『菜々子さん的な日常 DASH!!』瓦敬介/小学館
うっかりでチラ見えしちゃう健康優良な素晴らしい少女「菜々子さん」を見てドキドキする、昭和の高校生活を描いた『菜々子さん的な日常』は、2000年に連載されていた作品。それが二度目の復活。もちろん中身は、一切変わっていません!

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あの『菜々子さん的な日常』が帰ってきたぞー!
ここで「おお!」とわかるのは相当マンガにくわしい方、特に10年以上前のエロマンガに詳しい方だと思います。

と言っても『菜々子さん的な日常』はエロマンガではありません。
ちょっと複雑なので、簡単に流れを説明しましょう。

2000年からの連載。今から10年前です。
成年向け漫画雑誌『ホットミルク』(注・現在のコンビニ売り雑誌のホットミルクは別物です。『漫画ブリッコ』から流れを受け継いだ、サブカル色の強い雑多感の強い雑誌)に最初連載され、途中で『ホットミルク』が休刊。
そのまま『コミックメガキューブ』が刊行され、『菜々子さん的な日常』も移住。2002年まで掲載され、1、2巻が発売されました。

主人公の瓦くんは、昭和の終わりの北海道でクラス高校生。彼の一人称のコラム風にマンガは進みます。短ランなのが懐かしい。
当然携帯電話なんてナシ。だるまストーブがあり、ちょっと寒い木造校舎が舞台です。
オムニバス形式で、瓦くんが菜々子さんの、すこぶる健康的なエロスを垣間見ては「菜々子さんでした」と語る短編集。
とにかく菜々子さんは元気で、かなりうかつで、彼女のパンチラやおっぱいにドキドキする! そんだけ!
本当にそんだけ。瓦くんと菜々子さんは「友人」以上のなにものでもなく、一切ラブとかありません。
菜々子さんのパンツ見えそう!! 見え……見えっ……!?
菜々子さんのおっぱいはみだしそう……はみだしっ……!?
これの繰り返し。

そうそう、これなんだよ! 高校時代に求めていた「エロス」は。
もちろんファンタジーな展開もありますが、作者の瓦敬介いわく実体験も元になっているとのこと。
一話ごとのページ数はとても短いです。
昭和の思い出で増幅され、「乳・尻が見えるか見えないかの幸福」が、ぎゅっと詰まっています。
高校時代一番考えるのはまず、セックスとかじゃないよ。
おっぱいとおしりが見たいかどうかだろ?
男子なら、わかってくれると、信じてる。
こういうワクワクドキドキって、すごくときめく。大人になった今だって。男はいつでも少年だから。だから。

加えて、昭和の高校生の描写が非常に細かい。
ぼくは北海道の人間なので、描かれていることの正確だけでにやけます。
冷たいところに座っていたら服が張り付くし、電車の窓は二重サッシ。
北海道にはコタツがほとんどない、とか全くその通り。
ギシギシ言う木造の廊下や、だるまストーブに入れるコークスを運んだ経験のある人には、グッと来るシーン満載でした。
2000年当時の読者はモロにリアルタイム世代かもうちょい下か、でしょうか。
懐かしいもののちょっとエッチなことって、激しく心を刺激するんです。クラスメイトの女子のこと、色々覚えていませんか?
そのみんなのイメージのイコン。クラスメイト妄想の代理としての、彫像的キャラクターが、菜々子さんなのです。

最初の『菜々子さんさん的な日常』には成年マークが付けられます。
しかし、実際に中身を見ると、全くそういう成年漫画的なシーンはないです。
お色気はありますが、これが成年マークだったら少年漫画山ほど成年マーク付きになってしまいます。一切からみないですし、もろだしもないですから。
理由はおそらく「当時の出版事情」でしょう。
ただ、有名な作品だったので、買った人で「エロシーンないじゃないか!」と怒った人はさすがに……いないとは思います。そのくらい健全。
今も一部の雑誌に残っている、「エロマンガ雑誌の中にある、エロくないマンガ」枠だと考えて構わないと思います。特に旧「ホットミルク」から「メガキューブ」時代は盛んでした。

その後、成年雑誌『メガストア』にて、『菜々子さん的な日常RE』が2006年から再開されます。
時代自体がかわり、こんどこそ成年マークなしです。
内容も良い意味で、一切変わっていません。
一応最初の2巻では完結編的なエピソードもありますが、『RE』は高校生の日々をそのまま連載しています。

そして今回発売された、『菜々子さん的な日常 DASH!!』。
今度は媒体をかえて、携帯コミック「モバMAN」での連載になります。

もう10年以上。時代は変わりました。マンガも変わりました。
作者の瓦敬介も「三部けい」名義のミステリー漫画の執筆が圧倒的に増えました。こちらも面白いです。
でも菜々子さんにだけは、変わってほしくない。
うっかりヒロイン菜々子さんは、そのままであってほしい。
瓦くんとの距離もそのままでいてほしい。
そして、再開された『菜々子さん的な日常 DASH!!』は、そのままでした。
もう偉大なるマンネリです。
いや考えてみたらすごいことですよ、昭和高校生の健全ドキドキ体験を、世紀をまたいでやり続けているんですから。

一巻となっているので、今後も続くと思われますが、おそらくこの作品は、変わらないままだと思います。
変わらないことにこそ、意義がある作品だからです。
2000年前後に読んでいた人、そしてこれから読み始める人。両方にとって菜々子さんは、「永遠のうっかりヒロイン」として記憶に残るはず。
クラスメイトの恋人じゃない女の子の、忘れられない、思い出。尻。


瓦敬介 『菜々子さん的な日常 DASH!!』

(たまごまご)