いま多くの人が、賞賛しているネイマール。だが、最近のメルマガでも述べたとおり、僕はそこまで持ち上げる気にはなれずにいる。少なくとも、ブラジルが誇る歴代のスーパースターに比肩するレベルにはないと思う。リバウド、ロナウド、ロナウジーニョ、カカー(全盛時の)等、最近のスターにも及ばない。

 ブラジル戦後、多くの選手、及び評論家は「個の力」にやられたと述べたが、かつて、たとえば06年ドイツW杯で敗れた(1対4)ときより、その印象は薄い。当時のブラジルの方がメンバーは断然、豪華だった。
 
 特に最終ラインを除いた前の6人(ジウベルト・シウバ、ジュニーニョ・ペルナンブカーノ、カカー、ロバウジーニョ、ロナウド、ロビーニョ)の能力は、図抜けていた。まさに個の力で日本を上回っていた。
 
 だが、彼らはベスト8で消えた。準々決勝でフランスにあっけなく敗れた。理由は、組織力で下回ったからだ。
 
 同じくベスト8で姿を消した2010年南アW杯のブラジルもそうだった。組織力と個人技。この2つの比較でいうと、劣っているのは組織力だった。サッカーゲームの進め方に、ブラジルは問題を抱えていた。
 
 その流れに終止符が打たれようとしているのが現在の姿だ。監督がルイス・フェリペ・スコラーリに交替したことと、それは大きな関係がある。
 
 ブラジルのサッカーといえば、中盤ボックス型の4−2−2−2が定番だ。4年前、8年前のブラジルはまさにこれだった。欧州で流行していた4−2−3−1や4−3−3とは一線を画す布陣で戦っていた。
 
 サッカーの中身も、守る人と攻める人がハッキリと2手に分かれる非プレッシング的なものだった。オールドスタイル。欧州のサッカーの流れに基づけば、そう言い切っても過言はない。この古典的ともいうべきスタイルから抜け出さない限り、ブラジルは勝てないんじゃないか。スコラーリの代表監督就任は、そう思っていた矢先に決定した。
 
 スコラーリは、ブラジル人監督の中で近年、欧州で最も活躍した監督だ。何といっても光るのは、ポルトガル代表を率いて準優勝に輝いたユーロ2004と、同様にベスト4入りした06年ドイツW杯になる。さらにユーロ2008でも、ベスト8入りを果たしているが、その方法論はもちろんブラジル式ではなかった。まさに4−2−2−2ではなく4−2−3−1だった。
 
 サイド攻撃をサイドバック単騎で仕掛ける4−2−2−2と、それにもう一人加わる4−2−3−1が対戦すれば、4−2−2−2がサイドで後手を踏むのはわかりきっている。欧州で4−2−2−2が全く流行らない理由だが、4−2−2−2がメインのブラジルでは、その特異性は浮き彫りにならない。4−2−2−2が廃れることなく息づいている一番の理由だ。
 
 だが、W杯の対戦国に4−2−2−2で戦う国はない。ほとんどが4−3−3を含む、4−2−3−1系のサッカーをする。ブラジル代表には、非ブラジル的な監督が求められていた。
 
 もちろん、この条件にはまる人物はスコラーリただ一人。その代表監督就任を聞いたとき、僕の中でのブラジル株は一躍上昇した。ブックメーカーの反応も鋭かった。それまで、2014年W杯優勝予想で一番手に挙げられていたのはスペインで、ブラジルは2位に甘んじていたが、両者の関係はその就任を機に逆転。まさに図ったように入れ替わった。
 
 しかし、スコラーリはまず親善試合でイングランドに敗れ、イタリアとロシアに引き分ける好ましくないスタートを切った。サッカーの内容もよくなかった。布陣は4−2−3−1ながら、それが徹底されておらず、従来のブラジル臭さが随所に見え隠れした。