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埼玉県行田市で、生んだばかりの赤ちゃんの遺体を自宅の庭に埋めたとして、15歳の女子中学生が死体遺棄の疑いで逮捕された。

3月16日、少女の父親が遺体を発見し、110番通報した。報道によると、少女は「1人で生んだ」「部屋に赤ちゃんを隠しておけないと思い埋めた」と容疑を認めているという。

事件が報じられると、SNS上では「なぜ孤立出産した少女の身体拘束が必要だったのか」「責任は相手男性にあるのではないか」といった疑問の声が上がった。一方で「赤ちゃんの命を軽視するべきでない」とする意見もみられる。

こうした議論について、猪野亨弁護士は「日本社会は、望まない妊娠が起きたとき、たとえ未成年であっても女性側に責任を背負わせる現実に目を向けるべきだ」と指摘する。

●必要なのは逮捕ではなく教育的配慮だった

生まれたばかりであっても、遺体を遺棄すれば死体遺棄罪(刑法190条)が成立する可能性があるため、警察が捜査すること自体は当然です。

しかし、女子中学生を逮捕する必要があったかについては疑問が残ります。

任意の事情聴取に応じないなどの事情があればともかく、今回のケースでは逃亡や証拠隠滅のおそれがあるとは思えず、容疑を認めていることも踏まえれば、原則どおり任意捜査で対応すべき事案だったと考えます。

後述しますが、この少女に必要なのは教育的配慮です。自らのやったことに葛藤があったことは想像に難くありません。孤立した状態で出産に至ったことを考えれば、逮捕という強い身体拘束は心身にあまりに大きな負担となりかねません。

●孤立無援だったと想像できる

少女が妊娠し出産するまで、同居する父親も気づかなかったというのですから、誰にも相談できないまま出産に至ったと考えられます。

胎児は日々成長し、中絶が可能な期間はすぐに過ぎてしまいます。近年「孤立出産」が社会問題となっていますが、特に未成年の場合、知識も経験も乏しく、どうしていいかわからないのは無理もありません。

母体保護法では、原則として本人と配偶者の同意が必要とされていますが、未婚の場合は本人の同意で中絶が可能とされています。

しかし、病院が保護者の同意を求めることも多く、費用面も含めて大きなハードルになっていたと思われます。

●「自分を大切にすること」を学ぶ

この赤ちゃんの父親が誰なのかという問題もあります。

もし相手が年上や成人だった場合、妊娠の可能性を理解しながら未成年と関係を持っていた可能性があります。少女を大切にしよう、という気持ちがあったとは言い難いでしょう。

そうした事情を考えれば、少女に本当に必要なのは「命の大切さ」を説くことだけでなく、まず自分自身を大切にすることを学ぶ機会です。

家庭裁判所を通じて保護処分になる可能性はあると思いますが、そもそも家庭内で相談できなかった背景も含めて、社会全体でどのように支援していくのかを考える必要があります。

このような少女を罪に問うのは行き過ぎです。刑罰を科すほど悪質性がある場合はともかく、孤立した少女本人が被害者とも言えるからです。

●「胎児の命」だけを強調すべきではない

「赤ちゃんの命を大切にすべきだから、厳しく罰するべきだ」という声もあります。

もちろん、無事に生まれた後に命を落としたのであれば、保護責任者遺棄致死や殺人などの重い罪になります。

しかし、そもそもその子が「望まれて生まれてくる状況だったのか」という背景にも目を向けなければなりません。

自分で胎児を堕ろす行為を処罰する「自己堕胎罪」は、現在でも刑法上存在しますが、実際に適用される例は極めて少なく、刑罰も軽めです。出生直後の子どもの命を奪ってしまう罪も、通常の殺人より軽くなっています。

こうした刑法の規定とのバランスを踏まえると、「胎児や生まれたばかりの赤ちゃんの命」だけを強調しすぎて過度に厳しい処罰を求めるのは妥当ではない、と考えます。

●未成年に責任を押し付ける社会

宗教的価値観などを背景に中絶を厳しく制限している国もありますが、日本社会では、望まない妊娠が起きたとき、たとえ未成年であっても女性側に責任を背負わせる現実に目を向けるべきです。

保護処分に留めたからといって、自分自身で胎児の命を自由に処分できることを認めるということにはならないし、「刑罰を与えよ」という主張は単なる応報的な発想に基づくだけのものと言わざるを得ません。

●社会に必要なことは女性側にだけ責任を押し付ける現状を変えること

あくまで私見ですが、日本社会では、なぜか男性側よりも女性側に厳しい視線が向けられがちです。

「母性がないのか」といった非難は、少女に対する酷い中傷にすら感じます。

今回の事件は、未成年である少女が、社会の矛盾を一身に背負わされる構図を示しています。

社会に求められているのは、女性側だけに偏った形で責任が押しつけられている現状を変えていくことです。根底には男女差別社会があります。少年法の理解すらも十分に浸透しているとも思えません。

少なくともすぐにできることは、強制捜査のような形で少女を追い詰めるようなことは即刻やめることです。社会に間違った認識を植え付けかねません。

【取材協力弁護士】
猪野 亨(いの・とおる)弁護士
札幌弁護士会所属。離婚や親権、面会交流などの家庭の問題、DVやストーカー被害、高齢者や障害者、生活困窮者の相談など、主に民事や家事事件を扱う。
事務所名:いの法律事務所
事務所URL:https://law-ino.com/