東大入学後、遊び倒しても後悔なし…神脳・河野玄斗が語る「ベストな選択」のために必要な力

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昨今、理系YouTuberによる、分かりやすい数学ものチャンネルが人気だ。その背景には、「子供の頃は理系が苦手だったがあらためて学び直したい」という、大人たちの“理系への憧れ”があるよう。実際、YouTubeチャンネルに限らず、書籍も『子供も分かる……』、『苦手でも……』といったタイトルの、分かりやすい数学関連本が続々出版され人気を博している。

数学の魅力を知り尽くす人気理系YouTuberたちに、数学を学ぶことの本当の楽しさ、さらに学び方のコツをリレー連載の第三回は、YouTubeチャンネル『Stardy―河野玄斗の神授業』を配信する、河野玄斗さんに取材。前編に続き後編では、東京大学理科三類を卒業し、医師国家試験、司法試験、公認会計士試験を含め、あらゆる資格試験に合格した彼が考える、“理系的思考”を習得するメリットとは?

もっとも役立つ理系的思考とは?

できなかったことをできるようにするために、要点を把握する力や、できなかった原因を分析し同じような場面で応用していく力など、勉強を通して様々な能力を身に着けてきた河野玄斗さん。これはまさに、昨今多くの人が身に着けたいと思っている“理系的思考”の一部だと感じるが、数学を得意とし、徹底的に学びと向き合ってきた河野さん自身は、理系的思考とはどのような思考だと考えているのだろうか?

「実生活でもっとも生きる理系的思考は、課題解決能力と同義なのではないかと思っています。数学というのは、与えられた条件と求めたいゴールがあって、その条件とゴールをどういうふうにつないでいけばいいのかということを、一個一個論理を積み重ねながら道筋を組み立てていく、そういう学問だと思っています。

それって日々生きている中で、誰もが大なり小なりやっていると思うんですよ。たとえば『これを達成したいな』と思ったとき、自分の現状を前提にした『達成のためにはこれができるよね』というアプローチと、逆算的な『達成のために必要なのはこれだよね』というアプローチを考える。

この2つを組み合わせて道がつながったら、『じゃあこの道を歩んでいけばいいんだ』ということが見えてきます。皆さん、様々な課題で無意識にこういった思考プロセスをとっていると思うんですけど、これはまさに数学でとる思考プロセスと一緒。だから僕は課題解決能力が、日常でもっとも生きてくる理系的思考だと思うんです」

実際河野さんも、日々、この課題解決能力の有用性を感じているという。

「今年に入って始めたボクシングでも生きていますが、それよりも、日々の小さな『今こういうことで困っているな』というシーンで頻繁に使っていると思います。数学で大事なのはやはり“条件”なので、困ったら常に『自分は今何を与えられているのか?』『じゃあそのリソースをどれくらい割けるか?』といったふうに条件を考え、次にゴールを意識する。『こうしたい、そのためには最低限これとこれが必要だな』と。そうすると、今いる地点とゴールからの道筋がつながるので、あとはその道筋どおりに歩けば達成できる。そんなふうに課題を解決することはけっこうありますね」

東大入学後、毎日遊び倒した結果……

もちろん、この思考プロセスをとればあらゆる困難を解決できるというわけではない。ただ上手くいかなかったときも、どこに問題点があったか見出しやすいし、何より、何も考えずに失敗したときに比べて圧倒的に後悔が少ないのでオススメだ、と河野さんは語る。

「現実は想定外のことがいっぱいありますから、いくら考えたところで上手くいかないことはあります。でも僕が大事だと思うのは、仮説を立てたかどうか、なんですよね。仮説を立てたものの、思った結果が得られなかったら、『なぜそうなったのだろう、ここの部分が違っていたんだな』という一つの大きな学びを得られますし、場合によっては『あの時点ではこの選択はベストだった』と肯定もできますから、無駄に“失敗体験”を増やすことにもなりません。

例として適切なのか分かりませんが、たとえば僕は大学に入った後、1年半ぐらい毎日遊んでいたんですね。その理由というのは、社会人になった後は遊びづらくなる、と考えたから。20代半ば以降はずっと働いて頑張ることになる、という未来を考えたら、“頑張る担保”が必要だと。それが『自分は遊びたいときに遊びきった』という思いだなと思ったので、大学時代は何なら熱が出てきているときですら『微熱だし遊ぶか』と無理して遊んでいたほど。それによって大学を出た後に仕事に全集中できるはず、という仮説のもとに遊んだわけです」

