「大人の急性リンパ性白血病の生存率」はどのくらいかご存知ですか?【医師監修】

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急性リンパ性白血病(ALL)は小児に多い血液のがんですが、まれに成人が発症するケースもあります。治療は、小児も成人も抗がん剤による化学療法が中心です。

急性リンパ性白血病と診断されると、治療期間や費用など多くの問題に直面します。中でも、最も気になるのは生存率という方が多いのではないでしょうか。

この記事では、成人が急性リンパ性白血病を発症した場合の生存率について、症状や検査法と一緒に紹介します。患者さん本人やご家族の方はぜひ参考にしてください。

≫「急性リンパ性白血病の治療法」はご存知ですか?症状や予後についても解説!

監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

急性リンパ性白血病とは?

白血病は、急性骨髄性白血病・慢性骨髄性白血病・急性リンパ性白血病・慢性リンパ性白血病と4つの病型があります。
国内で急性リンパ性白血病を発症する成人は毎年10万人あたり1人の確率で、急性白血病全体からみると、成人の発症率は25%程度です。
人体は、骨髄中あにる造血幹細胞を分化させ、赤血球・血小板・白血球・リンパ球などさまざまな細胞を作っています。さまざまな血液細胞の中でも、リンパ球の分化に異常が起きてがん化し、骨髄中にたまってしまうのが急性リンパ性白血病です。
がん化したリンパ球(白血病細胞)は、骨髄で増殖を続けて骨髄の中が白血病細胞で満たしてしまうため造血管細胞の量が減り、正常な白血球・赤血球・血小板などの血液細胞を作る力を阻害してしまいます。急性リンパ性白血病に罹患すると感染症にかかりやすい・貧血・歯茎や皮下に出血が起きやすいなどの症状が現れるのは、正常な白血球・赤血球・血小板の数が減ってしまうからです。
また、白血病細胞の増殖速度は非常に速く、脳・リンパ節・肝臓・脾臓などほかの臓器にもあっという間に浸潤します。病状も週単位で進んでいくのが特徴です。

大人の急性リンパ性白血病の生存率はどのくらい?

成人急性リンパ性白血病の生存率は、患者さんの年齢・急性リンパ性白血病のタイプ・治療法・病気の重症度など、さまざまな因子で変化します。化学療法で治療した場合、5年生存率は15歳~60歳で30%~40%、60 歳以上では10%と、高齢者になると低くなるのが特徴です。
また、成人の場合は化学療法で8割以上の方が寛解しますが、寛解した方の6割は再発しています。一方、造血幹細胞の自家移植を受けた方の5年生存率は、16歳~39歳なら4.2%~46.0%、40歳以上なら7.9%~30.2%です。非血縁者の造血管細胞を移植した場合は、16歳~39歳で20.5%~62.7%、40歳以上では8.6%~52.5%になります。
成人急性リンパ性白血病のタイプで最も治癒しにくいとされているのは、フィラデルフィア染色体と呼ばれる染色体異常が原因のものです。しかし、フィラデルフィア染色体が原因のものでも近年は抗がん剤を併用して投与する治療法が発達し、長期生存率も30%~40%と向上しています。

急性リンパ性白血病の検査

急性リンパ性白血病の診断に行われるのは、身体診察・血液検査・骨髄検査です。身体診察では、医師が患者さんの一般的な健康状態をチェックしながら、リンパ節などの腫れや感染症の有無・出血症状の有無を診ます。同時に問診で、職業や過去の病歴などを聞かれるので、事前にメモなどに書き出しておきましょう。
血液検査をするのは、血液細胞の数・血液の凝固機能・内臓障害の有無を調べるためです。しかし、急性リンパ性白血病では、血液中の白血球が異常に多い場合も少ない場合もあります。骨髄検査をするのは、血液検査だけでは急性リンパ性白血病であると断言できないからです。
骨髄検査では、胸骨か腸骨から細い針で少量採取した骨髄液を、メイギムザ染色法を用いて細胞の1つひとつを丁寧に観察します。骨髄にある芽球の数が20%以上あり、メイギムザ染色法で陽性となる芽球の数が2%以下であれば、急性リンパ性白血病と診断確定です。
急性リンパ性白血病と診断が確定したら、次は、染色体検査・表面抗原マーカー検査・遺伝子検査を行います。これらの検査は、治療法を決めたり染色体異常や遺伝子異常を発見したりするのに有効です。また、検査で使う検体は採血で採った末梢血を使うので、患者さんの身体的負担はほとんどありません。

