もし、米国が北朝鮮を攻撃したらどうなるのか(写真:ロイター/KCNA)

国連安全保障理事会が北朝鮮への制裁強化を決めたことで、北朝鮮は13日、決議に対して「全面排撃する」との声明を出した。北朝鮮の建国記念日である9日9日に見込まれていた大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験は行われなかったものの、緊張感はまったく和らぐ気配がない。

今後、米北関係はどこへ向かうのか。北朝鮮情勢に詳しい、米ヘリテージ財団の上級研究員、ブルース・クリングナー氏に聞いた。

核・ミサイル開発は理にかなっている

――金正恩氏は北朝鮮の核兵器・ミサイル開発を急ぐことによって、何を成し遂げようとしているのか。

金体制の存続を図ろうとしている。一連の開発は、米国の攻撃を抑止する1つの方法なのだ。北朝鮮はイラク、ユーゴスラビア、リビアでの米国の攻撃を例に挙げて、ああいうやり方が自らを守る方法だと述べている。仮に北朝鮮が同盟国を攻撃した場合、米国がこれに反撃することをとどまらせる目的があるとも見られている。

また、これは国内外に対して虚勢を張る意味もあるだろう。つまり、核・ミサイル開発は、北朝鮮の理にかなっているといえる。米国の同盟国を脅かす核兵器や軍事力がなければ、北朝鮮はおおむね無視される存在だからだ。

正恩氏は政権を握った時、7日以内に朝鮮半島を征服する新たな戦争計画を立てるように軍部に指示した。最近のミサイル発射と核兵器の実験は、まだ開発中のテクノロジーを微調整することと、すでに配置可能な兵器で戦争計画を訓練することという2つの目的を兼ねている。

昨年ノドンを発射した時、北朝鮮は釜山上空で核兵器を空中炸裂させる訓練をしていたと述べていた。釜山は米国の増援部隊が停泊する主要港だ。今年はこれまでに、北朝鮮はスカッド射程拡張型ミサイルを日本に向けて4発発射し、日本の米軍基地への空中核爆発攻撃の訓練をしていたと発表した。つまり、核兵器とミサイルの開発能力は、多くの目的を果たしているのだ。

――そうした能力を北朝鮮が有しているという事実は、米政府が予防攻撃を検討する十分な理由になりうるか。

米国が冷戦の間、ソ連に対してとっていた、そして実際に現在ロシアと中国に対してとっているような封じ込めと抑止戦略をとるべきだ、と私は考えている。

ロシアおよび中国政府は、現在の北朝鮮政府が持つ量をはるかに越える核戦力を保有している。米国はこれに納得していないが、この状態の中でサバイブしてきた。米国は、北朝鮮に対して先制攻撃も予防攻撃も行うべきではないし、実行可能な選択肢でもない。予防攻撃を行えば、戦争を防止するための戦争に発展するだけだ。

ドナルド・トランプ政権が、こうした攻撃を検討しているかどうかは、ハッキリとしていない。が、もし米国が脅威と感じる、あるいは危険だと思える技術的レベルに北朝鮮が達することがあれば、軍事的選択肢もテーブルの上に載ってくる、とレックス・ティラーソン国務長官は3月に発言している。

また、ハーバート・マクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官は、北朝鮮が米国を核弾頭で攻撃する能力を持つことは容認できないと大統領に伝え、大統領が予防攻撃の選択肢を考えるように指示した、と述べている。トランプ大統領は実際、くしくも長崎の原爆投下の日に、乱暴な言葉を使って北朝鮮を挑発した。これははたして、単なる攻撃ではなくて、核攻撃をも意図する発言だったのだろうか。

が、これを境に、ジェームズ・マティス国防長官、ティラーソン国務長官、マイク・ポンペオCIA長官は、この選択肢から背を向けようとしているように見える。政府関係者は複雑なメッセージを発しており、真相はわからない。つまり、(攻撃の)可能性は低いが、その可能性はゼロではないということだ。

抑止力は一定の効果を発揮している

――なぜ抑止力は、金政権に機能していないのか。今の北朝鮮と、スターリン時代のソ連、毛沢東時代の中国との違いは何か。

まず、抑止力が機能しないという前提に、私は同意できない。マクマスター大統領補佐官は、抑止力が北朝鮮には機能しないと示唆しているようだが、彼の推論は、予防攻撃を提唱するほかの人々の推論とは異なっているようだ。正恩氏は非常に残忍なので、古典的な抑止力は通用しない、とマクマスター補佐官は考えているわけだ。

スターリンと毛沢東は、金一族以上に多くの自国民を殺害しているが、彼らに対しては、抑止力は機能しており、彼らが米国や同盟国を攻撃することはしなかった。一方、北朝鮮は戦術レベルの攻撃を展開したことも時にはあったが、米国が韓国を守るという約束があるために、大規模な攻撃は思いとどまってきた。

われわれは、自国と同盟国を守らなければならず、抑止と封じ込め戦略を実行するために、弾道ミサイルなどしっかりとした防衛能力が必要だ。

――北朝鮮への予防攻撃の可能性はどれだけある?

