【ファンキー通信】自殺をする前に読む本とは?

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 自殺をテーマにした本を出版したことがある。

 多くの遺族の方々に会い、貴重な話を聞かせてもらった。遺族の方々の深い悲しみを伝えることで、少しでも自殺を減らしたい、そう思ったのだ。そして本を出してしばらくすると、感想のメールや手紙が大量に届いた。中には、自らも自殺してしまいたいと悩む、いわゆる自殺志願者から寄せられたものも、数多く含まれていた。

 彼らは、「本当は生きたいけれど、上手く生きられない」、そんな複雑な心境を吐露していた。どうやったら、もっと彼らを救えるのだろう。本を出版してからも、僕は手紙の束を目の前に、頭を悩ませた。

 なぜ自殺者が減らないのか。例えば、交通事故死亡者を例にとると、古くはシートベルト着用の義務化、あるいは飲酒運転の取り締まり強化、運転中の携帯電話使用の禁止などの対策が功を奏したのか、徐々にその数は減っている。一時は1万人を超えていたが、ここ数年は7000人台で推移している。

 対する自殺者の数は、3万人を超え、その後も横ばい状態が続く。

 これは自殺問題対策の難しさを表しているのだろう。自殺は心の問題だ。だから、悩んでいたとしても、傍目からは分かりにくい。悩みごとなら、誰にでもあることだからだ。さらに、「頑張って」という励ましがかえって逆効果だといわれるなど、繊細な対応が求められる。あるいは、その場では自殺を思いとどまったように見えても、いつまたその思いが蘇り、命を絶ってしまうか、わかったものではない。
 
 要するに、自殺を減らす確実な方法はないに等しく、地道で根気がいる作業が求められるのだ。

 そんな中、『自殺する前に読む本』(ライブドアパブリッシング刊)が発売された。本書には、自殺志願者たちを「生」へと引き留める言葉は記されていない。ただ淡々と、事実だけを列挙していくのだ。ページをめくるごとに現れる100の事実には、詳しい説明は特にない。その言葉を読み、どう感じるのか。そのすべては読者にゆだねられている。

 「自殺なんてしてはいけない!」。その想いをぶつけたところで、彼らの心にはなかなか響かない。だから、僕たちが生きている、その当たり前の事実を伝えて思いとどまってもらうことくらいしかできないのかもしれない。

 本書は、そのことをまさに実践している。雄弁には語らないが、ずっと側に寄り添い温かく見守ってくれているような、優しさを感じる。そんな本が出版されたことを、自殺問題に関わる同業者として、素直に喜びたい。そして、少しでも多くの人の手に届くことを願って止まない。(文/verb)

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