これをヒーローと言わずしてなんと言う。

漫画や映画の中でのみ起こりうることだと思われたことが
実際に起きた。いや、カズが起こした。

「こうなればいいな」ってみんなが思うことはたくさんあるけど、
おおよそにおいて、その希望通りになることはない。

逆転サヨナラ満塁ホームランは、ごくごく稀にしか見られないから
ドラマチックなんだ。

最終ラウンドの逆転KOは、そうそうないから震えるんだ。


でも、そんなことが本当に起きたんだ。

日本中が期待したゴールを、本当に決めたカズ。

スーパーヒーローとはこのことじゃないか。


カズがピッチに立った時のあのコールを聴いたか。

お馴染み「カズ・カズ・カズ・カズゴール」のコール。
93年のJリーグ開幕時からずっと日本人が愛したコール。

日本中の祈りが込められたあのコールの中で本当に決めたんだ。

もう正直、試合の内容がどうだったとか、そういう次元じゃない。
どっちが勝ったとかそういう話じゃない。


カズが決めたんだ。



こんな思い出がある。

2003年NBAオールスターゲーム。
“神様”マイケル・ジョーダン最後のオールスター。

彼は同点で迎えた延長戦残り5秒で、奇跡ともいえる
フェイダウェイジャンパーを沈めた。
最後のオールスターという最高の舞台で見せた最高のプレー。

ジョーダン、このとき40歳。

実はその後、オールスターとはいえガチンコだったこのゲームは、
その残り5秒から再び同点となり、再延長に突入するのだが、
試合後、もはやそんなことはどうでもよくなっていた。

そして、再延長の活躍でチームを勝利に導きMVPに輝いた
ある選手は試合後にこう言った。

「今日は信じられないことが起きたんだ。僕はおじいちゃんに
なったらこの日のことを孫に自慢するだろう。『おじいちゃんは
マイケル・ジョーダンが起こした奇跡を同じコートで見たんだよ』と」

アナウンサーが聞いた。
「その後の話は?」と。

「その後」とは、つまり彼自身がチームを勝利に導きMVPを
獲得したことだ。

彼は答えた。
「その後のことはどうでもいいんだ。僕はマイケル・ジョーダンの
信じられないスーパープレーを見たんだ。それが全てなんだ」



同じだ。

同じだと思った。


3月29日のチャリティーマッチは、多くの人にとって
「カズが決めた日」として記憶されることになるはずだ。

遠藤の素晴らしいフリーキックも、本田と岡崎による最高の
コンビネーションも、いつか忘れられるかもしれない。
でも、カズがこの日ゴールを決めたことは絶対に忘れない。


日テレの実況、よかった。

「カズは、やはりカズでした」

素敵な表現じゃないか。


この試合が被災者に何をもたらしたのか、
わしは被災者じゃないから分からない。

この試合を被災地のどれだけの方が観たのか分からない。


「がんばろう日本」のエールは届いただろうか。

このカズのゴールはみんなに観てもらえただろうか。


もしこの時観られなかったとしても、後からでも観てほしい。
カズが決めたゴールを観てほしい。


この日、カズが決めた。

「僕がサッカーで何を伝えられるのか、正直分からない」と
悩んでいたカズが決めた。

「ダンスをしていいのかどうか悩んだ」と後で語ることになった
カズが決めた。

最も被災者を思いやっていたカズが決めた。


忘れない。

2011年3月29日、カズが決めた日。

このゴールを忘れない。


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