私は、米政府職員や、協調関係にある韓国政府職員に会うたびに、その質問を投げかけている。が、その時期によってさまざまな感想を得ることになるので、それが気掛かりだと思っている。

――米政府関係者の中には、米国が予防攻撃を行う意思はないと北朝鮮は思っているという意見もある。つまり、北朝鮮は米国からのいかなる攻撃も想定していないため、不意を突くことができるという見方だ。

大規模な軍事衝突につながらなかった先制攻撃の例として、シリアの原子炉へのイスラエルによる攻撃を挙げる関係者もいる。イスラエルはまた、イラクの核開発を妨げようとして、イラクの原子炉も攻撃していた。これらの早期予防攻撃の提唱は、予防攻撃の選択肢を検討している者が政府関係者の中にはいることを表している。

彼らの主張によれば、北朝鮮もまた、全面戦争を恐れて、少数の主要な標的への戦術的攻撃には対抗しないだろうと。一部の人々がこの方法を議論しているという事実があるのだから、この可能性はゼロではないということは明らかだ。

日米韓の協力関係はどうなっているのか

――しかし、この考え方には大きな間違いがある。

(早期予防攻撃を行えば)大規模な全面戦争に発展する危険性が非常に高い。北朝鮮の戦術的攻撃に米国が対抗することを避けてきたのは、これが理由だ。北朝鮮が予防攻撃にどのように反応するのか、誰も予測できないのだ。北朝鮮による報復攻撃は、間違いなく深刻なものであり、予防攻撃は慎重を期すべきものといえるだろう。

マティス国防長官は最近、一部のアナリストたちが「強硬的」と考える発言をしていると憂慮している。が、それらの発言は長期にわたる米国の追認にすぎない。つまり、北朝鮮の攻撃は戦争行為にあたるもので、米国はこれに応戦するだろう、というものだ。しかし、これは予防攻撃とは別物だ。予防攻撃は非常に危険で向こう見ずな行為だと考えている。

――日米韓の3カ国の協調関係についてはどう考えるか。

米国は、同盟国との関係強化につねに力を入れてきたし、今もそうだ。しかし、これは特に韓国の国民の反感を買わないように、水面下で行うことが大切で、実際には世間が知っているより、3カ国の軍事的連携は行われている。

3カ国とも、軍を統合しないまでも、緊急時においては3カ国の軍事連携が非常に重要なことはよくわかっている。韓国は、米国が日本の協力なしには、韓国を守れないことを知るべきだ。つまり、日本にある軍事拠点を利用しないわけにはいかない。また、日本の地雷撤去技術や対潜戦能力が必要なだけでなく、日本に米艦隊を守ってもらう必要もある。

――現時点で考えられる外交戦略は?

米政府での議論はつねに圧力か関与かという二択になりがちだ。が、これは同じコインの表と裏のようなもので、この2つのことを行いながら、つねに違うアプローチも実行するというのが本来は望ましい。私は通常、北朝鮮に対しては、関与、外交、交渉という戦略も余地があると考えている。

ただし、現時点では交渉の余地はあまりないかもしれない。が、北朝鮮の政府関係者とは定期的に意見交換の場を持つべきだろう。今のところは、面談は中級レベルの外交職員同士にとどめておき、時期が来たら高官同士の面談に駒を進めればいい。しかし、気をつけなければいけないのは、北朝鮮が核開発の中止に合意するという前提に立たない限り、公的な交渉を始めるべきではないということだ。

「二重凍結」案は筋が悪い

北朝鮮が核開発を休止する代わりに、米韓による軍事演習を休止するという「二重凍結」を提案する声もあるが、これは北朝鮮による国際的に認められていない行為と、国際的に認められている軍事演習を同等に扱っている点で筋が悪い。そもそも、北朝鮮は国連の安保理決議において核およびミサイル実験を中止することを求められている。

仮に現実的なオプションがあるとすれば、北朝鮮が夏冬の軍事演習を休止する代わりに、米韓が軍事演習を休止するというものだろう。

――金政権が「弱体化」している兆候はあるか。

金体制が弱体化している兆候が見えようが見えまいが、米国が実行すべき戦略は、情報分析の確度を向上すると同時に、心理戦を制することだ。

北朝鮮内外で同国の情報を得ることは非常に重要である。米国は、東欧に対してそうしたように、金政権の土台を揺るがし続けなければいけない。これはたとえば、高度な技術を使う方法もそうだし、より古典的な方法で北朝鮮の情報を得るといった方法によって、金政権を弱体化させていくべきだ。