急性リンパ性白血病の症状

急性リンパ性白血病を発症すると、身体にさまざまな症状が現れます。
この記事では、成人によくみられる症状と対処法について紹介するので、参考にしてください。

貧血

貧血は、急性リンパ性白血病によくある症状のひとつです。
急性リンパ性白血病の場合は造血する力が弱くなって赤血球の数が少なくなるのが原因で、ふらつき・倦怠感・息切れなど の自覚症状がよくみられます。
また、急性リンパ性白血病による貧血は、抗がん剤の副作用で起こるケースもあるのも事実です。抗がん剤治療をしている患者さんで貧血を疑われる症状が出たら、早く主治医に相談してください。

動悸・息切れ

急性リンパ性白血病による動悸や息切れは、貧血に由来するものです。貧血も重症化すると輸血が必要になるので、早く主治医に相談しましょう。
どうしても受診できない場合はしばらく、無理に動かない・体を温める・栄養補助剤を服用するなど応急処置 で凌いでください。災害などの非常時にも役立つので、使い捨てカイロ・ビタミンCなどの栄養補助剤・処方されている鉄剤などを自宅などに常備しておくのがおすすめです。

鼻血・歯茎からの出血

急性リンパ性白血病を発症すると血小板の数が少なくなり、出血が止まりにくくなります。鼻血・歯茎からの出血のほか、皮下出血も起こりやすくなるので全身の様子も毎日チェックしましょう。日常生活では出血を起こさないよう、身体をぶつけない・優しい力で歯磨きをする・皮膚を強くこすらないようにするなどしてください。
また、急性リンパ性白血病で化学療法を行うと、口腔内や消化器官に「ただれ」が生じて出血しやすくなります。まれに抗がん剤が肝機能障害を招いて血液凝固因子を作れなくなるために出血するケースもあるので、出血傾向がみられたら必ず主治医に相談してください。

発熱

白血球は、身体に侵入した病原体やウイルスなどの異物と戦う役目を持つ血液細胞です。急性リンパ性白血病を発症すると正常な白血球が激減するので、感染症にかかりやすくなると同時に発熱もしやすくなります。
白血球の数は化学療法を始めるとさらに少なくなり、最も少なくなるのは治療後7日~14日目です。急性リンパ性白血病を発症したり治療を始めたりしたら、主治医に白血球数を調べてもらいながら適切な感染症対策を取りましょう。
患者さんが自分でできる対策としては、人ごみを避ける・入浴時間を短くする・毎食後歯磨きをする・加熱していない食べ物を避けるなどがあります。

倦怠感

急性リンパ性白血病で倦怠感が現れるのは、赤血球が少なくなるからです。倦怠感は貧血による症状の1つでもあります。倦怠感が出てきたら、貧血に準じた対応を取りましょう。
しかし、倦怠感の場合も他の症状と同様にいつまでも自宅で様子をみず、早く受診し、主治医に相談してください。

臓器に浸潤すると関節痛・リンパ節の腫れが出ることも

白血病細胞が増殖すると、やがて内臓にある臓器や関節にも浸潤し、腫れを生じさせます。特に、浸潤しやすい臓器はリンパ節・肝臓・脾臓・歯茎ですが、急性リンパ性白血病では特に、リンパ節の腫れがよくみられるのが特徴です。
リンパ節は首・わきの下・脚の付け根にあり、皮膚表面から手で触れるだけで腫れているか否かがわかります。ときどき、患者さん自身の手で触れてチェックしてみてください。
急性リンパ性白血病で関節痛や骨の痛みが生じるのも、白血病細胞の浸潤が原因です。関節痛や骨の痛みは、小児では初期症状でよくみられますが、成人の場合はほとんどありません。

