香川真司とメッシの差異とは 清水英斗氏が語る「試合を観るチカラ」

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 昨日に引き続き、【サッカー「観戦力」が高まる】を上梓したサッカーライター・清水英斗さんに「試合を観るチカラ」について話を伺った。

 今日のテーマは、香川真司(ドルトムント/ドイツ)。ドリブラーとしてもパッサーとしても優れた能力を持つ選手だが、具体的にどのような部分がすごいのか? ドリブルが有名な左利きの選手といえばまっさきに名が挙がるのはリオネル・メッシ(バルセロナ/スペイン)だが、メッシと香川の差異とはどういったものだろうか?


■ドイツの外にも挑戦してほしい
――ここからは、欧州でプレーする日本人選手の中から香川真司、本田圭佑、長友佑都の3選手について伺います。まずは香川についてですが、彼はドリブルが得意な選手で、ネット上ではメッシと比較する声もあったりします。プレースタイルから見て、この比較は正しいですか?
 
清水 根本的に違うのは、身体の部分ですね。パワーとスピードの両立。メッシはかなり太いです。ガツンと当たられた時に踏ん張れて、びくともしないところがある。だから、姿勢制動能力もメッシのほうが高いと思います。
 
――身体のバランスを整える能力ですね。
 
清水 そういう能力は、メッシの方が恐らく高いです。
 
――香川はあえて太くしないんでしょうか、それとも太くしたいけれども太れない?
 
清水 そこまではわからないですね。ただ、太くするやり方っていろいろあるんですよね。筋肉って重たいから、鍛え方次第ではただスピードが落ちてしまうだけ、ということがあると思います。やはり体幹の筋肉、インナーマッスルとのバランスでどう鍛えていくか。香川の課題はそのあたりじゃないですかね。ミドルシュートを見ればわかりやすいですが、メッシと比べて全くパワーが違います。香川のミドルシュートは、正直、入る気がしない(苦笑)。
 
――確かに、香川はペナルティエリア付近からの得点が多い気がしますね。また、パワーで押し込むよりは相手GKのタイミングを外すシュートが上手いように見えます。

清水 メッシなら両方行けるんですよね、タイミングでもパワーでも。右サイドから真横にドリブルしながら、最後は左足でシュートを隅っこに突き刺すような。香川にあのイメージはないですよね。メッシは上手い上手いと言われますが、実はパワーもかなりあるんです。それは2人の大きな違いだと思います。
 
――香川が本当にすごい部分というのは、ドリブルなのでしょうか?
 
清水 もちろんボールタッチはうまいですが、一番は頭の中身だと思います。香川は賢い。スピードはそこまでないですが、あれだけ裏をとれる。予備動作の部分を見ておくと、非常にわかりやすいと思います。特に、ドルトムントをテレビで見るとみんな香川中心で見る傾向があると思いますから。予備動作も、確認しやすいと思います。
 
――本人は当分移籍するつもりはない、といった報道がありました。その上でも、仮に移籍する場合どういったチームにハマりそうですか?
 
清水 どこか特定のチームは思いつかないですけれど、早くドイツを出てほしいなとは思っています。なぜかというと、ドイツの守備戦術はかなり拙いからです。中央の守備がやられて、一気にゴール前に行かれるシーンが多くて、あっさりと崩されすぎる。前線からのプレッシングはいいけど、自陣で守る戦術が拙い。
 
 誰かが抜かれてもカバーして、そこがやられても次の誰かがカバー、さらにやられても全体のゾーンを下げて、最後にはGKがいる。本来、サッカーの守備にはいくつもの段階があるはずなんです。ドイツの場合、全体的にリスクを負いすぎていますね。センターバックがミスをすると、そのまま決定的な形を作られたり。しかも、そのミスもそこまで重大なものではなく、1対1でやられただけでそのままゴール前まで行かれてしまうとか。
 
――ハンブルガー時代の高原直泰も、サイドをドリブルで突破するとそのままビッグチャンスにつなげていましたね。
 
清水 ボールの奪われ方、攻撃時のリスク管理という部分で他国と比べてすごくリスクをとっていると思います。チームによって違うので、一概には言えませんけれども。
 
 例えばミランの試合を見ていると、非常に守備が組織されている。あの守備は、ドイツにはないものです。スペインも戦術は洗練されていますし、そういうリーグに行ったら香川はどうなるか。ドイツってヨーロッパの中ではレベルが高いと思うんですが、(そこで活躍したから)イコール他国で通用するかというと、それは分からない。だからこそ香川には、いずれドイツの外にも挑戦してほしい。

――なるほど。
 
清水 ブンデスリーガって、ヨーロッパで最も得点が多く決まるリーグなんですよね。それが観衆の熱狂にもつながっていますが、攻撃に対してある意味甘いリーグというか。守備が大ざっぱなために、多少、攻撃が甘やかされている部分もあると思う。だから、他国に出て行ってどうなるかを見たいですね。

<つづく(明日更新予定)>

清水英斗(しみず・ひでと)
1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。
プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。ドイツやオランダ、スペインなどでの取材活動豊富。ライターのほか、ラジオパーソナリティー、サッカー指導、イベントプロデュース・運営も手がける。過去には東京都リーグ2部でプレー。現在も週に1回は必ずボールを蹴っており、海外取材の際には、現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。twitterIDは@kaizokuhide。有料メールマガジン「しみマガ」も好評配信中。