後継者不在で、廃業する会社が増えているというニュースを見聞きしたことはありませんか? 実際のところ、廃業は増えています。どれぐらいの会社が毎年廃業しているのか、東京商工リサーチの発表によると、年間の廃業数は4万社ほどのようです。

 ただ、この数字が実態に合っているかは疑問です。廃業する会社の中には、法務局や裁判所への手続きをしていないところもあるからです。会社としての箱は残っているけれど中身がない、事実上の廃業というケースです。調査機関はきっとすべてを拾い上げられないので、実際の廃業数はもっと多いでしょう。

 経済産業省は、2017年に「127万社もの会社が廃業予備軍になっている」というデータを発表し、世間に衝撃を与えました。日本には約380万の中小企業があり、社長の平均年齢は66歳へと高齢化しています。「もうすぐ社長が引退を迎えるが、後継者が決まっていない会社」というフィルターをかけると、127万社が抽出されるようです。

 この数字は日本の会社全体の約3分の1にあたります。これらの会社が本当に廃業となれば、その影響で失われる雇用やGDPの損失はとても大きなものになるでしょう。

 ひとまず、たくさんの会社が廃業の危機を迎えていて、それが日本全体にとっても大きな問題であることは、ご理解いただけると思います。それでも、まだあなたにとっては他人ごとかもしれません。「127万社が消えてなくなったところで、自分の人生にはなにも影響はない」と。

 そこで私は、新しい視点をお届けしたいと思います。
 これだけたくさんの会社に後継者がいません。だったら、あなたが買い取ってあげてもよくないですか?

 今の日本には「あなたが手に入れられる可能性のある会社」が、127万社もあるのです。こんな時代はこれまでありませんでした。過去を遡っても、自分の事業を持てる人間はごく一部の限られた者だけだったはずです。それが時代の変化に伴い、会社のバーゲンセールとも言える状況が始まっています。

 次の世代に会社を引き継がせる取り組みは、事業承継と呼ばれています。その中でも、第三者の個人がその会社の中に入って新たな経営者となるタイプは「継業」と呼ばれることがあります。私がみなさんにおすすめしているのも、この継業にあたります。

 ただし、従来の事業承継や継業という言葉には、先代主導なイメージがありました。先代社長がやってきたことを、そのまま引き継がされるという受け身なニュアンスです。こちらに選択肢はほとんどなく、投資的な視点も欠如していました。

 しかし、後継者が成功しようと思えば、主体的に時代に合わせてやり方を変える発想が必要です。ビジネスとして数字を捉える面も大切です。そこで、単なる事業承継や継業ではなく、起業や投資という意味まで含めた「継業スタートアップ」という言葉が適切です。

 継業スタートアップは、先代のオーナー社長がやってきた事業を柔軟に引き受け、加工や改善していくことを前提にしている点で、これまでの事業承継の概念とは異なります。

 また「時間を金で買う」考え方に代表されるような、効率と金ばかりに主眼を置いて、企業が企業を買収するM&Aとも違った意味合いを持ちます。

 継業スタートアップを成功させることは、日本社会が抱える最も重大な問題である大廃業時代の解決に貢献することになります。

 社会貢献やボランティアを強要するわけではありません。でも、継業スタートアップを手掛ければ、勝手に大きなメリットを世の中に提供してしまいます。

 後継者がいないことによる廃業増加は、地域経済を空洞化させます。雇用が失われ、その会社をあてにしていた顧客を困らせることにもなります。こんなマイナスを回避し、プラスをもたらすポテンシャルを継業スタートアップは秘めています。

 分業で成り立っていた地場産業などでは、一部の作業を担う会社の廃業により、製品づくりに支障をきたすケースも出ています。ある焼き物の産地では、器の表面にかける釉薬(ゆうやく)の業者がなくなってしまったため、そこの土地で製品づくりを完結させられなくなってしまったと聞きました。

 つい最近では、「痛くない注射針」で有名な岡野工業が廃業を発表しました。社長の高齢化と後継者不在が理由のようです。そのまま会社がなくなってしまうことになると、蚊の針と同サイズという驚異的な細さで針を作る素晴らしい技術が途絶えることになります。

 継業スタートアップの活性化は、こうした産業の再構築や技術の消失防止にも貢献できるのです。

 私は、「失われた30年」などと称される日本経済の低迷の大きな要因のひとつには中小企業の停滞があると思っています。

 ただずっと同じやり方を続けてきた。新たなチャレンジや工夫は乏しく、イノベーションを生んでいない。指揮を執るトップは長期間同じ人間が務め、年齢を重ねてエネルギーや柔軟性の衰えを隠せなくなった。これが、多くの中小企業に対して有する私の感覚です。

 それぞれの会社の規模は小さくても、日本の企業のほとんどを占めるのは中小企業です。その中小企業が活性化しなければ、日本経済が浮上することはないように思います。

 継業スタートアップの世界には、あなたが活躍できるフィールドが持て余すほどあります。このまま大企業の一構成員として終わるか。はたまた、メインプレーヤーとして躍り出るか。
 新たな選択肢がここにあります。

 以上、奥村聡氏の新刊『0円で会社を買って、死ぬまで年収1000万円 個人でできる「事業買収」入門』(光文社新書)をもとに再構成しました。個人でも用意できる金額で会社を買い、社長として成長させるための秘訣を伝授します。

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