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 世界を股にかけるジャーナリストと言えば聞こえはいいが、渡航費用に視聴者からの受信料が充てられるとなれば、いかがなものか。しかもこの人物、不祥事の責任を取ってNHKの理事職を辞したばかり。これには現場職員からも、あきれる声が聞こえてくるのだ。

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【写真を見る】「経費で世界一周」を企てた元NHK理事

 ことの発端は、公共放送の管理体制が問われる前代未聞の不祥事だった。

 NHKラジオの国際放送などで、中国人の外部スタッフが「尖閣諸島は中国領」「南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな。彼女らは戦時の性奴隷」といった類の不適切発言をした問題。先月10日、NHKは稲葉延雄会長ら幹部4人の減俸、国際報道を担当していた理事・傍田(そばた)賢治氏(62)の引責辞任で幕引きを図ったはずだった。

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“偽装辞任”と批判

 それから間もない先月26日、毎日新聞が報じたスクープが、事態を再燃させた。記事によれば、理事を辞した傍田氏は、メディア総局エグゼクティブ・プロデューサーとして再雇用。しかも辞令は17日付、辞任のわずか1週間後だったとして、まるで“偽装辞任”だと批判されている。

 しかも、である。後追いを含め、この件を取り上げた新聞テレビは詳しく報じていないが、傍田氏がNHKで任される仕事は、まさに不祥事が起きた国際報道の分野だというのだ。

 ここに傍田氏が〈海外総支局の皆さま(cc国際部基幹職の皆さま)〉と題して同僚たちに一斉送信したメールがある。

 その中で彼は、自らが〈海外総支局業務改革担当〉に就任、国際報道の発信強化に努めるなどと述べた上で、以下のような驚くべき一文を末尾に書いている。

〈今後できるだけ多くの総支局にお邪魔して、特派員の皆さんの生の声を聞きたいと思っています。私の業務は人事のヒアリングでも内部監査でもありませんので安心して、現場の率直な意見を聞かせてもらえれば助かります〉

「記者たちは青息吐息」

 傍田氏はNHKに入局後、政治部や国際部の記者、ワシントン特派員を経て、モスクワ支局長、アメリカ総局長を歴任してきた。局内では“国際畑”のエキスパートだと評価されているというのだが、後輩たちの見方はやや異なる。

NHKは、北米南米、欧州、中東、アフリカ、アジアなど全世界に29の取材拠点、いわゆる総局や支局を設けていますが、そこへ自ら足を運ぶと宣言したわけです。局内では“経費で世界一周旅行か……”なんて揶揄されていますよ」

 と明かすのは、さるNHK関係者だ。

NHKの昨年度決算は、受信料収入が前年度より396億円減の6328億円で、減少額は過去最大。5年連続の減少という状況で取材現場には合理化の嵐が吹き荒れています。NHKにおける報道の要は『災害』と『選挙』ですが、ここ最近でも取材用ヘリや総選挙のための経費が削られているんです。現場の記者たちは青息吐息なのに、引責理事を真っ先に再雇用した挙げ句、ムダな海外出張を認めるなんて世間に示しがつきませんよ」

本人に聞くと……

 さすがに現場の記者たちの中には真っ当な感覚を持つ人間もいる様子だが、当の傍田氏はどう答えるか。

 ご本人の自宅を訪ねると、

「広報を通してください」

 改めてNHKに見解を求めると、

「今後は、海外特派員としての豊富な経験や知見を生かして、海外総支局の業務の見直しなどに取り組んでもらいたいと考えています」(広報局)

 かような身内に甘い処分では、視聴者も、先頃大団円を迎えた朝ドラの主人公よろしく「はて?」と言いたくなるだろう。

「週刊新潮」2024年10月10日号 掲載