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9月4〜6日にICCパートナーズは「ICCサミット京都2018」を開催した。経営者や経営幹部が議論したり学びを深めたりするビジネスカンファレンスだ。目玉プログラムである「スタートアップカタパルト」を紹介する。

○起業家15名によるビジネスモデルコンテスト

企業の代表15名が自社のビジネスモデルについて持ち時間7分でプレゼンテーションを行い、優勝者を決めるコンテスト。その事業内容や将来性から審査員に選ばれ、優勝したのはオプティマインド 松下健氏だった。

○物流現場にAIを当たり前に

松下氏は、名古屋大学大学院の博士後期課程に在籍する研究者だ。同社は「物流×人工知能」をスローガンに、「どの車両が、どの訪問先を、どの順に回ると最適であるか」という配送計画問題に対し、「組み合わせ最適化」や「機械学習」などの技術を用いたクラウドサービスの展開やコンサルティングなどを行っている。

「物流現場は配送ルートの複雑化とドライバー不足問題に直面しています。しかし多くの会社ではルート作成は人の手で行われ、いくつかの要因からシステム導入が進んでませんでした」と松下氏は話す。

そして紹介されたのが、配送ルートの最適化クラウドサービス「Loogia(ルージア)」だ。現在日本郵便と実証実験から導入を進めており、ルート作成時間が44分から6分、実配送時間が57分から45分に短縮できたという。また「停車位置」「停車時間」「走行速度」「走行経路」のデータを学習させ、次回より活用させることができるそうだ。

松下氏は自社の進む段階を「IT化、最適化を当たり前にしてもらう」「導入実績があるなかで、AIの自動配送を当たり前にする」、そして「自動運転、ライドシェアが当たり前となった社会でプラットフォームになる」と捉えているとし、日本・世界の配送現場の置かれている状態をアルゴリズムの力で最適化するのが自社のミッションだという。

2位は同点で、ファッション業界向けAIを開発するニューロープ 酒井聡氏、パーソナライズシャンプーを開発・販売するSparty(スパーティー)深山陽介氏、個人向けインテリアのシェアリングサービスを営むクラス 久保裕丈氏、自家用車を使った配車サービスAzit(アジット)吉兼周優氏が選出された。

筆者が特に興味深かった4社を紹介したい。

○AIエンジニア育成のオンライン学習サービス

アイデミー 代表取締役 CEO 石川聡彦氏は、元歌舞伎役者(子役)という異色の経歴の持ち主。同氏が発表したのは、AIエンジニアの育成を目的としたオンラインの学習サービス「Aidemy」。特別な環境がなくても、ディープラーニングや自然言語処理などの人工知能技術の演習を始めることができるという。

「ビジネス領域のAIエンジニアは人数が不足しており、専門知識をもつ人材を早急に育成する必要があるといわれています。しかしAI領域の知識を習得することは、高性能なサーバーが必要だったり、大学の数学を理解したり、コンピューターの全てに精通したりするなどハードルが高いと思われがちです。それを手軽にするため本サービスを開発しました」と石川氏は話す。

サービスには無料コースを含め5つのプランがあり、受講者のスタイルに応じて選択することができる。またAI人材に特化した転職イベント「Aidemy Career Match」の開催や、エンジニアのコミュニティ形成を通してAIエンジニアの働く環境を整えたいという。

○距離と時間を破壊する無人コンビニ

600 代表取締役 久保渓氏は、6月にサービス開始した「無人コンビニ600」を紹介した。クレジットカード決済によるキャッシュレスの無人コンビニで、取り扱う商品は、菓子、弁当、飲料から文房具、日用品などとしている。

久保氏によると600の価値は二つあり、一つ目が、通常のコンビニより10倍近い距離だという。「欲しいものを欲しい瞬間に提供する。そうしたユーザーのための革命を起こしたい」と久保氏は話す。

二つ目が個々ユーザーへ寄り添うこと。ユーザーが揃えて欲しい商品を、LINEやSlackなどコミュニケーションツールで直接リクエストすると、個々のライフスタイルに最適化されたコンビニを作ることができるという。

「日常生活における時間の無駄をなくし、家族や自分の人生など、より大切なことに時間を使ってもらいたい」と久保氏は話す。設置場所はマンション、駅ナカなど人が集まる場所ならどこでも対象で、半径50メートルの新しい商圏を作るのが目標だとしている。

○スマホで自分専用シャンプー

Sparty 代表取締役社長 深山陽介氏は、パーソナライズシャンプー「MEDULLA」(2本セット/2ヵ月分7,344円 発送費別)を5月22日より提供開始。Web画面で7つの質問に答えることで、自分に最適なシャンプーを処方し、購入することができる。

「私たちは100種類以上の処方を提供できます。でも大事なことは、そこではありません。ユーザーが求めているのは『シンデレラの靴』です。きれいになれる、自分だけの魔法を求めています」と深山氏は力説する。

処方はスマホで完結し、公式サイトで「髪質」や「なりたい髪」などを選択すれば、成分をカスタムブレンドされた自分だけのシャンプー&トリートメントが手元に届く。また購入後も、マイページ上で利用後にフィードバックすることで成分を再度調整し、より自分に合ったものへ仕上げることができるとしている。

なお、ECの課題である、実際に香りや質を確認できない問題は、提携した美容室で実際に触れる無料体験サービスにより解消するという。

○ソニーからは携帯できる「匂い」

ICC スタートアップカタパルトは、言葉通り起業家による発表がほとんどだ。そんな中、異彩を放つのがソニー OE事業室 藤田修二氏だ。

藤田氏は元々研究・開発畑の出身だが、2015年に社内の新規事業創出プログラムで審査を突破。嗅覚にアプローチした製品開発を続け、「AROMASTICK」(スターターキット OE-AS01SK2 希望小売価格 7,300円)を2016年10月に製品化した。

スティック型の本体に香りのカートリッジを装填し、心身をリフレッシュさせたい時に香りでそれを実現する。香りのカートリッジは複数を切り替えでき、熱や水を利用しないドライエアーとなっている。

かつて同社のウォークマンが「聴覚とパーソナライズ」で音楽を再定義したように、「嗅覚をパーソナライズ」し、ユーザーに新しい体験を提供したいと藤田氏は話す。

既に病院のナースステーションで導入されたり、コールセンターのオペレーターに利用されたりし、仕事のストレス対策として、企業の健康経営のソリューションとして利用されているという。

これら以外にも、オーガニック農家のマーケットプレイス「食べチョク」、マイクロドローンを開発する「Drone Formula」、総合ストックオプション・ソリューション「SOICO(ソイコ)」、AIを活用したチャット型レストランメニュー・サービス「HeY(ヘイ)」、防犯カメラとAI技術を核とするレジなし決済システム「VAAK(バーク)」、医師向けの症例共有サービス「Dr.Fellow(ドクターフェロー)」、次世代宅配ボックス「VOX(ボックス)」など、斬新かつ技術力のあるサービスが発表された。