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スポーツやコンサートなどが開催される巨大なスタジアムでは、その命名権(ネーミングライツ)をスポンサー企業などに販売し、スタジアムの運営やスタジアムの所有者であるスポーツチームの運営費にあてることがあります。例えば東京都調布市にある東京スタジアムのネーミングライツは味の素が取得しているため「味の素スタジアム」として多くのスポーツファンに親しまれています。東京スタジアムの命名権取得に味の素は5年で10億円という金額を支払っているのですが、そんな多額の資金を使って取得したスタジアムのネーミングライツを、ある製薬会社は無償で放棄したとして大きな話題となっています。

Darmstadt honour fan Johnny Heimes by renaming stadium | SV Darmstadt 98 - bundesliga.com

http://www.bundesliga.com/en/news/Bundesliga/noblmd1-darmstadt-honour-fan-johnny-heimes-by-renaming-stadium.jsp



Bundesliga club Darmstadt add name of tragic fan to stadium title | Football | The Guardian

https://www.theguardian.com/football/2016/sep/05/bundesliga-club-darmstadt-name-fan-stadium-title

Darmstadt renames stadium after cancer-stricken fan

http://www.usatoday.com/story/sports/soccer/2016/09/05/darmstadt-renames-stadium-after-cancer-stricken-fan/89879290/

話題となっているのはドイツの「メルク・シュタディオン・アム・ベーレンファルター」というスタジアム。同スタジアムは日本代表の香川真司選手や長谷部誠選手など、多くの日本人サッカー選手がプレイするドイツのサッカーリーグ・ブンデスリーガに所属するSVダルムシュタット98のホームスタジアムで、ネーミングライツは製薬会社メルクが保持していました。

そのメルクが年間30万ユーロ(約3500万円)を支払って取得していたネーミングライツを放棄しました。その後、スタジアムの保有者であるSVダルムシュタット98は新しい名前が「ヨナタン・ハイムス・スタディオン」になったことを発表しています。



メルクがネーミングライツを放棄し、スタジアム名が変更されたのは、同スタジアムを本拠地とするSVダルムシュタット98のサポーターであるヨナタン・ハイムスさんがガンとの闘病の末、2016年3月にこの世を去ってしまったから。ハイムス氏はブンデスリーガがこれまで行ってきたガン患者支援キャンペーンの中でSVダルムシュタット98とコラボレーションしたこともある人物。そのハイムス氏を評し、スタジアム名を「ヨナタン・ハイムス・スタディオン」に変更したというわけ。



SVダルムシュタット98のトップチームでキャプテンを務めるアイタチ・スル選手は、新しいスタジアム名について「僕らは今、ジョニー(ハイムス氏の愛称)のリビングルームでサッカーをプレイしているんだ。これはそれだけで素晴らしいモチベーションになるよ!」と語っています。

スタジアムのネーミングライツを放棄したメルクに対し、ハイムス氏の父親であるマーティン氏は「メルクがクラブをとても愛していた私の息子のためにスタジアムのネーミングライツを放棄してくれたことは非常に素晴らしい対応でした」と感謝の言葉を述べます。

ハイムス氏は2015年に、プロテニス選手のアンドレア・ペトコビッチ氏とガン患者を支援するための非営利組織「DUMUSSTKAMPFEN」を設立したのですが、同組織はハイムス氏の死を受けてSVダルムシュタット98のユニフォームのメインスポンサーであるSoftware AGと交渉。その結果、SVダルムシュタット98の今シーズンのユニフォームではSoftware AGのスポンサーロゴの代わりにDUMUSSTKAMPFENのロゴが入ることが決定しています。さらに、ユニフォームを販売するSVダルムシュタット98はユニフォームの全ての収益を寄付に回すことを発表。

なお、ダルムシュタットを走る路面電車(トラム)も「ヨナタン・ハイムス・スタディオン」の名前が書かれたものにその姿を変えています。