今回で3度目の日本開催となる、アドバタイジングウィークアジア2018(Advertising Week Asia 2018:AWAsia 2018)が、本日14日より六本木の東京ミッドタウンにて開催されている。その最大の目玉のひとつが、同イベントにおける一番最初のセッション「グローバル基調講演シリーズ:CEO’s Talk 水島正幸 Meets 山本敏博」だ。

電通(山本氏)・博報堂(水島氏)の現CEOがステージ上で相まみえる本セッションは、AWAsiaによると、「広告業界初」。いまや広告だけでなく、それを中心としたさまざまな分野に多大な影響力を及ばす両社のトップ対談に、モデレーターを努めたAWAsiaのプロデューサー、笠松良彦氏(イグナイト代表)も緊張の色を見せる。また、聴衆の注目度も高く、午前9:35からというやや早めの開始ながら、会場もほぼ満席状態だった。

本記事では、そんな歴史的セッションの内容を全文書き起こしでご紹介。読みやすさのため、多少編集してある。

それぞれの経歴は?



笠松良彦氏(以下、笠松):まずは、そもそも入社された理由と配属先について、教えていただけますか?

山本敏博氏(以下、山本):いまの学生と違い、いい加減な就活でした。僕が電通に入社したのが1981年。若い人はご存じないかもしれないが、そのころはモラトリアム人間の時代と言われていて、自分自身モラトリアムな感じでした。つまり、社会人になる時期をずらしたいという気分を持っていた。その結果、広告業界に入ったんです。もちろん入ってみれば、モラトリアムでもなんでもない仕事だったんですが。しかし、いま40年近くを振り返ると、意外に広告はモラトリアムだと思っています。広告業界はそういう大人になりたくないという部分がある。ちなみに電通を選んだのは、博報堂の試験に落ちたから(笑)。

最初の配属先は、テレビです。日本テレビさん、読売テレビさん、中京テレビさんという日テレ系と、東・阪・名の放送局を担当するというところからスタートしました。

水島正幸氏(以下、水島):私が博報堂に入社したのは、1982年です。就活のとき、出遅れていたというのもありましたが、人と違うことがやりたかったんです。そういう雰囲気が好きで、部活も水上スキーという普通の人がやらないようなことをやっていた。人と違うこと、面白そうだなと思うことを大切にしていて、勉強もしなくてよさそうだし、と思って博報堂に入社した。博報堂にしたのは、電通落ちたから(笑)。実は、電通博報堂の差もよくわからなかった。

最初の配属は、営業です。いろいろ担当が変わったりもしましたが、30年間営業やっておりました。

笠松:実は私、水島社長と大学の部活の先輩後輩の関係でして、博報堂に転職したときに専務が水島社長でした。ですが、その水島社長を裏切って、電通に転職した(笑)。

水島:渡り歩いている、ダメなやつ…ダメじゃないか(笑)。

笠松:ええ、どうもありがとうございます(笑)。ところで、最初に入られたときの会社の印象と、ライバル会社の印象は?

水島:博報堂に入社する前、電通側の勧誘メッセージがすごいカッコ良かった。「3歩先を読んで、半歩先へ行く会社」と書かれていて、「すげーな」と思った。博報堂側のは調べても、なんて書いてあったかわからないんですが、きっとどっちの会社もそういうことをやるイメージ。あとは、規模の差と会社のある場所の差です。電通は、優秀なイメージ。

山本:電通に入社して最初のイメージは、大変な所に来ちゃったなと。そして、うまくできているなと思いました、この会社と仕事の仕組みが。博報堂の印象は、月並みで恐縮すが、スマートだなという印象を持ちました。

広告とはそもそも何か?



笠松:このへんから、少し硬めの話に入っていきましょう。まず、もちろん定義の仕方によって、ずいぶん変わってくると思うのですが、どんな定義でも結構です。お二人にとって、広告とは何でしょう?

山本:ご質問、そのまま言葉通りに捉えれば、僕にとって広告は、仕事です。そして、最大の関心事であります。もっと質問をかみ砕くと、僕が考える広告の機能というのは、昔も今も変わりません。広告の対象物はいろいろあって、商品、サービス、企業、考え方や意見だったりしますが、その広告の対象物に対して個人や社会が抱く価値や評価が前よりも良くなる、というのが広告の機能です。

水島:いまの山本社長の話にすごく通ずるところがあると思いますが、市場や価値を作るのは広告の重要な役割だと思っています。自分ゴト化させる回路が広告。平たく言うと、人の心を動かして、商品を買ってもらう、世の中を動かすというのが広告の重要な機能だと思います。

あとは、繋げていくのもひとつの重要な機能。いろんな企業、商品、生活者を広告やコミュニケーションを使ってつなげていく。ある意味工場から生活者に届けることでサイエンスとアートを繋げるとか、広告主と媒体社を繋げるという意味もある。気持ちを動かす、繋げるというふたつが僕にとっては、広告です。

笠松:なるほど。共通するのは、価値を自分ゴト化できるように人々に伝えていく、繋げていくこと。そして工夫として、サイエンスもアートも使っていくということなのでしょうね。さて、これから広告がどうなっていくか? という議論は、本当にいろんなところでされていると思います。どの角度で切るかで、全然意見も変わってくると思いますけども、おふたりの個人的な意見で結構です。これからの広告というのは、どうなっていくと思いますか?

