共通テスト「探究問題」解ける人と解けない人の差
(写真: metamorworks / PIXTA)
最近の学校のテストや入試問題では、問いを立てて身の回りのことに疑問を持つ、「探究型思考力」が問われる傾向にあります。『アカデミックマインド育成講座』を監修した東大カルペ・ディエムの西岡壱誠氏が、問題が解けずに悩んでいる子どもに対して、有効なアドバイスを紹介します。
2025年度の大学入学共通テストには、大きな変更点があります。新教科として「情報」が加わり、国語では大問が追加されます。
また地理・歴史は、「地理総合」「歴史総合」「日本史探究」「世界史探究」「地理探究」に変更となります。
この「探究」は、「攻略するのが難しい」と思う受験生も多いのではないでしょうか。社会科は「知識を覚えれば解けるから、攻略が簡単」といったイメージがあるかもしれません。
しかし「探究」となると、知識があるだけでは解けません。その場で資料やデータを見ながら、「考えて」答えなければならないのです。
探究型の問題は得意?不得意?
僕たちは、こうした「考えて解く問題」の攻略のために、全国の学校で「アカデミックマインド育成講座」という講座を行っています。
講座の中では、こんなクイズを出しました。この問題に対するアプローチの仕方で、探究型の問題が得意かどうか、はっきりわかる、という問題です。
それは、「江戸時代から大正時代にかけて、平均身長が伸びたのはなぜか」という問いです。
少し説明をしましょう。現在男性の平均身長は170cm程度、女性であれば158cm程度と言われています。
しかし、江戸時代の平均身長は男性では155cm程度、女性では143cm程度だったとされています。大正時代に入ると、男性は162cm程度、女性151cm程度まで、伸びたと言われています。
時代が変わっただけで身長が伸びるというのは、不思議な話ですよね。きっとそこには、なんらかの原因があるはずです。
この問題に対して、単純に考えると、こんな答えをしてしまいます。
「大正時代になって、日本国民がみんな、美味しいものを食べられるようになったからではないか」
「時代が変わって、食文化が西洋化したからではないか」
この答えは、間違っているわけではありません。ですが、この答えに満足してしまっている人は、探究型の問題で大苦戦することになります。
江戸時代に平均身長が低かった理由は?
なぜなら、この解答だと「大正時代に平均身長が伸びた理由は?」という問いの答えしか考えていないからです。
問題は、「江戸時代から大正時代にかけて平均身長が伸びた理由」です。ということは、この答えではまだ半分しか答えたことになっていません。つまり「江戸時代に平均身長が低かった理由は?」という問いも、考えないといけないのです。
よく考えてみましょう。「江戸時代の平均身長は男性で155cm程度、女性で143cm程度」というのは、なんだか低くないですか?
実は平均身長が低くなる要因だと思われる事情があったのです。
江戸時代まで、日本では肉食がタブー視されていました。その理由は、仏教の影響だと言われています。仏教には生き物を殺してはいけないという教えがあり、そこから肉食をしない文化が広まったのです。つまり、今よりも動物性タンパク質を取ることが難しかったわけです。江戸時代に身長が伸びなかったのは、そういう理由があるのだと考えられます。
明治時代になってからは、文明開化が起こり、西洋文化が日本に入ってきました。江戸時代末期に鎖国が解かれたことで、明治から大正にかけて、いろんな外国の食材や料理も流入し、洋食風のレストランも相次いで開業しました。
これにより肉食が広まり、だんだんと動物性タンパク質を摂取する機会も増えたことで、平均身長が伸びたのではないかと考えられます。
これを踏まえて、解答例はこのようになります。
解答例:江戸時代には仏教の影響で肉食が禁忌とされていたが、明治時代に入ると肉食が解禁された。明治から大正にかけて、多くの人が肉を食べることになり、身長を伸ばすうえで重要になる動物性タンパク質を取ることができたから。
この問題からわかることは、「変化=変化前の状況から、なんらかの要因で変化後の状態になること」だということです。要するに、変化を語るためには、変化前と変化後の両方を考えなければならないということです。
例えば「歌が上手くなったね」と言われたら、「元々そこまで歌が上手くなかったのに、今では上手になった」というギャップがあることを示していると考えられます。昔から歌が上手だった人に「上手くなったね」とは言わないですよね。
変化後だけではなく、変化前も考える
2025年度からの地歴では、こうした探究型の問題がより重視されることが予想されますが、現在でもこれらの問題は頻出です。
今回は日本史の問題でしたが、世界史や地理といった科目でも、このように変化を問う問題が多く出題されています。
「この数字が伸びたのはなぜですか?」「なぜこのような変化が起こったのか、選択肢の中から選びなさい」といった問題を解くためのカギは、「変化後だけではなく、変化前がどうだったのか」という思考です。
みなさんぜひ、参考にしてみてください。
(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)