人生100年、医療保険はどんなものに入れば安心か

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■いつ入ればお得なのか約款の注意点は何か

ファイナンシャルプランナーという仕事柄、「医療保険に加入すべきか」とよく聞かれる。その背景には、「高額療養費制度や傷病手当金など公的医療保険が手厚いので、あえて入る必要はない」という最近の論調があるようだ。私の基本的な考え方としては、お金のある人には不要、ない人には必要ということに尽きる。

例えば、Aさんが大腿骨を骨折して40日間入院したとして、試算してみよう。

Aさんが30歳の会社員で、標準報酬月額が30万円の場合、医療費の自己負担として、入院基本料や手術料などの合計が約18万円。これに食事の標準負担額が一食260円。1日3食で3万1200円が加わる。差額ベッド代1日5000円と合わせて41万円余りなので、1日当たり1万円強。働いている人は所得減少分(年収500万円なら4600円程度)を補てんすると約1万5000円。これらを預貯金で賄えるなら医療保険は不要だ。

私は、発生頻度は低いものの、手持ちの預貯金ではカバーしきれない不慮の支出に備えるのが保険の役割と考えている。最近は「日帰りでも入院給付金が出ます」とか「入院1日目から出ます」といった商品もあるが、短期入院は手持ちのお金でまかないやすい。

むしろ、長患いのときこそ威力を発揮する終身医療保険を選択したほうが賢明だ。その際に重要なのが、月払い掛け金の安さや日額給付金の多寡に惑わされず、掛け金と給付金、それぞれの総額がいくらになるかを判断することだ。つまり、いくら掛け金を払うのかと、長期入院でいくら受け取れるのかを確かめるわけだ。

ここでは全労済の「新総合医療共済」を例に説明する。一般論として、病気をより心配するのは老後なので、50歳と60歳時点での加入で考えてみよう。その場合、毎月の掛け金と払い込み期間を掛ければ支払い総額が計算できる。そして、払い込み期間は平均余命を用いればよい。

まず、50歳男性なら月額4000円で、平均余命まで377カ月。支払い総額は150万8000円。一方、60歳は月額5570円、平均余命273カ月で152万610円となる。その差は、わずか1万2610円でしかない。この傾向は、何歳から加入してもほぼ同様だ。払うコストが変わらないなら、若いうちに入るほうが得だ。

その際に注意しなければいけないのが、一入院あたりの支払い限度日数だ。いま問題とされているのが「180日ルール」である。

もし、一入院の限度日数が60日で、入院日額5000円の医療保険に入っているBさんが糖尿病を治療するために、50日間の入院を3回、50日ずつ空けて行ったとする。入院日数の合計150日分、75万円がもらえると思うはずだ。

しかし、そこには制限があって、最初の60日分である30万円だけになってしまう。なぜなら、同じ病気で再入院する場合、最初の退院日の翌日から、2回目の入院の日まで180日超空いていないと、継続している入院とみなされてしまうからだ。ただし、全労済の共済なら、一入院の限度日数が180日なので、150日分の75万円が給付される。多少、掛け金は高くても一入院の限度日数が長い医療保険にしておくほうが望ましい。

ところが、ここに来て別の病気が原因で入院しても「180日ルール」が適用されてしまう厳しい医療保険も出てきている。掛け金は安いが、高齢になれば複数の病気を抱えている人も少なくなく、私は大きな問題と考えている。だから、医療保険に加入する際、面倒かもしれないが、約款やしおりをきちんと読んでおくことが大切だ。

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塚原 哲
生活経済研究所長野 事務局長。労働組合シンクタンク「生活経済研究所長野」事務局長。CFP。医療施設を含む全国の労働組合を対象に、年間200回以上の講演を行う。「家計の見直しセミナー」も開催、ウェブ配信している。雑誌「日経マネー」にて、「男の家計改善」を連載中。

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(生活経済研究所長野 事務局長 塚原 哲 岡村繁雄=構成)