いまや夫婦共働きは当たり前だが、その反動なのか、「専業主婦願望」を持つ人も少なくない。ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔さんは「正社員で共働きの夫婦なら生涯で6億円稼ぐことができるのに、専業主婦になってしまうとそれは実現できない。結婚を考えるときから『共働き』について話し合っておくべきだ」とアドバイスする――。

※本稿は、山崎俊輔『共働き夫婦 お金の教科書』(プレジデント社)の第3章の一部を再編集したものです。

■「共働きで2倍稼いで2倍楽しいことをしよう」

あなたが男性で、これから彼女に「結婚しよう」と告げるとき、間違っても「家庭に入ってくれ」と言うべきではありません。

山崎俊輔(著)『共働き夫婦 お金の教科書―2人で働き続ければ生涯6億円が得られる』(プレジデント社)

共働きを続ければ2人で4〜5億円以上稼ぎ、退職金や年金の権利も含めればさらに1億円以上を上積みできます。そうした可能性を捨ててまで、彼女を幸せにできると考えるのは無理があるからです。

次に、彼女が結婚退職を希望しているかどうかを探ります。交際期間中にさりげなく話題にしておくのがいいでしょう。「このまま付き合っていけば結婚することになると思うけど……」という雰囲気を出しつつ話題を振れば、相手も自分の考えを披露してくれるでしょう。

「結婚退職するつもりはない」とはっきり言ってくれる女性なら、あなたにとって一緒に稼いで2人の夢や幸せを実現するパートナーになり得ると思います。ぜひ後日のプロポーズでゴールを勝ち取ってください。

さりげなくヒアリングして「結婚退職したい」と言われたときは悩みどころです。相手が理想として語っているのか、本気で言っているのかにもよるので、本音を探ってみましょう。「現実としては無理かもだけど、できれば寿退職したいなー」ぐらいであれば、説得できるかもしれません。

■結婚退職をすると、生涯賃金が「億」単位で減る

しかし本気で結婚退職を希望しているのであれば、プロポーズ本番前に軌道修正しておいたほうがいいと思います。

「結婚退職しちゃうと、今みたいにおいしいところでご飯を食べたり、旅行できなくなっちゃうよ」
「ぼく一人の年収で2人分のやりくりになるから、おこづかいも今の半分以下になっちゃうよ(服や化粧品も自由に買えなくなるよ)」

といった事実をさりげなく指摘し、共働きを続けたほうが2倍幸せになれるんだ、というような理解を求めていくことをおすすめします。どうしても寿退職を主張して譲らない彼女であった場合は、別の相手を探すことも一考していいと思います。それくらい、共働きでない生き方は2人の未来に重い十字架を背負わせることでもあるのです。

■寿退社→専業主婦が「得をしない」3つの理由

ここまでは男性目線で書いてきましたが、女性目線で考えても、寿退職で得られる満足(仕事のストレスからの解放)と、新たに生じるストレス(自由に使えるお金が一生減る)と、さらに経済的不利益があること(生涯賃金は下がり、産休・育休の給付はもらえず将来の年金額も下がる)を天秤にかければ、お得な選択肢ではないと思います。この話、もう少し詳しく解説してみましょう。

なぜ、「結婚も出産も退職事由としては考えない」ことが女性にとっても夫婦にとっても重要なのでしょうか。マネープランとして考えたとき、大きく3つの理由があげられます。

【寿退社が得をしない3つの理由】

1.明らかに生涯賃金格差が大きい。
結婚して退職し、専業主婦となれば、正社員と比べ生涯賃金で2億円、派遣社員となれば正社員と比べ1億円くらいの格差が生じ、老後(年金など)の資産格差も数千万円以上になるおそれがある。

2.一度離職すると復職に苦労する。
産休・育休期間からの復職は法律で保障されているが、離職後の就職活動は必ずしも正社員で戻れるとは限らない。

3.離職ではなく産休・育休を取得すれば、各種給付を受けられる。
産休期間は自分の健保から、育休期間からは自分の雇用保険から、給付金を受けられるが、専業主婦になるとその対象とならない(復職までの期間にもよるが、子供1人で給付は数百万円規模になることもある)。