中枢神経に浸潤すると頭痛・吐き気が起こることも

急性リンパ性白血病では、増殖した白血病細胞が中枢神経に浸潤しやすい のが特徴です。
白血病細胞が中枢神経に浸潤すると、頭痛・吐き気・手足の麻痺などの身体症状が現れます。中枢神経への浸潤を予防したり治療したりするには、抗がん剤を髄腔内に注入する方法が有効です。

大人の急性リンパ性白血病の生存率についてよくある質問

ここまで急性リンパ性白血病の病態・症状・生存率などについて解説しました。ここからは、Medical DOC監修医が生存率も含め急性リンパ性白血病についてよくある質問にお答えします。

大人の急性リンパ性白血病の予後について教えてください。

甲斐沼 孟(医師)

成人急性リンパ性白血病の予後は、年齢・初診時の白血球数・染色体異常の有無によって変わるのが特徴です。急性リンパ性白血病の寛解率・生存率は若い方ほど高く、年配の方ほど低くなります。治癒率も小児は80%もあるのに対し成人は30%~40%程度です。しかし、近年は急性白血病全体の治療法が進化し、社会復帰まで果たす方も非常に多くなっています。小児と成人で予後が異なるのは、年齢によって白血病の核型が異なるからではないかとという見解が有力です。核型とは、国際基準(ISCN)に従って記載した染色体の分析結果で、さまざまな白血病の予後因子として重要視されているものです。急性リンパ性白血病では、核型が「TEL-AML1融合遺伝子」や「高二倍体」染色体の患者さんは予後良好とわかっています。最も予後不良なPh染色体(フィラデルフィア染色体)の患者さんも、近年はTKI化学療法で90%以上の方が寛解するようになりました。化学療法の後、造血幹細胞移植をするとさらに予後が改善するのもわかってきています。

急性リンパ性白血病は進行が速いのですか?

甲斐沼 孟(医師)

急性リンパ性白血病は、非常に進行が速いのが特徴です。放置していると2ヶ月~3ヶ月で生命を脅かす状態になります。急性リンパ性白血病は早期治療を求められる病気ですが、早期治療をするには早期発見が大前提です。急性リンパ性白血病を早期に発見するためにも、年に1回は血液検査を受けるようにしましょう。自覚症状がなくても、健康診断で白血病が見つかるケースがあります。

編集部まとめ

近年は化学療法の進化によって急性リンパ性白血病の治療成績が飛躍的に向上し、成人が発症した場合の生存率も非常に高くなりました

しかし、急性リンパ性白血病は進行が速く、放っておくとあっという間に手遅れになる病気です。早期発見のためには、定期的に血液検査を受けるようにしてください。

近年は急性リンパ性白血病の治療法も進化しています。今や不治の病ではないので、もし、診断を受けても悲観しないでください。

診断を受けたら主治医から適切な治療や指導を受け、毎日を快適に暮らせるようにしましょう。

急性リンパ性白血病と関連する病気

成人の急性リンパ性白血病と関連がある病気は3つあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する病気

急性骨髄性白血病

慢性骨髄性白血病

慢性リンパ性白血病

「急性」の白血病は進行が非常に早く、「慢性」の白血病は数年かけて進行していくのが特徴です。
慢性の白血病であっても放置すると急に病状が進行したり、治療が困難になったりします。慢性白血病と診断されたら必ず通院し、適切な治療を受けるようにしてください。

急性リンパ性白血病と関連する症状

成人の急性骨髄性白血病と関連する症状、似た症状は6つあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細は、リンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

貧血

出血傾向

感染症にかかりやすい

発熱

リンパ節・肝臓・脾臓の腫れ

骨・関節の痛み

貧血・出血傾向・易感染はどのタイプの白血病にも見られます。
しかし、頭痛・吐き気は白血病でも急性リンパ性白血病のみにみられる症状です。

参考文献

白血病(日本赤十字社医療センター)

急性および慢性リンパ性白血病

急性リンパ性白血病(慶應義塾大学病院)