和歌山県の名産品といえば、やはりみかんと梅だろう。特に梅は和歌山県の公式サイトによると、栽培面積・出荷量ともに全国1位。青梅はもちろん、梅干しにも加工して出荷されているという。

そんな梅干しの調味液を利用してバイオガス発電に取り組むと、2018年1月18日に和歌山の大手梅干しメーカー・中田食品(和歌山県田辺市)が発表した。すっぱいものによる発電といえばレモン電池なら思い浮かぶが、梅干しを利用した発電とはどのようなものなのだろうか。

調味廃液から生じるガス、もったいない

中田食品のプレスリリースによると、調味梅干し製造の過程でできる調味廃液を処理する際メタンガスが発生するため、このガスを利用してバイオガス発電所を建設、運用するとされている。

こうした特産品などの製造過程で生じる廃棄物を利用したバイオガス発電といえば、香川県が取り組む「うどんまるごと循環プロジェクト」の「うどん発電」が思い浮かぶ。うどん発電もバイオガス発電だが、梅干しによる発電は初耳だ。


梅干しから生まれる電力とは?(画像はイメージ)

なぜ、梅干しの調味液で発電を行おうと考えたのか、中田食品にJタウンネットが取材をしたところ、梅干しならではの事情があると答えてくれたのは、バイオガス発電に関わっている同社企画開発課の小串さんだ。

「梅干しの調味廃液、といっても非常に澄んだ綺麗な液なので『残液』とも言えますが、塩分と酸が非常に強いという特徴があります。そのため廃棄物にするための浄化処理施設には高い負荷がかかるという難点がありました」

機械設備に塩と酸は大敵だ。さらに処理のためには県外の施設などに廃液を移送しなければならず、廃棄のためのコストも高額になり、中田食品に限らず梅干し製造業者の悩みの種だったという。

そこで、中田食品では自社処理を行うために、空気を嫌う「嫌気性細菌」を利用した発酵処理プラントを設置。調味廃液をメタンガスと水に分解し排出しようと考えた。このプラントが、梅干し発電のきっかけとなったのだ。

「調味廃液には砂糖水に近いレベルの糖分も含まれており発酵しやすく、予想以上の熱とガスが生じることがわかりました。自社で再利用しきれないほどのエネルギー量だったこともありもったいないと考え、せっかくならこのガスでガスエンジンを動かし、発電施設として運用しようということになったのです」

こうして、和歌山県西牟婁郡上富田町にバイオガス発電所を建設することになった。予定では1日20立方メートルの廃液から2000立方メートルのメタンガスを生成可能。年間発電量は200万キロワットと一般家庭400世帯分に達するほどで、ちょっとした試験レベルではなく、実用レベルの発電量だ。

電気は電力会社に販売し、施設運用の費用に充てる。24時間発電が可能で、最終処分品として生じるのは排水だけと、環境負荷もかなり低い。

「処理コストの抑制も期待できるため、弊社以外の梅干し製造業者の調味廃液も受け入れる予定です。調味液の性質は業者ごとに微妙に異なるので、実際に運用するためには分析しつつということになるかと思われますが、すでに関心を持ってお話しを頂いているところもありますよ」

発電所の建設は2018年3月に始まり、2019年1月には稼働予定。来年の今頃は、梅干しから生まれた電気で暖房器具を動かしているかもしれない。