なでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)1部日テレ・ベレーザ【写真:Football ZONE web】

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優勝が懸かったINAC戦のスタンドはベレーザカラーに「違う空間にいる感じだった」

 なでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)1部日テレ・ベレーザのFW籾木結花は、20日のリーグ第16節INAC神戸レオネッサ戦で二つのミッションに挑んでいた。

 一つはリーグ4連覇達成、そして二つ目は「観客数5000人クリア」だ。試合は互いに攻め合いながらも決定打を欠き、スコアレスドローで優勝は次節以降に持ち越し。観客動員も4663人と惜しくも目標に届かなかったが、選手ながら集客のプロデュースを行うという革新的な取り組みに、「手ごたえは少し」と笑顔を覗かせた。

 大一番のおよそ1カ月前の9月25日、ベレーザはINAC戦で5000人集客を掲げた「5000人満員プロジェクト」の実施を発表。そのプロデューサーに10番を背負う籾木が就任し、プレミアムシートや選手視点で企画したオリジナルグッズ、参加体験型のイベントを展開して来場を呼び掛けてきた。

 そして迎えた試合当日、選手が味の素フィールド西が丘のピッチに入場すると、メインスタンドとバックスタンドは黄緑と深緑の“ベレーザカラー”のコレオグラフィーが広がっていた。籾木は目の当たりにした光景を、「違う空間にいる感じだった」と振り返る。

「バックスタンドもメインスタンドも(緑の)縞々模様になっていたのはすごく綺麗でした。本当にこの中でプレーしているんだな、と逆に実感が湧きにくかったですけど、楽しいなと感じていました」

観客数5000人には337人及ばずも、今季最多を約3000人更新「正直ビックリしている」

 籾木はなでしこジャパン(日本女子代表)が女子ワールドカップ(W杯)で初の世界一に輝いた2011年にベレーザの下部組織からトップチームに昇格。3年目からは主力の一人として活躍してきた。しかし、ベレーザは2015年からリーグ3連覇を成し遂げた一方で、その間の平均観客動員数は年々低下(1829人→1134人→1029人)。「なでしこの盛り上がりを取り戻す」との思いから、大学の卒論をきっかけにクラブに直訴してプロジェクトを始動させ、自らチームメイトに協力を呼びかけて目標達成を目指してきた。

「Jリーグの選手であれば、普通にサッカーをしていれば人が集まってくるような環境。でも、女子サッカーはそういう環境ではないので、見に来てほしいのであれば自分たちから呼びに行かないと来てもらえない。良いサッカーをして、結果を残しても、見に来てもらえないなかで、自分たちが伝えていかないといけないと感じました」

 INAC戦の後半途中に発表された観客数は4663人。5000人には“337人”及ばなかった。しかし、今季のホーム平均観客動員数が912人、9月22日のリーグ第12節浦和レッドダイヤモンズレディース戦(3-0)の1681人が最多だったことを考えれば、それがいかに凄い数字かが分かるだろう。

 籾木は「5000人を目指すとは言いつつも、4600人のお客さんが入ってくれると思っていなかった。正直ビックリしているし、今日集まってくださったみなさんには感謝を伝えたい」と言及。そして、「5000人いきたかった思いはもちろんあるんですけど……」と率直な思いを明かした。

「今日がスタート。女子サッカーは観客と選手が協力し合って良いものを作っていける」

「変にここで成功して、『これで良かった』で終わってほしくない。たぶんワールドカップ優勝の時も、優勝して良かったで終わっている。同じような流れになってしまうのが怖いと感じているので、ギリギリ届かないくらいがちょうどいい。正直成功じゃないくらいがちょうどいいかなと思っています。

 仮に、今日集まっても次に集まらなかったり、今後につながらないと意味がない。自分自身が良いサッカーを見せていくのは当然なんですけど、それだけでは観客は集まらないというのは、過去3年でベレーザが3連覇した時のデータで分かる。今後どうしていくかが重要ですね」

 籾木はプロデューサーとしての出来を問われると、「60点くらいですかね」と笑顔を見せた。

「今日が最初で最後ではなく、これがスタート。見に来てもらう人を呼ぶことで選手自身もより一層の自覚と責任が生まれてくると思うし、女子サッカーは観客と選手が協力し合ってもっと良いものを作っていける。ベレーザのサッカーは、日本女子サッカーのなかで唯一新しいことをやっていると感じています。自分自身も今シーズン監督が変わって新しいサッカーになって、サッカーの考えの幅が広がった。一試合一試合課題を修正していくのが、今のベレーザの強み。毎試合どうやって成長していっているのか、という視点で見てもらえてば面白いんじゃないかなと思います」

 最後に「手ごたえは少し」と語った籾木。ベレーザの10番が見せた行動は、日本女子サッカー界に一石を投じることになりそうだ。(Football ZONE web編集部・小田智史 / Tomofumi Oda)