■一度離職すると正社員としての復職が難しくなる

まず「明らかに生涯賃金格差が大きい」点について確認すると、大卒女性が正社員として働く場合の生涯賃金は2億4000万円ほどあります。賃金以外にも退職金を多くもらえたり、厚生年金額が増えたりすることなどを考えると、セカンドライフにおいて4000万円ほどの差がつくと見込まれます。税金や保育料を引かれても、子育てしながら正社員でがんばる価値は絶対にあるのです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/andriano_cz)

次に「一度離職すると復職に苦労する」点があげられます。ある調査では、専業主婦である女性の多くが、正社員としての雇用を希望しながら、パートや非正規の形で働いている現状をデータで示しています。これはたった一度の離職が、その後の復職の大きなハードルとなることを表しています。

しかし、産休・育休から復職する女性の雇用を会社側は拒んではいけないことが法律で決まっています。また産休・育休を理由として解雇することも禁じられています。復職後にいきなり配置転換するような意地悪をしたり、育休を理由に評価を下げたりするようなことも禁止されています。

もともと日本の会社員は解雇されにくい立場にあり、自分から「寿退職」や「おめでた退職」を申し出ない限り、女性の働く権利は手厚く保護されています。今、正社員で働いている女性がこの制度を利用しない手はありません。

■離婚する際も経済的に自立する「会社員」のほうが有利

3つ目は、「離職ではなく産休・育休を取得すれば、各種給付を受けられる」点です。産休期間は休職開始前の賃金の3分の2を、育休期間は最初の半年は3分の2、それ以降は復職まで2分の1相当の賃金がもらえます。これは健康保険の被保険者(保険料を納めて保険証をもらう本人のこと)、雇用保険の被保険者(会社に雇用されている人)だけが得られる権利です。

専業主婦やフリーランスの立場で妊娠と出産をする場合と比べると、これらの給付金だけで考えても数百万円の差になります。保活の面でも正社員の育休とフリーランスの休業中では入りやすさが違います。

結婚する前に離婚を考える人はいませんが、離婚を考えるときも会社員のほうが有利です。自分が仕事をしていて稼ぎがある場合、「生活ができないので離婚せずガマンする」という選択をしなくて済むからです。

いずれにしても、女性が結婚に際して共働きを続ける選択をすることは、夫婦のマネープランを生涯にわたって力強いものとする第一歩であり、踏み外してはいけない必須の選択肢なのです。

■年収1000万円でも「家事ができない男」は選ぶな

男性にお伝えしておきたいことは、プロポーズのテクニックだけではありません。彼女に共働きという道を選んでもらう以上は、男性も家事をしなければいけないということです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Vasyl Dolmatov)

共働きをして女性もあなたと同様の仕事をしているのに、「夕食を作るのはいつも妻の仕事」とか、「洗濯物は妻に担当してもらう、だって自分はできないから」というのはおかしな話です。共働きをして、夫婦どちらの収入も世帯の生活資金として暮らしていくのですから、家事についても夫婦で一緒に担当していくのは当たり前です。

一人暮らし経験がある男性の場合、洗濯や掃除、料理などそれなりにこなせる人のほうが多いと思いますが、実家暮らしの人は要注意です。花嫁修業として家事や料理を学ぶ女性がいるように、男性も結婚前に家事や料理に慣れておくくらいの気持ちを持ちたいものです。また、家事を担当することは、ひいては子育てを担当することも意味します。イクメンも男性の必須課題ですが、家事ができない人は育児もできないと考えておきましょう。

女性に対して言っておくなら、「家事がまったくできない男」は結婚相手として要注意です。彼の年収が1000万円であってもダメです。共働きをすれば、あなたが苦労するばかりになるでしょう。男性が家事をできるタイプかどうか、交際中から探っておくべきです。

(ファイナンシャルプランナー 山崎 俊輔 写真=iStock.com)