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●激変したiPhoneの販売環境

新iPhoneの発表を間近に控える中、新iPhoneを購入したい多くの人にとって気になるのが、大手キャリアから販売されるiPhoneの実質負担金である。今年に入って端末を値引かない代わりに通信料金を値引く「分離プラン」が登場したのに加え、端末販売に関して、ユーザーにより合理的な額の負担を求めるよう、総務省からの指針も出されていることから、iPhoneの実質負担金はは一層上昇する可能性が出てきているのだ。果たして新iPhoneは買いづらくなり、販売が落ちてしまうのだろうか。

○新iPhoneの実質負担金は高くなる可能性が浮上

ここ数年来、毎年9月に新しいiPhoneの発表を実施する傾向にあるアップル。今年もいくつかのメディアが、米国時間の12日にiPhone新機種を発表するとの観測報道が相次いでいることから、そろそろ新機種が発表される可能性が高い。既に新iPhoneに関しては、3つのモデルが発表される、そのうち1機種には有機ELディスプレイが搭載される、ホームボタンがなくなり前面タッチパネルになる、型番が「iPhone 8」「iPhone X」になる……などさまざまな観測報道がなされ、大きな注目を集めている。

また筆者が先日取材した、ドイツ・ベルリンで実施された家電・ITの総合見本市イベント「IFA 2017」でも、まだ新iPhoneが発表されていないながら、新iPhone向けと見られるスマートフォンケースなど周辺機器が多く展示されており、盛り上がりを見せていた。執筆時点でそれらの真偽は定かではないのだが、新iPhoneの登場に多くの期待が集まっていることだけは確かなようだ。

日本でも、例年通りであれば9月中に発売されるであろう新iPhoneだが、今年はその販売が例年通りとはいかない部分もあるようだ。それは大手キャリアから販売されるiPhoneの、値引きが適用された後の「実質負担金」である。

大手キャリアの主力商品であるiPhoneは、かつて販売面で大幅な優遇がなされ、発売開始直後から、特に番号ポータビリティ(MNP)で乗り換えて新規契約する人達を対象とした、大幅な値引きキャンペーンや下取り優遇施策を実施。本来ならば10万円近くする高額なiPhoneを、非常に安価な実質負担金で購入できるようにして、他社からユーザーを奪うことに注力していたのである。

だが2014年の春頃になると、キャリア間の値引き合戦が過熱するあまり、端末の値引きにとどまらず、10万円を超えるキャッシュバックが乱発される事態にまで発展した。そうした事態を総務省が重く見たのに加え、安倍晋三首相が2015年に携帯電話料金の引き下げに言及した影響もあって、昨年4月には総務省が「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」を策定。スマートフォンを実質負担金0円で購入できるなど、極度に値引いて販売することが実質的に禁止され、値引き販売に依存していた携帯電話市場環境は一変したのである。

●分離プランの影響は?

○端末値引きがなくなる「分離プラン」が急拡大

とはいうものの、日本ではiPhoneの販売シェアが5割を占める程の人気商品である。それゆえ大手キャリアは現在もiPhoneの販売を特に優遇する措置を取っており、極端に安い価格では販売できなくなったとはいえ、他のスマートフォンよりも安価で購入できる傾向は変わっていない。

だが今年に入り、iPhoneの販売に一層逆風となる動きが相次いで起きている。1つはNTTドコモの「docomo with」や、KDDI(au)の「auピタットプラン」「auフラットプラン」など、新しい料金プランの登場である。

これらの料金プランは、簡単に言ってしまえば端末の値引きをしない分、通信料金が従来より安くなる仕組み。毎月の通信料は確かに安くなるのだが、端末を購入する際は値引きが受けられない分値段が高くなってしまうので、iPhoneなどの高額端末を購入するには不利なプランでもあるわけだ。

もちろんキャリア側も、端末値引きがなくなって買いづらくなることを考慮してはいる。docomo withはそもそも対象機種を3万円前後の安価なモデルに絞っているし、auも新料金プランの提供に合わせる形で、端末を4年間の割賦契約で購入し、なおかつ月額390円を支払うことで、2年後の機種変更時に残債がなくなる購入支援プログラム「アップグレードプログラムEX」を提供している。

端末と通信料金を分離した料金プランの提供は総務省がかねてより要望していたもので、大手キャリアもそうした総務省の意向をくむ形で、新料金プランの提供に至ったといえるだろう。現在のところiPhoneは両プランの対象とはなっていないが、新しいiPhoneがその対象となることで、従来より買いづらくなる可能性は十分考えられるだろう。

また仮に新iPhoneが両プランの対象とならなくても、通信料を安くしたいユーザーが分離プランを選んで他のスマートフォンを購入する傾向が強まれば、その分iPhoneの販売が落ちるという可能性も考えられる。実際、auの新料金プランの契約数は、8月27日に100万件を突破するなど好調で、その対象となっているAndroidスマートフォンの販売も伸びているという。

●注目したい2機種前のiPhone下取り価格

○iPhone 6s/6s Plusの下取り価格を割り込んではいけない?

そしてもう1つは、総務省が今年1月に策定した「モバイルサービスの提供条件・端末に関する指針」である。この中で、先の「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」が一部改訂され、端末購入補助について「端末の調達費用及び関連下取り等価格に照らし、合理的な額の負担を求めることが適当である」との記述がなされたのである。

これは要するに、端末の下取り価格を下回るような値引きをしてはいけない、ということ。ガイドラインによると、下取り価格の基準は2年前に発売された、同じメーカーの同型機種の下取り額が基準になるとされており、新iPhoneの場合は2015年発売の「iPhone 6s」「iPhone 6s Plus」の下取り価格を下回らない額で販売することが求められるわけだ。

執筆時点(9月10日)で、大手3社における両機種の下取り価格を確認すると、iPhone 6sが2万7000円から2万9000円、iPhone 6s Plusが3万円から3万1000円といった状況のようだ。無論、新iPhoneの発売を機に下取り価格を大幅に下げることで販売価格を下げる可能性も考えられるのだが、少なくとも現状では、仮に後継モデル「新iPhone」「新iPhone Plus」が出た場合、値引き後の実質負担金は3万円より上の設定になりそうだ。

ちなみにiPhone 6s/6s Plusが発売された頃は、まだ端末価格の値引きに対する制限が緩く、いわゆる“格安”の市場も現在ほどは盛り上がっていなかった。だが今は大手キャリアだけでなく、通信料をより一層引き下げられるMVNOや、機種は旧機種に限定されるがiPhoneをより安価に利用できる、ワイモバイルやUQ mobileなどの選択肢もある。それゆえ新iPhoneの購入に3万円を支払う、あるいは4年間の割賦契約を結ぶことに抵抗感を抱く人は、2年前と比べれば増えているのは確かだ。

だがそれでもなお、iPhoneのブランドや使い勝手に対する評価は高く、iPhoneに慣れたユーザーはその後もiPhoneを選ぶ傾向が強い。そして何よりキャリアがiPhoneを重視する戦略を取り続ける以上、新iPhoneの販売に急ブレーキがかかる可能性は低いだろう。新iPhoneの魅力がどの程度なのかにもよるだろうが、実質的な値上げの影響で新iPhoneの販売がやや落ちるとはいえ、市場に劇的な影響を与える程大きく落ち込む可能性は低いのではないかと、筆者は見ている。