「たぶん、誰が出ても結果は変わらないですよ。明らかに(サッカーの)ビジョンが違いすぎた。前半20分で試合の決着がついてしまった」

 マンチェスター・シティvsサウサンプトンのプレミアリーグ第11節。試合後、取材エリアに姿を見せると、サウサンプトンの吉田麻也はそうつぶやいた。


吉田麻也がマンチェスター・Cのすごさに脱帽

 試合は序盤からマンチェスター・Cが圧倒し、前半18分までに3点のリードを奪った。最終的に6-1の大差でサウサンプトンを難なく退けた。吉田も「相当、力の差があると思います」と、脱帽せざるをえない試合内容だった。

 もっとも、吉田の苦況は続いている。この試合でもベンチスタートで出番がなく、ベンチで試合終了のホイッスルを聞いた。この結果、国内リーグ3試合連続で出番がない。ここまでの出場試合はリーグカップの2試合と、国内リーグの1試合しかなく、厳しい状況が続いている。

 日本代表DFにとって痛かったのは、レスター・シティのオーナーであるウィチャイ氏のヘリコプター墜落事故により、10月30日に予定されていたレスターとのリーグカップ4回戦が急遽延期になったことだ。

 無論、レスターで起きた不慮の事故には、英国サッカー関係者の誰もが心を痛めている。吉田もそのひとりであることに変わりはない。

 ただ同時に、吉田にとってリーグカップは自身をアピールする最大のチャンスでもあった。もともと、吉田は試合をこなしながら試合勘とコンディションを上げていくタイプなだけに、試合延期の決定は小さくない影響を及ぼすだろう(※試合は11月27日に行なわれる予定)。

 吉田は言う。

「(レスターで)不幸が起きてしまったので、延期はどうにもならないことです。(出番の)チャンスを待つ。こういうときは耐えるのみですね。でも、2週間以上、出番が空いてしまうと難しい。少しでもコンディションを落とさないように努めるだけです。

 チームも、直近2試合でクリーンシートが続いていたので(アピールしたくても)どうにもならない。『カップ戦で(アピール)』と思っていたけど、試合が延期になった。自分ではどうにもならない範疇なので、あまりそこは考えずに自分ができることに集中して、チャンスを待つしかないです」

 そのうえで、あえて吉田に聞いてみた。昨季王者マンチェスター・Cの強さの秘密はどこにあるのかと――。日本代表DFが指摘したのは、4-3-3で編成したマンチェスター・CのインサイドMF、ポルトガル代表のベルナルド・シウバと、スペイン代表のダビド・シルバのふたりだ。

 この試合でサウサンプトンは、3人のボランチを配した4-5-1で臨んだ。3ボランチで中盤中央部をがっちり固め、マンチェスター・Cの攻撃を操るインサイドMFの動きを抑えようとした。

 ところが、ベルナルド・シウバとダビド・シルバは、一枚も二枚も上手(うわて)だった。サウサンプトンの狙いがわかると、両者ともワイドエリアに流れて、サウサンプトンが網を敷く中盤中央部から離れていったのだ。

 マンチェスター・C左右両サイドには、4-3-3の「両翼」と「サイドバック」が陣取る。そのため、インサイドMFがワイドエリアに流れてくれば、合計3人がサイドに入ることになる。まず、このサイドで数的優位を作った。

 対するサウサンプトンとしては、3ボランチの内のふたりが、このインサイドMFを捕まえようと、それぞれついていく。すると、中盤中央部が手薄になり、今度はセンターにもスペースが生まれてしまった。吉田は「本当にいやらしいなと思いましたね」と語り、次のように説明を続けた。

「サウサンプトンとしては中盤中央を厚くして、中盤でのボールを消そうとしていた。そうしたら、見事にシティのインサイドMFのふたりが外に張って、サイドで数的優位を作られた。

 ベルナルド・シウバとダビド・シルバがサイドに開く。そうなると、(サウサンプトンの)前のアタッカーの選手がそこを切るじゃないですか。すると、今度は中央にスペースができてしまう。(サイドで)縦のスペースを切ると、中が空いてしまう。だから、どうやっても数的優位を作られてしまう。(サウサンプトンは)まったく展開できなかった。

 やっぱりシティは、なんとなくやって勝てるチームじゃない。選手のクオリティの差があるのは事実なので、そこは戦術とハードワークで埋めないといけない。ただ、サウサンプトンの戦術がハマらなかった。フィットネス的にも明らかに向こうのほうが質が高かった。セカンドボールもほぼ拾われた。

 しかも、彼らは3点を取って完全に手を緩めたというか。もう完全に(11月7日に行なわれる)チャンピオンズリーグを見据えている感じになった。相当、力の差があると思います」

 吉田は「中盤3人の質が全然違った。とくに彼がすごい」と、隣でクラブ公式サイトの取材に応じていたベルナルド・シウバを指さして称賛していた。ジョゼップ・グアルディオラ監督仕込みの戦術眼に加え、足もとの技術とドリブル突破力、スルーパスの精度と、たしかにポルトガル代表MFの出来は特出していた。

 さらに、徹底して細部にこだわるグアルディオラ監督にも感心したという。「試合中、グアルディオラは選手ひとりひとりを呼んで、個別に細かくコーチングをしていた。サイドにこだわっているなと感じました」(吉田)。

 もちろん、マンチェスター・Cは対戦相手によって、戦術や編成を自在に組み替えることもできる。サウサンプトン戦で見せた戦術は、その一手にすぎず、4-3-3、4-1-3-2、3-5-2など複数のシステムを使い分けることが可能だ。しかも、スカッドには質の高い選手が揃う。吉田も「(シティは)見る価値のあるチームだと思います」と手放しで褒めざるをえなかった。

 圧倒的な強さを示して昨シーズンのプレミアリーグを制したマンチェスター・C。その昨シーズンから、グアルディオラ体制はもう一歩、進化している印象を残した。