J1リーグが第7節を終えた4月下旬、千葉県内で日本代表候補の合宿が行なわれた。23日に集合し、25日午後に解散するショートキャンプである。国際Aマッチデイではないため、招集されたのは国内組だけだ。

 前週末のドイツ・ブンデスリーガでは、ドルトムントがリーグ連覇を決めていた。香川のシーズン13点目が、優勝を決定づける一撃となった。ケガの連鎖に陥っていた本田は、所属するCSKAモスクワでようやく復帰を果たしていた。

 リーグ戦の合間に集合したのは、GK3人、DF10人、MF4人、FW6人の23人である。一見するとポジションのバランスが良くない20人のフィールドプレーヤーが、トレーニングで各ポジションに二人ずつ収まった。3−4−3のシステムで、だ。

「はい、ここっ!」

 ザックが指示したボールの位置に合わせて、10人のフィールドプレーヤーがポジションを修正する。一人ひとりの身体の向き、近くにいる選手との距離感が確認される。

「次、ここっ!」

 ボールの位置が変わり、選手たちはまたポジションを移動する。身体ではなく頭で汗をかく作業は、たっぷり一時間以上続いた。

「どうやって3−4−3をやるのか、みんなとりあえず分かっただろうし、頭に入ったんじゃないですか」

 国内組では数少ないレギュラーの遠藤は、いつもどおりのマイペースなコメントだ。この半年ほどで代表の常連となった清武も、「またやり方を思いだしたし、しっかりやれればいいなと。自分たちのモノになったら、すごくプラスになる」と意欲をうかがわせる。

 代表初選出となった山田(磐田)は、「すごく難しいけれど、監督の言っていることが明確なのでやりやすい」と言葉を弾ませた。「攻撃も守備も決め事を作ったほうが、スムーズにいくのかなと感じました。ミーティングもかなり時間を割いてくれたので、頭では理解できました」。

 同じく代表初選出の高橋(FC東京)も、刺激的な時間を過ごした。よどみなく語られる言葉が、内面の興奮を表わしている。

「相手にかかわらず10人の距離感とフォーメーションにこだわっている感じがして、すごく面白いと思いました。まずは距離感からハメこんでの連動の仕方はすごい。もしこれがハマったら、絶対に失点しない、裏も取られない、相手に持たれてもいつでも取れる、そんな雰囲気がありました」

 最終日に練習の成果を問われたザックは、複雑な表情を浮かべた。3−4−3の習熟度については、「取り組もうとする選手の姿勢が良かった。モチベーションを高く持ち、代表の誇りを持ってやってくれている」と、抽象的な答えにとどめている。

 もっとも、わずか3日間──実質的には2度の練習と1度の練習試合のみ──で3−4−3が身につくなどとは、ザックも考えていない。6月に開幕する最終予選を、見据えたものでもなかった。「すでに代表に参加してきたメンバーは復習として、新しい選手は理解を深めてほしい」というのが目的である。

 むしろ成果に上げられるのは、バックアップ層の見極めだろう。
 ワールドカップ3次予選開幕を1か月後に控えた11年8月にも、ザックは国内組だけで合宿を行っている。北朝鮮との第1戦をまえに中村憲、本田圭、森本が離脱すると、ザックは増田(鹿島)、ハーフナー・マイク、田中(柏)を追加招集した。いずれも、8月のトレーニングでチェックをしていた選手だ。3次予選でスーパーサブとなる清武も、代表定着のきっかけは8月の合宿だった。

 メディアの視線が3−4−3に集中したこの合宿でも、ザックは新戦力を見極めていた。 ユーティリティ性に優れる高橋(FC東京)とドイツ移籍が決定している酒井宏(柏)が、ここからチームの一員となっていく。
(第3回へ続く)