日本初の試み!さいたま市の無料SIM配布は成功するか? 香港の成功例との違いとは

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さいたま市が海外からの観光客向けに、無料のSIMを配る計画だという。狙いは、さいたま市に訪れる観光客を増やすことだ。日本では前例のないこの試みに注目が集まっている。
SIMを呼び水に東京を訪れる観光客をさいたま市に呼び込むこともできるかもしれないからだ。

日本を訪れる観光客数は年々増えている。
しかし、東京や大阪などの大都市、京都や北海道など、定番の観光地に集中している。
さいたま市のように、海外でのネームバリューの少ない都市は、海外のガイドブックに紹介されることも少なく、観光客を誘致することは難しい。


観光客向けのプリペイドSIMが増えてきたが、さいたま市では無料で配布を行う計画だ


さいたま市に来て宿泊すれば無料でSIMカードがもらえる」
こうした情報が広がれば、「立ち寄ってみよう」と考える観光客は増えるかもしれない。

その理由は3つ考えられる。
まずさいたま市は東京から近い。
東京から浦和までは30分以内、大宮までは40分程度だ。新幹線に乗車すれば大宮までは25分で済む。また、最近では都内のホテルが取りにくいこともあるので、ホテルの確保とあわせてアピールすれば宿泊客を呼び込むことができるだろう。

次に。日本を訪れる観光客の85%はSIMフリーのスマホを持ってやってくる。
日本政府観光局(JNTO)によると、日本を訪れる海外観光客数の内訳は、実に全体の約85%がアジアからとなっている。日本のおもてなしや和のテイストは欧米だけでなく、アジアからの観光客にも好評ということだ。

実はアジア各国ではスマホはSIMフリーで販売されている。日本のようなSIMロック販売はされていない。つまりこれらの客に無料SIMを提供すればこぞって自分のスマホのSIMを入れ替えて使いたいと思うだろう。

アジアでは、日本は通信環境が特殊な国だとまだまだ思われている。
ちょっと前までは観光客が買えるプリペイドSIMはほとんど無かった。また世界共通の2G方式(GSM方式)が提供されていない。

このため「自分のスマホは日本で使えない」と思っている外国人もまだまだ多いのだ。
プリペイドSIM購入は、家電量販店や空港のSIM自販機が増えている。とはいえ、アジア各国の1000円程度に比べて、日本では3000円以上と価格はまだ高い。
しかし、これが無料で手に入るならば、さいたま市での宿泊を検討する可能性も高まるだろう。


プリペイドSIM自販機も増えているが、他のアジア各国と比べると料金は割高だ


観光客は、いつでもネットを使いたい
日本のホテルやカフェ、そして駅などは、無料Wi-Fiが使えるエリアが増えている。
しかし、最近の観光客は、日本滞在中に写真を撮影し、ネットにアップするような人が増えている。日本人と同じように、いつでもネットに繋がっていたいのだ。
さいたま市で無料SIMを入手できれば、積極的に活用してくれるだろう。

実際、SIMを無料配布したくらいで効果があるかは未知数だ。税金を使うことに対して疑問の声も上がるだろう。
しかし通信環境の無償提供は海外の観光客から確実にポジティブな反応が期待できる。

実際に海外では観光客向けの無料SIMの配布で、成功例があるのだ。


香港では完全無料の観光客向けプリペイドSIMをMVNOキャリアが配布している


香港ではMVNOキャリアの1社が観光客向けの無料SIMを配布している。1週間まるまる無料で使うことができるのだ。
無料で利用するためには専用のアプリを入れ、表示される広告をクリックする。1クリックごとに一定の無料データがたまっていくので、使い続けたい人は広告をどんどんクリックしなくてはならない。でも面倒なようで、実は表示される広告は観光客に有用なレストランやお土産店、ショッピングモールなどとなっている。

つまり広告をクリックするというよりも、気になるお店の情報を見続けれていれば無料で使い続けられるという面白いアイディアの製品なのだ。
この便利さでこの無料SIMの人気は急上昇している。当初、SIM配布場所はホテルや旅行代理店だけだったが、今では空港に専用カウンターができるまでにビジネスが成長しているのだ。

このように海外で成功の可能性や前例もある無料SIM配布だが、懸念点もある。
香港の無料SIMはMVNOが観光客へのアピールや表示される広告の管理などをしっかり行っている。これに対しさいたま市のSIM配布は、観光客へのアピールなどが十分にできるかが心配だ。さいたま市のホームページや区役所に告知を出す程度では、海外の観光客まで情報が届かない可能性もある。

とはいえ無料SIM配布という、日本国内では前例のない取り組みを行うさいたま市にはエールを送りたい、
しかし、実際に観光客が飛びつくような施策を行わなければ税金の無駄遣いで終わってしまう可能性もある。
無料SIMをどうやって活用していくのか、同市の今後の動きには注目したい。


山根康宏