しかし河野さんは、大学2年のときに思い立って司法試験を目指すことを決めた。すると、今まで遊び過ぎたツケが……。

「やっぱり遊んでばかりいたので、試験までに勉強が間に合うかカツカツだったんです。普通ならここで、『遊ばなきゃ良かった……』と思ってしまいますよね。初めからもっと勉強しておけば良かったと、何も考えずに遊んでいたら後悔すると思うんですけど、僕は十分に考えたうえで理屈で遊んでいたので、全く後悔がなかったんです。むしろ、今ここまで勉強を頑張れているのは『もう遊びきった』という感覚があるからだ、だから遊んでいる人を見てもいいなあという嫉妬が生まれないんだ、と遊んだ時間を肯定できたわけです。

ちゃんと仮説を立てて、自分の中で納得感を持って行動したものって、結果が上手くいかなくてもそれはあくまで結果論で、ミスではない。その時点でのベストな選択をしたんだ、という肯定感が持てるので、心理的にも多いに良い側面があると思います」

「解けない」を明確に突きつけてくれる唯一の学問

こう聞いていると、やはり身に着けたくなってくる“課題解決能力”。そこで、習得にオススメの方法はあるのか伺ってみた。

「いやもう、それは数学を勉強することだと思います。いろいろな問題を解いていると、やはりどうしても解けない問題というものに出くわすわけです。このときどう考えるかというのが、ある意味腕の見せどころで。ただ解答を見て『こうやって解くんだ、へえ〜』で終わってしまうのか、『こうやって解くんだ、どうやってこの解き方を思いつくんだろう!?』と、自分の中で再現性を身に着けられるような思考をするのか。その差はかなり大きいですよね。

たとえば国語や社会を勉強をしていて、そういう思考をするきっかけってあまりないじゃないですか。『なぜこの漢字が書けなかったんだろう?』とか、『どうしたらこの問題で織田信長と答えられるようになるんだろう?』とか。

でも数学は明確に『解けない』という現実を突きつけられる学問なので、『解けないものを解けるようにするにはどうしたらいいんだろう?』と考えやすくなる学問でもある。この考え方を意識しながら数学の問題に一問一問向き合っていくと、理系的思考は自ずと身に着いていくはず。結果、日常生活の課題においても同じ考え方ができるようになると思います」

やりたいことがないなら数学を学べ

この課題解決能力をほぼ完璧に身に着けたことが、東大理三の受験を初め、河野さんが難関と言われるあらゆる試験を突破できた鍵であると言えるかもしれない。しかし興味深いのは、そんな河野さんが「必ずしも偏差値の高い大学に行く必要はない」とコメントしていることだ。多様化する今の時代、理系的思考を持って考えたとき、どのように生きるのが一つの正解だと思っているのだろうか?

「基本的には、得意なこと、やりたいことを突き抜けさせる、というのがいいと僕は思っています。多様性が広がる中で、この能力に関してはこの人より抜きんでる者はない、という状態になってしまえば、それはもうその分野では引っ張りだこですから。

だからこれからの時代は、自分の得意な部分を伸ばし、その能力で戦っていく、というスタンスがいいんじゃないかと思うんですけど……、問題は、多くの人は『これがめちゃくちゃ好き!』というものがそこまではない可能性がある、ということだと思っていて。そこで提案したいのが、とくにやりたいことがない人はみんな数学をやればいい!ということです」

これは一体どういう意味なのか!?

「僕は常々『勉強はコスパ最高の遊びだ』というふうに言っているんですね。なぜかというと、今やっている勉強って後々様々なシーンに応用されて、学んだ時間や量以上に大きく回収できるわけじゃないですか。いわば投資における複利のように、メリットが積み重なっていくものだと思うんです。

たとえばたくさん学んで学歴が上がれば、収入の高い仕事に就ける確率が高くなり、すると生涯賃金がグンと高くなる。先ほど『必ずしも偏差値の高い大学に行く必要はない』と言ったんですけど、これは学びたいものがハッキリしている人の場合で、そうでない場合はやはり、学んだ量が多いほど収入増加に結びつきやすい。

