「2週目に勝ち進む自信はない」と錦織は複雑な心境をみせるも、フェデラーは高評価 [ウィンブルドンPreview]

写真拡大

 錦織圭(日清食品)が「ウィンブルドン」(7月3〜16日/イギリス・ロンドン)に対して抱く感情には、裏腹な2つの側面がある。

「芝でプレーするのは楽しい」。しかし、「ほかのグランドスラムと比べると、ここだけはセカンドウィークにいく自信が出てこない」のだ。後者のような発言が漏れる背景には、特に近年、芝とケガがセットになっているからだろう。

 セカンドウィークに残るということは『ベスト16』以上だ。多くの選手が目標にする領域であり、例えば今大会の本戦に名を連ねる日本の男子3人、女子5人の中で、シングルスでセカンドウィークを経験したことがあるのは、錦織のほかには昨年このウィンブルドンでベスト16入りした土居美咲(ミキハウス)しかいない。しかし、少なくともトップ10プレーヤーが目標にするところではないし、ましてやそこに残る自信がないなどと言うのも珍しい。

 無理もない。過去2年、連続して棄権。2回戦を戦わずに棄権した一昨年に続いて、昨年は同年代のライバルでもあるマリン・チリッチ(クロアチア)との4回戦の途中で苦渋の決断をするに至った。しかも、前哨戦のハレで故障して棄権、完治しないままウィンブルドン入りというパターンは、過去2年と同じだ。3年連続となれば、不運や偶然とは言いにくい。錦織は「これという原因はわからない」と言うが、重い気分だけは拭えない様子が見てとれた。

「痛めたあとしばらくは動けなかった。でもしっかり休んでだいぶ回復したので、月曜日には間に合うと思う」と話したが、「間に合うと思う」という言葉を聞いても容易に安心できないのは、昨年も開幕前には「間に合うと思います」とまったく同じことを言っていたからだ。一昨年は少し自信のトーンが弱いものの、「たぶん、大丈夫です」と言っている。実際、間に合うと言いながら、「多少の不安はある」とも吐露した。そんな錦織に対し、日本のメディアはともかく、多くの海外メディアはどこか冷めた対応だ。

 錦織が過去にベスト8に残っていない唯一のグランドスラムであり、体調に不安を抱えて迎えるグランドスラム。ドローを見れば、世界ランキング105位(6月26日付)でありプロツアーで芝の大会の経験が一度もないマルコ・チェッキナート(イタリア)との1回戦はもちろんのこと、3回戦まで当たりそうな相手は、ほかのコートならほとんど心配の念を抱かないはずだが、ウィンブルドンだとどうも嫌な相手に思えてくる。それをくぐり抜けてセカンドウィークに飛び込めば、4回戦には強敵チリッチが待っているだろう。そこを越えることができたなら......そこから先の想定カードを挙げるのは早すぎる気もする。ほかのグランドスラムとはそのあたりが異なる。

 しかし、ロジャー・フェデラー(スイス)は相変わらず注目選手の一人に錦織の名前を挙げた。若手の中でチャンピオンになるとしたら誰かと問われ、まずはニック・キリオス(オーストラリア)とアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)という〈若手〉と呼ぶにふさわしい選手の名を2人挙げ、こう続けた。

「ラオニッチ、ニシコリ、ディミトロフはいい位置にいる。彼らがずっと上まで勝ち上がってきても、誰も驚かないだろう」

 彼らを若手と呼べるのかどうかは微妙だが、聞いた記者が「30歳未満」と若手を定義したのを受け、フェデラーはそうした面々の名を口にしたのだ。

 フェデラーは4月にも、年齢にかかわらず脅威に感じている選手の名を何人か挙げたが、その中で30歳未満の選手は錦織とドミニク・ティーム(オーストリア)だけだった。ティームが消えてミロシュ・ラオニッチ(カナダ)とグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)を加えた意図までは説明しなかったが、サーフェスに拠らず錦織に一目置くフェデラーの目はなぜかブレない。

 そこに、錦織の言った「芝でプレーするのは楽しい」という言葉、アグレッシブにウィナーを狙いにいくプレースタイルが重なる。フェデラーは、過去の成績も現在の体調面も関係なく、錦織のプレーは芝に合っていると感じているようだし、勝ち進むチャンスがあると自身の物差しをもって信じているらしい。また、「勝ち進んでも誰も驚かない」という表現は、錦織のポジションをよく表してもいる。今季はどちらかというと低調なシーズンで、今、特別に注目を浴びているわけではないが、その爆発力は誰もが知っているからだ。

 フェデラーの安定した錦織評価と、芝のプレーが楽しいという錦織のピュアな感覚が、故障明けの錦織にもひょっとしたらと望みを抱かせてくれる材料なのだが、果たして壁越えは叶うだろうか。(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)

※写真は7月3日に始まる「ウィンブルドン」に向けて練習する錦織圭(日清食品)