広告は今後どうなる?



水島:いままでも広告って、すごく変わってきたと思います。私が博報堂へ入社した80年代前半は、グラフィック1枚に素晴らしいコピーが付いていたり、テレビCMを丹念に作っていく「ザ・広告」の時代。それが、商品を発売する際に、いろんなメディアや店頭を使いながら、どのようにピークを作るかというキャンペーンが、広告会社の仕事のひとつになった。その後、90年代後半に、ブランドという概念ができて、ブランディングが広告の重要な役割になった。最近は、デジタル化が進み、統合コミュニケーションが広告の仕事に求められている。このように時代とともに、広告が変わってきたと思う。これからもますます変わっていくと思う。それがこの業界の良さだと思う。

これからは、ひとつはデータ。生活者のデータが瞬時に膨大にとれるようになり、広告主も広告会社もいろんなことがわかるようになるので、もっとレベルの高いサービスを提供しなくてはいけない。受け手も「わかっているんだから、もっとちゃんと攻めてきてよ」と求めるようになる。単に普通のキャンペーンやコミュニケーションではなく、アプリサービスや商品開発も含めて、広告は定義され直されていくと思います。

あと、メディアもどんどん、変わってくるでしょう。もともと、マスメディアは知らないことを教えてくれていたが、デジタル化によって検索しやすくなったり、個別にコミュニケーションができるようになった。IoTも広がっていくと、街全体や家も社会もメディアになっていく。コミュニケーションやメディアがどんどんできると、コンテンツもサービスも、もっとできるようになるため、大きく広告をとらえて、自分たちの仕事にしなければならない。

山本:私も水島さんのおっしゃる通りと思います。100%アグリーです。今日からはじまるAWAsiaでも、それがすべてのイシューとして語られると思います。つまり、社会はどう変わるのか、それに対応して広告はどう変わるのか、ということを考え抜いて、具体的な対応をしていくことが重要だと思います。

そのうえで、回答すると「考えたい」ということが大事。もうひとつ大事なのは、「広告をどう変えていくのか」という意志の問題。世の中は変わる。そして、それに対処するだけでは後手に回ってしまう。広告の本質的な機能を見失う恐れもある。なぜなら、広告の機能は変わらないけども、世の中はどんどん変わるからだ。

どういうふうに広告をしようとしているのか、広告を行っている人の意志が大切。いままで私たちが、仕事を通して獲得してきた能力が変わっていく時代のなかで、一番活かせるやり方を考える必要がある。より質の高い、効果の高い、効率の良い、もっと精緻な、もっと拡張できる、もっと楽しい、もっと美しい、もっと力強いものに、広告を変えていく意思がないと、本質的な機能を失う迷走に走っていく可能性がある。もともとは自分たちの機能を磨くためにつくったはずの中間指標が目的化してしまって、本質的な機能を見失う恐れもある。どんなに考えたって、未来がどうなるかは、誰にもわからない。どう変わっても、どういう意志があるのかというのが大事だと思います。

広告会社はどう変わる?



笠松:広告のこれからについては議論が尽きません。おふたりの話からは、広告の守備範囲がどんどん変わっていくということと、それからその「守備」という感覚だけではなく、「こちらがどうしたい」という我々の意思がないと、この先立ち行かなくなるんだということを感じました。では、そういった未来に対して、広告会社はどう変化していくか、あるいはどう変化させたいと思っていますか?

山本:広告という仕事を通して磨いてきたはずの、私たちの能力を拡張して、活用して、応用する、その場所や場面を広げていくということが広告会社に必要なこと。そのためには、広告および広告業界の社会的な存在価値を問い直すことが重要。つまり、「それは必要なのか」「役に立っているのか」ということ。それで、「広告は世の中の役に立っているんだ」という自覚にたどり着いたのなら、その自覚を持って、ものすごく大きく変わっていくことで、広告広告業界、広告会社がより世の中に役に立つ方へ変貌する。我々の本質的な価値、本質的な存在意義に立ち返って、世の中の役に立つように変わっていきたいですね。

水島:広告会社の持つ意味合いを持ったまま、変わっていくのが重要。これまでも、だいぶ変わってきたと思う。僕が会社入ったころは、お得意先の会社の玄関に、「広告お断り」というサインが貼ってあった大手メーカーもあった時代。それが、だんだんお役に名立てるようになってきた。まだまだ宣伝部の方への貢献が多いが、お得意先へのどこに貢献するかも変わってきた。事業部のブランドの方の仕事も増えている。CMOを持つ会社も増え、人と向き合う仕事や、経営に関わる仕事も増えている。やっていること、求められていることも変化し、意味合いも変化していると思います。