とくに数学を学ぶと、課題解決能力が培われやすいので、社会に出て直面する様々な課題に、より解像度高く取り組むことができ、高い評価を得られやすくなると思うんです。数学に限らず勉強というのは、やったらやっただけ回収率が上がる最高の自己投資だと僕は思っているんですけど、その中でも数学は一番複利の大きい学問じゃないかと考えています」

YouTubeで『10時間勉強』を配信するワケ

河野さんは自身のYouTubeチャンネルで勉強配信として『10時間ぶっ通し勉強』(10時間に限らず、6時間や24時間!の場合も)という動画シリーズを配信している。これはただひたすら、河野さんが机に向かって勉強している姿を10時間流し続ける、というものなのだが、「勉強するときに流していると頑張れる」などと、意外な高視聴回数を誇っている。この人気企画を考えついたのも、学びの有用性を伝えたいと強く思ったからだったという。

「みんなに『勉強は役立つから』『いいものだから』と言って、当の僕が何もしていなかったら説得力がないなと思って。自分で実際にがっつり勉強しているところを見せて、『ほら、僕もやっているでしょう?』と言えるようにしようと思ったんです。

で、当時、勉強している姿を配信している人はいたんですけど、どれも1時間ぐらいだったんですね。なら10時間やったら面白くない?と思って。本当にその理由だけで始めたんですけど、さすがに10時間も配信する人なんていないから、『この人ヤバいよね』って感じでけっこう話題になって(笑)。思った以上に企画として上手くいったので、その後継続して配信しているというわけです」

とはいえ、10時間も勉強するとなると気力も集中力も続かなそう。その能力は一体どうやって身に着けたのか?

「意外とやってみるとできるものなんですよ。実際、司法試験に挑んでいるときは毎日10時間ぐらいの勉強は当たり前にしていたし、そういう人って東大生にはたくさんいます。それこそカメラを置いて、みんなに見られながら『今から10時間勉強してください、それがあなたのミッションです』と言われたら、皆さんできると思いますよ。もちろん途中でボーッと別のことを考えたりするのもアリなので。それで実際10時間勉強してみたら、『ああ、1日頑張ればこんなにも作業って進められるんだ』と気づいて、むしろ快感につながっていくんです。

とはいえいきなり10時間は大変かもしれないので、少しずつ増やしていくといいと思います。最初は3時間、そして4時間、5時間と。そうしたら『意外といけるな』と、学び時間がどんどん増えていくと思いますから」

ちなみに河野さんにとって、その学んでいるときの気持ちはどのようなものなのだろう? 楽しいのか? だとしたら、どんな楽しさなのか教えてもらった。

「学びにもよりますけど、数学で言うと、僕は数学を謎解きとかパズルの類だと思っているので、遊びに近い楽しさがあります。もちろん最初は、計算練習とか九九を覚えなきゃとか、修行のような期間が存在します。でもそれを身につけた後には、その集めてきた武器でいかにして新しい敵を倒していくかという、数学の本質的な面白さが待っている。

皆さん、謎解き番組を見ているときって一緒に解きながら楽しんでいると思うんですけど、数学ではそれと同じことが参考書の中でできる、という感じですね。『この問題、どう解くんだろう。こう変形したら上手くいきそうだな』とか、問題文の伏線を読み取りながら、自分の持っている武器で分解していく。

僕にとって数学はそういう感じなので、完全に謎解きです。しかも閃きと論理で難しい問題を崩していけるというのは、めちゃくちゃ気持ちがいい。たとえれば、テトリスで上手くピースを積み重ねていって、最後にポーンとはめて一気に消す、あの爽快感に近いですね」

「この人、頭がいいな」と思う人物は……

インタビュー中、一貫してあらゆることへの考え方、そして伝え方が論理的で明確で迷いがなく、しばしば圧倒されてしまうことも。これは理系的思考を完璧に身に着けてきたがゆえと思われるのだが、そんな河野さんから見て「この人は頭がいい」と感じるのは一体どういう人なのか。気になって伺ってみた。

「ひとくちに“頭がいい”と言ってもいろいろあると思うので、答えるのが難しい質問ですね。たとえば大谷翔平さんに『運動神経がいいと思う人って誰ですか?』と聞いたとしたら、『サッカー、バスケ、陸上……、それぞれのスポーツにおいて、いるなあ』と思われるんじゃないかと思うんですね。

