9月17日、東京電力が2012年度から電気料金を10〜15%値上げするとした案を白紙撤回したことがわかった。同社の経営実態を調査する政府の第三者委員会が容認しない姿勢を見せているほか、与党内や世論の反発も強く、自社の経費削減を優先せざるを得なくなったためだ。

 この期に及んで経費削減策よりも値上げ案を先に発表した東電の考えにはあきれるばかりで、白紙撤回は当然と言える。元経済産業省の官僚で、総務大臣秘書官を務めた慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸博幸氏もこう語る。

「『事故が起きて原発が使えなくなった分、火力電力の燃料費が余計にかかるから値上げせざるを得ない』というのが東電の言い分です。でも、その原因と責任は東電自身にある。にもかかわらず十分なムダの削減も、自らコストを捻出する努力もしていません」

 本来、モノやサービスの値上げというのは企業がコスト削減をギリギリまでやった上で、それでもどうしようもなくなってから初めて踏み切るもの。しかし、東電からはその“経営努力”がサッパリ見えてこない。

「私が一番非常識だと思うのは、東電の資産査定や経営状況を調べている『経営・財務調査委員会』が、給料をどれだけ下げるのか、企業年金はどうするのかといった方針をまだ何も示していないのに、値上げの話だけが出てきたことです。やはり、独占企業というのは公務員と同じく甘えている。事故の責任もそれほど強く感じているとは思えません」(岸氏)

 給料や年金以外にも、削減すべきものはたくさんある。そのひとつが、一般家庭が支払う電気料金に含まれている「普及開発関係費」なるものだ。その総額は269億円に及び、東電の“錬金術”の要といえる。

 この中にはいわゆる宣伝広告費や、各地にある電力館などPR施設の運営費、電力事業普及キャンペーン費用などが含まれているのだが、そもそも独占企業が何を宣伝する必要があるのか。結局のところ、原発事故後もテレビで御用学者たちが「直ちに健康に影響はない」と連呼していたのは、これまでの広告費が効いていたからにほかならない。

 この普及開発関係費を全額廃止すれば、平均的な世帯月料金6.776円は約118円値下げすることができる。いかに東電の値上げ案が厚顔無恥か分かるだろう。

(取材/頓所直人)

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