『ばけばけ』写真提供=NHK

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 髙石あかりがヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』が現在放送中。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描く。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語。

参考:『ばけばけ』髙石あかりの好演が作品を底上げする トキが照らした“周囲の人々”のドラマ

 第122話では、心臓の不調を訴えていたヘブン(トミー・バストウ)がトキ(髙石あかり)の肩に頭をもたれ、静かに息を引き取った。

 制作統括の橋爪國臣は「この場面に関しては、ドラマを作り始めた当初から“あるだろう”と思っていました。縁側になるかどうかはわかりませんでしたが、最後に西向きの部屋で、夕日を絡めた2人の素敵なシーンが作りたいと思っていたんです」と語り、「その日の撮影は絶対に見ようと思っていて、他の仕事を放り投げて現場に行きました(笑)」と撮影当日を振り返る。

「その前の場面で『悲しむことはない』『泣かないで』というやり取りもありましたが、我々としてはどちらでもいいと思ったんです。泣かないと本人が思っていても、泣いたら泣いたでいいですし、どちらでも感動できるシーンになるだろうなと。リハーサルの時から髙石さんもトミーさんも『絶対に泣かない』と言いながら臨んでいましたが、結果はあのようなかたちで。でも、それで全然いいんです。ヘブンの『泣かないで、楽しんでください』という遺言を聞いて、泣かないように努めるトキ。会話も少なく、淡々としたセリフですが、2人の愛の結晶が凝縮されたシーンになったかなと思います」

 トキとヘブンが涙を流し、風で枯れ葉が舞う最期の場面は、無音が30秒以上続く異例の演出に。橋爪は「2人の最後のシーンですし、音がない演出っていいなと思っていて。チーフ演出の村橋(直樹)からも事前に話を聞いていましたし、2人の思いに馳せられる、といいましょうか。音楽で導いてあげることも大事ですが、今までに十分積み重ねてきたものがある。音がないからこそ、そんな2人の思いに一番深くまで潜ることができる、それによってたどり着ける部分もあると思うんです」と説明する。

「無音が30秒以上続く場合には、放送事故を防ぐために事前に申請をしなければいけないんですよ。NHK内のシステムで、30秒無音が続くとエラーが出るので、事前にそのエラーを解除しなきゃいけないようで。でも、そこまでしてでも視聴者の皆さんに、“2人の深い思い”にグッと入ってほしいと思ったシーンでした」

 この日の放送では、普段流れるハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」にのせたタイトルバックもカットされたが、橋爪は「タイトルバックをなくして、しっとりといくべきかなと思っていて。内容も盛りだくさんでしたが、尺の都合は関係なく、最初から『なしでいこう』と話していました」と打ち明ける。

「やっぱりヘブンが亡くなるこの回は、全125回の中でもとてもとても大きな日だと思うんです。そこは特別な演出にしてもよかろうと、村橋とも話していました。『笑ったり転んだり』が流れて、写真が走馬灯のように見える演出もいいなとは思いましたが、思い出を振り返るというよりは、今起きていることの悲しみだったり、喜びだったり、ありがたさだったり……そんな“今”に集中してほしいという思いが一番大きかったです」と、タイトルバックカットの狙いを明かした。

 あらためて橋爪は、バストウの芝居を「本当によかったですね」と絶賛。「もちろん日本語が喋れるということもありますが、やっぱり役者としてのレベルがとても高いんですよね。髙石さんと一緒で、準備をしっかりとされる方なので、キャラクターがブレないし、そのキャラクターなりの反応をするし、どんなセリフもその人物の言葉にできる。2人の“役になりきれる力”がすごく強かったと思います」と高く評価する。

 さらに、「彼の持っている人柄もとても大きかったと思います。オーディションの時からそれを感じて彼にお願いしましたが、どんな人も嫌いにならない、本当にいい人なんです。何が彼をそうさせているのかわかりませんが、どんなに悪いセリフを言わせても、『根はいいヤツなんだな』と思わせることができる。それはプライベートでもそうなんですよね。そんなトミーさんの人柄が、役ににじみ出ていたと思います」と続ける。

「このレフカダ・ヘブンという役は、実は癇癪(かんしゃく)持ちだし、無理難題も言うし、結構イヤな人にも見えるんですよね。金持ちの外国人が日本にやって来て、自分のやりたいことを好き放題やっていると捉えることもできる。イヤな人に見える瞬間も絶対にある役だったと思いますが、その瞬間がなぜかかわいらしく見えるというか。トミーさんの人間性が役に出る。それが彼のすごさだなと思いました」

 長い撮影期間を共に過ごした橋爪は、バストウの今後にもエールを送る。「今はもうバンクーバーに戻ってしまいましたが、ここからさらに世界に羽ばたく役者になっていく。その活躍に心から期待しています」と力を込めた。

 物語はいよいよ大詰め。へブンを失ったトキがどう生きるのか。その行く末を、最後まで見守りたい。(文=nakamura omame)