金正恩氏

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は9日、北朝鮮で食糧事情が悪化し餓死者が続出しているもようだと、現地関係者の証言を交えて報道した。

咸鏡北道の情報筋はRFAに対し、「最近、新ジャガイモの収穫期にもかかわらず、飢え死にする人が増えており、人々はまたもや『苦難の行軍』が訪れるのではないかと不安がっている」と話した。「苦難の行軍」とは1990年代後半、数十万人とも言われる餓死者を出した大飢饉のことだ。

「人肉事件」も

この情報筋によると、「6月末、富寧(プリョン)郡の倉坪里(チャンピョンリ)で、両親を失い、親戚の家に預けられていた幼い2人兄弟が飢え死にする悲劇があった。また、同郡内の舞袖里(ムスリ)などで2組の老夫婦が相次ぎ死体で見つかり、住民が衝撃を受けている」という。

「富寧区域は古茂山(コムサン)セメント工場で知られる場所だが、地域全体が石灰岩の上に乗っているような土地で、農業にまったく適さない地域。交通も不便で行商人も寄り付かない陸の孤島だ」(情報筋)

情報筋はまた、「餓死する人は、ほかの地域でも出ている。とくに山間部の住民は市場での商売にアクセスできずにいるため、このような事態が発生しやすい」としている。

しかしこの報道内容を見る限り、餓死者が発生している原因は、北朝鮮国内で食べ物が不足しているためではないようだ。実際、情報筋は次のように語っている。

餓死者が発生する根本的な原因は、今年初めから住民の移動を厳重に禁じているために、食べ物が国内に行き渡っていないから。また昨年、電力不足のため農産物の脱穀が十分にできず、そのまま流通させてしまったことも一因になっている」

北朝鮮ではかつて、食べ物は国の配給システムにより、個々の国民にもたらされていた。しかし、現在ではこれが実質的に崩壊しており、人々は市場で商売を行うなどして現金収入を得て、食べ物を購入しなければならない。

ところが、都市部周辺にはこうした市場が数多くあるものの、山間部などの住民は当局の移動制限により、ここにアクセスすることができない。移動に必要な許可証(旅行証)を入手するには多額のワイロが必要だが、それを稼ぐ術もない。また、住民に購買力がないとあって、行商人さえ立ち寄ってくれないというわけだ。

つまり、こうした理由により餓死者が続出しているのならば、その原因は明らかに金正恩党委員長の失政にあると言えるのだ。

金正恩氏は過去にも、同様の失政を犯した前科がある。2012年4月、自分の権力継承を祝うどんちゃん騒ぎのために首都・平壌に食料をかき集め、そのあおりを受けて、短期間に大量の餓死者が発生。「人肉事件」さえ多発する事態を招いたのだ。

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北朝鮮では昔から、失政が事故や災害の被害を拡大する事例が相次いできた。金正恩氏もまた、前任者たる祖父・金日成主席や父・金正日総書記と同様、民の苦しみを顧みることを知らない独裁者というわけだ。

前出とは別の消息筋は、次のように話している。

「昨年の大水害で被害を受けた茂山(ムサン)郡でも最近、相次いで餓死者が出た。それなのに、ミサイルを打ってばかりの金正恩に対し、住民の間から怨嗟の声が上がっている。商売でも出来るように移動制限を少しだけ緩めてくれれば、飢え死にする人は出ないだろう。食べ物が行き渡らず人民が苦しんでいるのに、金正恩はまったく眼中にないのだ」