そのなかで、我々が培ってきたのは、クリエイティビティのひと言に尽きる。クリエイターのクリエイティブというよりは、会社の機能としてクリエイティビティをもって、世の中に価値をつくることが、会社のDNAだと思う。それがこれからどのように求められていくのか、または我々がどのように作っていくのかで意味合いを持たせるかが重要。日本の企業や海外の企業もいろんな意味でデジタルトランスフォーメーションによって事業の構造も変わってきている。我々がそのタイミングに、もしかしたらイノベーションという領域でご一緒することで、新たな価値をもたらすことができるかもしれない。広告会社が競合業界と違う風に役に立てるのがひとつの夢でもあり、これからやらなければいけないことだと思う。といいつつ根源的には、ワクワク、ドキドキというものをもたらしたり、お得意先が驚くようなものがサプライズをもたらすのが大事。それが、私たちが発揮できる機能。それが曖昧だから、もっと役に立ち、面白い事をやりながら、ベロ出して仕事したいなと思う。

笠松:我々の存在価値を見直すうえで、イノベーションも大切だが、まずは広告人として面白がることが大事という話ですね。私はいま、組織に属していない人間なのですが、いわゆる均質化がどんどん図られているように感じる。これから広告を面白くするためには、ひとりの広告人が持つべきプロ意識、気にすべきことは? ひとりの広告人として、プロはどうあるべきか? についてお聞かせください。

広告人はどうあるべき?



水島:広告業界、広告会社は、もっとポジティブに変わり、やれる仕事も増やさなければならない。そういう意味では、無限の可能性がある。もともと、私は広告業界の仕事が面白いと思って入りましたし、そこを面白がれることは重要。でも、どう変わっていくのか、どう変われば面白くなるのかという好奇心が一番重要かなと思います。

ヨソの業界に行く若手も最近いるが、自分のなかに好奇心があって、面白がることができるのなら、いまの会社にいることもできると思う。せっかく無限の可能性があり、何をやってもいいというのが広告会社のいいところ。何かが起きている所に行くより、自分の好奇心を発揮しながら、熱狂的にチャレンジすることが一番大事かと僕は思います。

山本:まったく同感です。そうであるために、みっつの要素が大事だと思います。

まず、広告にはふたつの側面があり、ひとつは人や社会に向かっていくこと。もともとそうでないと、人を動かすということや社会に影響を与えたりはできない。今後もそれは変わらないが、人に対してできること(アプローチ方法)は技術的にどんどん増えている。人・社会に向かっていくという仕事をするには、覚悟、洞察、倫理観、謙虚さが必要です。ますます人に向かっていくには、自覚と覚悟が必要。間違ったり、変なことになってはいけない。人の人生、社会に関わるという自覚が必要です。

もうひとつの広告の側面は、広告はひとつの役割、プロセスであるということ。それは昔から変わりません。ますます、広告と広報の境がなくなっているなかで、事業やビジネス全体から広告をとらえる視座がないと、事業全体から乖離してしまう。なので、事業やビジネス全体から広告を見るという視野を持たなければいけません。

そして、みっつ目は、過去の成功体験を捨てる。常に毎日捨てるという思い切りが、強い意欲と情熱とともに捨てていくということ。そのうえで、水島さんがいうとおり、人と違う、楽しいことをやっていこうということになると思います。

笠松:情熱をもちつつ、自分を律しながらも、楽しむということですね。そうはいっても、だんだん体力も衰え、なるべく出かけたくないという甘えが人間だから出て来ると思います。ちなみに、僕自身が自分に課しているルールは、誘われたら行くということですね。たとえば、おふたりは、頑張るためのルールというのはありますか?

頑張るためのルール



山本:モラトリアムについて冒頭で述べましたが、まだ大人になっていないから、変わってもしょうがないと考えている。自分の型が決まっていないと思っている。なので、こうでなければいけないということを持たないようにしています。しかし、なかなか新しいことはきついですよね。

水島:新しいもの好きなので、何でも体験するというのが自分の基本行動、モチベーションです。お得意先の商品やサービスとかって使ってみるのもやってきた。最近はスマートスピーカーなども最初に買った。そういうものを、人に見せるのが好き、好奇心だと思って続けているので、大切にしていきたい。一方で、エンターテインメントとか、料理の世界というのは、だんだん出不精になっていく。まだ前向きな気持ちがあるうちに、無理やり時間をつくっていきたいです。

笠松:いまもし、目の前に大学4年生の自分がいるなら、どうやって入社に誘いますか?

山本:「社長になるぞ」と、二重のダマしで誘う。「なったらひどいぞ」ということは言わずに(笑)。

水島:実は私も一緒で、「お前でも社長になるぞ」と(笑)。そういうことだと思います。

※DIGIDAY[日本版]は、アドバタイジングウィークアジア2018(Advertising Week Asia 2018:AWAsia 2018)のメディア・パートナーです。

Edited by 長田真
Transcription by アギラー・クライブ
Image courtesy of Advertising Week Facebook page