正月はなんとなくいつも晴れている気がするが、それは勘違いではなかった(写真:まちゃー/PIXTA)

あけましておめでとうございます。お正月はどのようにお過ごしですか?1年の始まりに、初日の出を拝んだり、初詣に出かけたりする人もいることでしょう。そこで気になるのが、お正月天気です。

……が、そこまで天気についてやきもきする人は少ないのではないでしょうか。なぜなら、なんだかんだいって、毎年晴れているような気がするから。

そうなのです。冬は、太平洋側は晴れやすい季節です。本当に晴れやすいのか、実際に気象庁ホームページにあるデータベースを使って調べてみました。

52年間で晴れ、また快晴の日は86日

1967〜2018年の52年間で、1月1〜3日のアメダスの「東京」の昼間(6〜18時)の天気を調べたところ、晴れ、または快晴の日が86日と、過半数を占めることがわかりました。「晴れ一時曇り」などを入れれば、さらにこの数字は大きくなります。

しかも、この52年間の平均雲量は約4.03。雲量とは、空全体の中で雲がどの程度の割合を占めるのかを0〜10の数字であらわしたものです。0または1が「快晴」、2〜8が「晴れ」と定義されています。曇りや雨だった年も入れた平均値なのですから、雲が少ないということがよくわかります。

それでは、名古屋はどうでしょうか。同様に、1967〜2018年の52年間で、1月1〜3日のアメダスの昼間(6〜18時)の天気を調べたところ、「名古屋」では晴れまたは快晴の日が69日、平均雲量は約5.63となりました。東京に比べれば晴れの日は少ない印象はありますが、それでも雲の量は少ないです。

やはり、太平洋側は晴れやすいのですね。と、ここまで書くと、日本海側にお住いの方から反論が来ることでしょう。「そんなことはない。冬はほとんど晴れないよ」と。

というわけで、同様にアメダスの「新潟」ではどうなのかも調べてみました。こちらは、52年間の1/1〜1/3では「快晴」の日はゼロ、「晴れ」の日はたったの7日。「晴れ時々〇〇」や「晴れ一時〇〇」「晴れのち〇〇」を入れても全部で23日です。

平均雲量も約8.98。東京や名古屋と比べて、いかに晴れの日が少ないかがよくわかります。そういえば、昔学校で気候区分について習ったことを覚えている人もいるかもしれません。太平洋側は、「太平洋岸式気候」と呼ばれる気候区分に属しており、夏の降水量が多く、冬の降水量が少ないのが特徴です。その一方で、日本海側は「日本海岸式気候」で、夏より冬の降水量が多いのが特徴です。

どうしてこのような気候の違いがあるのでしょうか。

「シベリア高気圧」の正体

日本の冬の気候を作る原因となるのが、冬に発生してシベリア付近に居座る「シベリア高気圧」です。このシベリア高気圧は、-40℃近くにもなる冷たく乾燥した空気でできています。冬はシベリアのような高緯度地方では、太陽から受け取る熱よりも、地球から宇宙に向かって逃げる熱のほうが特に多くなります。だから気温が低くなるのです。

しかも、大陸は海と比べて熱しやすく冷めやすい性質を持つため、冬になると地表付近がキンキンに冷えます。すると、その地面と接する空気も非常に冷たくなるのです。冷たい空気は重いため、気圧が高くなります。これがシベリア高気圧の正体です。

冬は西にシベリア高気圧があり、東に発達した低気圧が存在することがよくあります。これが「西高東低の気圧配置」と呼ばれ、典型的な冬型の気圧配置となります。このような気圧配置のとき、天気図を見ると日本付近では同じ気圧を結んだ等圧線が縦縞模様になっています。


(出典:気象庁HP)

風は気圧の高いところから低いところに向かって、等圧線を横切るような形で吹く性質があります。そして、等圧線が狭くなればなるほど風は強くなります。ですから、ちょうどシベリア高気圧から日本に向かって強い風が吹きます。これが冬の季節風です。こういう天気図のときは、風がとても冷たいので、外に出るのが億劫なものです。

シベリア高気圧を構成する空気は、もともとは冷たくて乾燥しているのですが、そこから吹く風が日本海を渡るときに、日本海からの水蒸気をたくさん吸収して湿った風になります。
シベリア高気圧を構成する空気は約-40℃ですが、日本海の水温は十数℃程度。つまり、温度差は約50℃です。冬の海というと泳ぐには寒そうですが、シベリア高気圧からの風にとっては、日本海はお風呂のような存在なのです。

こうして湿った季節風は筋状の雲を発生させます。これが日本列島を縦断する山脈にぶつかると、雪を降らせるのです。日本海側が冬にすっきりと晴れない理由、そして日本海側の山間部が豪雪地帯になるのはこういう理由です。

さて、この湿った季節風は、日本海側の山間部で雪を降らせると再び乾燥した空気に戻ります。そして、山を越えて太平洋側に吹き降りるのです。いわゆる「空っ風」です。乾燥している空気なので、太平洋側は晴れることが多いというわけです。

なお、日本海側に大雪をもたらす雲は積乱雲です。積乱雲というのは雷雲という別名もありますが、その名の通り雷をもたらします。ですから、日本海側では冬によく雷が鳴ります。冬の雷をもたらす積乱雲は、夏の積乱雲よりも背が低いうえ、落雷数も少ないのが特徴です。こう書くとたいした雷ではなさそうですが、そのかわりいざ落雷したときの雷のエネルギーはすさまじく、夏の雷の100倍以上になることもあります。

日本は中緯度なのに世界で類を見ないほど雪が深く積もります。しかも、冬の雷というのも世界ではほかにノルウェーの西海岸や北アメリカの五大湖や東海岸くらいでしか観測されない非常に珍しい現象だといわれています。大陸付近にありながら海に囲まれているという日本だからこそ、このような珍しい現象が発生するのでしょうね。

「冬型の気圧配置」とは

ちなみに、太平洋側で雪が降るときは、この「西高東低の気圧配置」とは違った気圧配置の場合です。ちょうど日本列島の太平洋側の沿岸部をなめるように移動する「南岸低気圧」が通過すると雪が降ることがあるのです。

この南岸低気圧は、どちらかというと冬から春にかけての季節に日本列島を通過しやすくなります。しかし、南岸低気圧が通過しても、必ずしも雪が降るとは限りません。雨になるのか雪になるのかは、寒気の強さや低気圧の発達の度合いなどの要素が複雑に絡み合って決まるからです。

特に関東地方ではさほど寒くないため、南岸低気圧が通過しても雪ではなく雨になることは珍しくありません。ホワイトクリスマスになることはめったになく、雪が降るのは寒さがピークを迎える1月であることがほとんどです。(念のため気象庁のデータベースを使って1967〜2018年の52年間で、12月24日のアメダスの「東京」の夜間(18〜翌6時)の天気を調べたところ、「雪」の日は1日もありませんでした。そして「名古屋」の同期間を調べると、1日だけ「一時雪」がありました)

さて、このような冬型の気圧配置というのは、日によって緩む日はあるものの、だいたい毎日続きます。ですから、似たような天気が続きます。

当然、天気予報も当たりやすくなります。気象庁の降水の有無の予報の的中率は、冬の関東甲信越地方で90%、東海地方で86%、北陸地方でも85%と非常に高いのが特徴です。


(出典:気象庁HP)

そう考えると、やはり「太平洋側に住んでいる人にとっては」と前置きがつきますが、「正月は晴れる気がする」のは、決して気のせいではない、ということがいえるわけです。