで働きたいと思うか(伊)混乱していたけど、何もないように振る舞うようにした(弁)2日も経っていたのに混乱していたんですか

<友人に話した内容について>

(弁)友人にどんな暴行をしたと訴えているか(伊)当時の話をするのが辛いです

(弁)胸の出血やあざは、看護師である友人に訴えたのか。看護師だから身体所見を見ると思うけど見ましたか(伊)温泉に言ったり仲がいいけど、自分の友人でも外出先で見せようとは思いません

(弁)友人2人に「準強姦にあったかもしれない」と話している(伊)断定的に話すのではなく、言葉の運びで、疑問ではなく伝え方として、話の切り口としてそう使った(弁)その程度の心証だと、寝ている間に準強姦だと心的外傷を受けることはないですよね

(弁)高輪署には傷害被害を訴えているか(伊)はい

(弁)本当に訴えたか(伊)はい

(弁)警察は強姦致傷として受理するのでは(伊)傷や痛みのことは話した

<デートレイプドラッグについて>

(弁)『BlackBox』にデートレイプドラッグを印象付ける書き方をしている(伊)確証はしていませんが、そう思っているという話

(弁)『BlackBox』のP.66に「インターネットでアメリカのサイトを検索して見ると、デートレイプドラッグを入れられた場合に起きる記憶障害や吐き気の症状は、自分の身に起きたことと、驚くほど一致していた」とあるが、裏付ける客観証拠は何もない。ドラッグを使うには事前に用意しておかなければできず、計画的な犯行が必要だ。なぜそうしたドラッグを使うのかご存知か(伊)性交渉するという意図があって使う

(弁)ターゲットとした女性に強姦できないと思うからこそ使うんじゃないのか(原告側の代理人弁護士から異議)「意見を求めており、相当じゃない」(裁)「質問を変えてください」

(弁)世間はそういう理解だがあなたは(伊)わかりません

(弁)人の出入りのある高級ホテルはバレやすいので、犯行にふさわしい場所ではないと思う(伊)私は答えられません

(弁)ほとんど酒を飲んでいなかったとすると、薬物による催眠作用で眠らされたということか(伊)はい。ほとんど酒を飲んでいなかったのではなく、酔っ払っていなかった

(弁)デートレイプドラッグについて、一般的には15分から30分で効果が出て、3〜6時間ほど持続するという文献がある。催眠効果で気を失ったとすると、失ったままではないのか(伊)薬の効果は人それぞれ。他の文献では他の時間を指摘するものもあった。3〜6時間に限らないと思う

(弁)催眠効果が出たとしたら、あなたが店内を歩いたり話したりできないのではないか(伊)それは間違っている。レイプドラッグの作用は、催眠だけではなく、普通に振舞ってもその間記憶がないこともある。催眠=ずっと眠っているのではない

<タクシーからホテルの部屋に行くまで>

(弁)歩くこともできず抱えられていたという映像はあるか(伊)はい(弁)タクシーを降りた映像をコマ送りした写真。力なく引きずられている状態とは言えないのではないか(伊)コマでの写真なのでわからない。映像ですでに出ています

<暴行の態様について>

(弁)友人に初告白した時に、どんな暴行を受けたと述べたか(原告側の代理人弁護士から異議)「重複を避けて」(裁)「前半の尋問で聞いている」 

(弁)どのようにすれば膝の怪我が起きるのか(伊)被告から行為を続けられないよう、必死に膝を閉じて体を硬くして行為を続けられないようにしていた

(弁)ベッドの上で膝が擦れることはないよね(伊)その時は必死に命の危険を争っているので説明できない

(弁)それでも強姦致傷と言わなかったのか(伊)どの時点で膝を負傷したかはっきり言えなかった

<被害直後に助けを求めたかについて>

(弁)一旦トイレに逃げ込み鍵をかけた際、フロントに助けを求めなかったのか    (伊)裸では考えなかった

(弁)暴行を受けているとわかったんでしょう     (伊)なんの犯罪かわからなかった。すぐに尊敬していた被告がこのようなことをすると考えなられなかった。混乱していた