運動神経と十把一絡げに言っても、いろんな要素があって、それぞれのスポーツにおいてそれが発揮されているというだけですから。“頭がいい”というのも同じで、記憶力がいい人もいれば計算能力が高い人もいる。あるいは、場の空気を察知してウィットに富んだことを言える、そういう頭の良さもありますよね」

そう前置きをしたうえで、「本当にいろいろあるものの、そういった中で僕が個人的に『この人、頭がいいなあ』と感じる要素は、会話の中でアナロジー(=似ていることを根拠にして違う物事を推し量ること。類推)を見つけるのが上手い人です」と教えてくれた。が、そう言われてもイマイチよく分からないのだが……?

「たとえば会話において、全く違うものを引っ張り出してきて『お前、〇〇かよ!』とツッコめる人。これって具体的な話の抽象的な側面を引っ張り出して、その同じ抽象カテゴリーにある全く別の具体的なものを持ってきて、ツッコんでいるわけです。

代表的なのが、フットボールアワー・後藤さんの『高低差ありすぎて耳キーンてなるわ!』という有名なツッコミ。これは、ブサイクとされている芸人さんがめちゃくちゃイケメンに撮られた写真を提示したときのひと言ですが、イケメンに見える写真という“具体”から、高低差という“抽象”を引っ張り出してきて、そこからさらに、高低差によって起こる身体現象・耳がキーンとなるという全く別の“具体”を引っ張り出してきている。この一連のステップを瞬時にやっているわけです。くりぃむしちゅーの上田さんとかもそうですけど、こういうアナロジーを用いたツッコミができる人は『めちゃくちゃ頭いいな』と圧倒されます。

実のところ数学の勉強も同じで、たとえば因数分解なら、教科書は何ページも割いていろいろな具体例を載せていますけど、おこなうべきはそれを一つ上に抽象化して、別の同じタイプの問題に当てはめて具体化していくこと。数学の問題を解くにはこの作業が重要なわけですけど、ツッコミが得意な人は、これを日常の会話でおこなっているんだなと感じます。それが意識的か無意識的かは分からないですけど、思考プロセスとしては数学に近いなあと感じています」

繰り返し、様々な角度から、数学を学ぶことの大切さと有用性を説いてくれた河野さん。最後に恒例の、「数学を学び直したい人へのオススメ理系本」についても教えてもらった。

「何歳ぐらいだったかなあ。ちょっと忘れてしまったんですけど、子供の頃に読んでいたドラえもんの学習シリーズで、『ドラえもんの算数おもしろ攻略 文章題がわかる』というのがいいんじゃないかと思います。

これは『続・文章題がわかる』というのと2冊あって。鶴亀算とかニュートン算とか、中学受験のかなり難しいものとかも載っているんですけど、パズル感覚というか脳トレみたいな感じで楽しく学べるんですよ。面白いので僕は暇なときにいつも寝転がって読んでいたんですけど、今思うとけっこう算数思考の基礎になったような気がしています」

算数・数学についてお伺いする取材だったが、実はこう言った「理系的思考」はすべての考え方に応用が効くことを教えていただいた。おすすめいただいた本はもちろん、河野さんの勉強法、思考法を参考にして “できなかったことをできるようにする”能力を身につけると、私たちも生きやすくなるかもしれない。

河野玄斗・プロフィール

1996年3月生まれ。神奈川県出身。2020年3月、東京大学医学部卒業。東大在学中の2018年にクイズ番組『頭脳王』に登場し、優勝したことで注目を集める。同年、自身の会社・(株)Stardyを設立し、Youtubeチャンネル『Stardy―河野玄斗の神授業』を開設。現在、登録者数120万を超える人気チャンネルとなっている。2022年より次世代型オンライン塾『河野塾ISM』を開校。2024年には、オンライン少人数クラス授業『KONO式』、次世代型模試『KONO模試』をリリース。三大難関国家試験と言われる医師国家試験、司法試験、公認会計士試験に全て合格している他、実用英語技能検定1級、実用数学技能検定1級、世界遺産検定1級、統計検定1級、日商簿記検定1級、宅地建物取引士など、多数の難関資格試験を制覇している。

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