〈窓ガラスを割られ血だまりが…〉“闇バイト保育士”に強盗事件の被害者が思うこと「犯行に気づいてほしかったのか」「許せない一方で同情してしまう」〈鎌ヶ谷・強盗〉

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一連の「闇バイト」による強盗事件に関連し、千葉県鎌ヶ谷市の住宅に10月14日、複数人が侵入する事件があり、県警は同23日、東京都新宿区北新宿の保育士、前田祐一郎(25)と同葛飾区西水元の会社員、河合優介(31)の両容疑者を住居侵入容疑で逮捕した。事件当時の様子はどうだったのか、そして加害者に対しどう思っているのか。被害者に話をきいた。

〈画像〉血だまりになった床の跡と投げ込まれたブロック塀

 

「ヤバイ、アレだ…闇バイトだ」

一連の闇バイト強盗に関して千葉、埼玉、神奈川3県警と警視庁が立ち上げた合同捜査本部は、前田・河合両容疑者が秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」で指示役と連絡取り合いながら犯行に及んだとみて調べを進めている。

この事件ではいち早く家族が侵入者に気づき、容疑者らは何も盗らずに逃走していた。
被害にあった鎌ヶ谷市の住宅に住む男性が、集英社オンラインの取材に応じた。

「ガラスが割られたのは14日未明の午前2時ごろのことでした。僕は2階の寝室で就寝中で、最初に気づいたのはたまたま起きていた女房でした。

たぶんガラスを叩いただろう『ドーン』という音がして、ちょっと間を置いてまた同じような音がしたそうです。女房が言うには地鳴りがするレベルの音と衝撃だったそうで、あとから『何で気づかなかったの?』と言われほどです。

その2回目の『ドーン』という音におかしいと思った女房が私を起こしに来たんです」

妻のただ事ではない様子に慌てた男性は、急いで階下に駆け下りた。

「女房が『なんだろう。何の音だろう』『誰かが家を叩いてる。それかお母さんが倒れたのかも』と青ざめていました。

とにかく下に様子を見に行こうと階段を降り始めると『ガシャーン』とガラスが割れる音がしました。階段を降りながら女房は警察に電話をしていました。1階で寝ている母親の事も心配でしたし、とにかく様子を見るため階段を降りました。

そのあたりで『これはヤバい、アレだ』と頭をよぎってはいました。闇バイトによる強盗のニュースはよく見ていましたから……。ガラスの割れた先は廊下なのですが、そのあたりで物音がしていて何人かいるような気配がありました」

リフォーム、貴金属の買取り…すべて断っていた 

しかし人影は見えず、男性はとっさに子供が遊びで使っていた厚紙を丸めた棒を手に取った。

「その棒で床を叩きながら、『誰だ? 誰かいるのか?』と叫ぶと『見つかった』という若い男の声がして、ガチャガチャとガラスの音などとともに走り去るような気配がありました。

まず母親の安全を確認してから、廊下やあたりの様子や部屋の様子を確認すると、割れた窓ガラスで犯人が手や足でも切ったのか、そこらじゅうにポタポタと血が垂れた跡が残っていました。

血痕は母親の寝室の前まで垂れていたので、もうちょっとで母親の部屋に入るところだったのかとゾッとしました。

報道で知る一連の強盗の手口を考えるといきなり殴りつけて縛りあげるわけですから、本当に被害がなくて良かったですよ。

母親はトイレで目が覚めて用を足し部屋に戻ってふとんに入った直後、ガラスが割られたということで起きていたんです。ただ、その物音も2階で何か物でも落としたのかなと思っていたそうです」

母親に状況を説明しているころ、妻の110番通報を受けたパトカーがやってきた。通報から5分も経っていなかったという。

「最初はパトカーが来て、駅前の交番の方や鎌ヶ谷署、船橋署からも応援が来て『鑑識や警察犬も来ます』とお話をされました。

それからもうひっきりなしに人が出入りして朝8時すぎまでバタバタしていました。10人以上はきていましたよ。後から思い返してもなぜウチが?って思いますよ。本当に下調べをされたような記憶がまったくないんですよ。

リフォームだとかの電話も来ましたが全部断っていましたし、貴金属の買取りの電話もあったけど『ウチには何もないですよ』って断っていました。本当に何もないんでね。

誰かが訪ねてくるとかもなかったですし。ただ、オレオレ詐欺の電話はやたらかかってきますし、そういった電話に気をつけるような放送がよくあったのは確かですけど」

事件から10日経っても、当時の恐怖はなかなか拭い去れないという。

「いや、怖かったですよ。ほんと。棒で床を叩いて叫んでる時、たぶん震えていたと思いますよ。自分でもよく声が出たなって思うくらい。子供もいたし、家族を守らなきゃって一心だったんだと思います。

今でも時間が経てば経つほど怖くなってきて。夜は怖いし、いったん寝ついても、目が覚めると物音が気になったりします。朝起きれば大丈夫かなって家の周りをグルって見て回ったりしています。それでも家族の誰もが怪我もしませんでしたし、それは不幸中の幸いだった思います」

保育士なら優しい男性だったんじゃないか」 

自らが被害に遭った「闇バイト強盗」については、こんな風に感じているという。

「この間、警察に調書を確認しに行った時に、ウチにきた犯人は逮捕された2人で終わりといったことを聞きました。

これは推測ですけど、最初のドーン、ドーンという音自体も間をあけてしましたし、ガラスが割られるまで10分間くらいかかってます。ひょっとしたら気づいて欲しかったのかなって。

ほんとはやりたくないから、気づかれたから逃げたって(指示役に)言えるじゃないですか。1人は自首してるし、そんな気持ちもあったのかなと思います。実際、最初の音で通報してれば彼らがウチにいる間に余裕で警察が到着していたはずです」

ガラスを破るのにはブロックを使った形跡があったが、ここにも犯人2人の躊躇した様子が垣間見られたという。

「ブロック塀はウチの近くにあったものを使用していますが、ウチのガラスは5ミリあるんで相当頑丈なんですよ。報道では指示役と繋げたままやっていたということでしたが時間に間隔を空けていたのは、まあ、躊躇や葛藤があったのかもしれませんね。

ただ、家族も全員、いまだに恐怖心があるし、これだけ怖い思いさせられてやっぱり許せないですよ。それにしても闇バイトみたいな馬鹿らしいことを何でやってしまうのか。

犯人にしても、自分の親兄弟が被害に遭ったら相当怒るはずですよ。もし軽い気持ちでやっているなら今一度考え直して欲しいです。

彼らのことを庇いたいわけじゃないですけど、身の上がわかってくると、保育士なら優しい男性だったんじゃないかとか思ってしまいます。犯人もまた脅されてやって怖かったんだろうなって。

保育士って給料も大変だって聞きますし、結婚してんのかな、子どもいるのかなとか余計なことまで考えちゃいます。許せない一方で同情してしまう部分もあるんですよね……」

容疑者2人は完全な素人。被害に遭った男性は現場の状況からそう直感したという。

普通なら窓ガラスを割ったらその穴から鍵を開け、侵入しそうなものだが施錠はそのまま。大きく割れた危険なガラスの穴から室内に入り込んだだろう彼らは、手袋も用意していなかったのだろう。破片で多数の切創を負い、おびただしい出血をした形跡が至るところで見つかった。

何が実行犯をここまで凶暴な犯罪に追い立てるのか。捜査本部が指示役ら強盗団のリーダーを捕縛して初めて、一連の事件解明の幕は上がる。

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取材・文 集英社オンライン編集部ニュース班