(弁)(バスルームの)目の前に電話があった     (伊)覚えていない

(弁)アメニティの詳細について供述していて電話が目に入るはず      (伊)覚えていない

(弁)強姦被害を受けている認識がなかったからこそ、被害を言わなかったのではないですか      (伊)友人に話した時が初めて

(弁)ホテルを出るときもホテルに助けを求めなかったのか      (伊)今でも後悔しているけど、安全なところに逃げる一心で外に出た

<ホテルで服を探していた時のことについて>

(弁)ホテルは狭く、服を探すほどの空間がないのでは   (伊)バラバラに置いてあった

(弁)なぜブラウスが濡れているか男性に尋ねたよね   (伊)覚えていない。なぜ濡れているのか、答えをもらっていないので、言葉は出たかもしれないけど、ゲロを吐いて山口さんが洗ったという説明は受けていない

(弁)準強姦をしてブラウスを脱がせてハンガーにかける、そんな犯人いると思うか   (伊)体験したことなのでわかりません

(弁)強姦加害者から渡されたTシャツを着ることに心理的な抵抗感はなかったか  (伊)一刻も早く出たいという一心でとっさに渡されたものを身につけた

(弁)もらうまでもなく逃げればいいんじゃないの  (伊)借りた思いはない。気持ち悪かったので

(弁)強姦被害にあったら、濡れていても、キャミソールとカーディガン、その上にコートを羽織ればよく、犯罪者のTシャツを着る理由ないでしょう      (伊)その時はそう感じなかった

<会見や出版など、被害を公にした理由>

(弁)会見の目的は  (伊)今後同じことが起こらないように話した

(弁)『BlackBox』P.222で「私が会見をしたのは、今後彼女(妹)や私の大事な人たちを、私と同じような目に遭わせたくないという気持ちに尽きる」とある。会見をするとどうして犯罪を予防できるのか  (伊)このようなことはメディアでは(これまで)取り上げられなかった  (弁)そうでしょうか

(弁)なぜ出版したのか  (伊)話をもらっていたが、仕事に戻りたく本のオファーは断っていた。文藝春秋から「繰り返し話していることもメディアでは一部しか語れない、あなたの言葉で話す必要がある」と言われた。性暴力や法的システムを変え、(性被害を)オープンに話せる社会にしたい

(弁)どうして法的システムが、議論されない限り変わらないのか  (伊)こうしたことが語られない現実があり、語ることが難しい風潮から語れるように、助けを求められるように書いた

(弁)オープンに話せない犯罪だからこそ、処罰根拠になると思う  (弁)加害者の実名まで出す必要は  (伊)2年間試行錯誤して、(匿名では)できなかったので、全てオープンにした

●裁判官による尋問

原告側と被告側それぞれの代理人からの尋問後、裁判官による尋問があった。裁判官は伊藤さんのお酒の強さや、当日飲んだお酒の量などについて尋ねた。

(裁)2015年当時、お酒を飲む頻度は  (伊)週3〜4日

(裁)どのくらいお酒が飲めたか  (伊)友人とワインボトル3本を開けることもあった

(裁)様々なお酒を飲むとより酔いやすかったか  (伊)違う種類のお酒を混ぜて飲むと普通よりも酔いやすくなる

(裁)寿司屋では日本酒をどのくらい飲んだか  (伊)山口さんは2合まで頼んでいたが、自分がどのくらい飲んだかわからない。半々なので1合くらいだと思う。3合目を頼むところまで記憶している

(裁)2015年7月3日の夜から4日朝まで、嘔吐の記憶は  (伊)ありません

(裁)これまで一番酔った時はどうなったか  (伊)嘔吐した

(裁)右膝の痛みを最初に意識したのは  (伊)5日に友人と食事するために、2階のレストランへの階段を上り降りしたとき

(裁)4日の早朝に痛みは  (伊)認識していない

(裁)寿司屋での山口さんとの会話は  (伊)山口さんは自身が書いた記事について集中して降り、大将と長く話していたのでうなずく程度だった。(伊藤さんについて)「いい評判を聞いているよ」とは言われた

(裁)プライベートの話は  (伊)恵比寿駅から歩いているときに、どこに住んでいるのか聞かれて駅名を答えたが、それ以上はしていない