知っているけど読んだことがある人は誰もいない! 「ドラゴンボールAF」とは一体なんだったのか
週刊少年ジャンプにて1984年から1995年にかけて、鳥山明さんの手によって描かれた超人気漫画「ドラゴンボール」。世界中に散らばった七つの球をすべて集めると、どんな願いも一つだけ叶えられるという秘宝・ドラゴンボールを巡って主人公・孫悟空と仲間たちが冒険を繰り広げる長編漫画作品。アニメは全世界で放送され、連載終了後もアニメ、映画、ゲームなど関連作品が次々と展開され、2024年10月からはフジテレビ系にて新作アニメ「ドラゴンボールDAIMA」が放送される予定となっており、現在でもなお超絶人気を誇る作品である。
そんなドラゴンボールにまつわる「ドラゴンボールAF」という作品をあなたは耳にしたことがあるだろうか?
時はインターネット黎明期の90年代後半から2000年代にかけて…
アニメ「ドラゴンボールZ」の放送が終了した1996年2月。フジテレビ系で続編となる「ドラゴンボールGT」の放送が始まった。翌97年の11月まで、全64話(番外編1話あり)が放送され、漫画原作にはなかったオリジナルストーリーが展開された。黒髪に赤い体毛が特徴のスーパーサイヤ人4が登場し、今となっては賛否両論あるものの視聴者はドラゴンボールの続編の世界観を楽しむことができた。
そんな「GT」も放送が終了した1999年から2000年初頭にかけて、ある1枚のイラストが黎明期だったインターネット上に流れ始めた。それはスーパーサイヤ人3のような髪の長さだが銀髪で、銀色の体毛が特徴の筋骨隆々のサイヤ人。そして右下には「DRAGON BALL AF」と書かれている。
※著作権の関係で掲載はできないが書いた本人と思われる人のブログにイラストが掲載されている
https://af-dragonball.blogspot.com/2012/01/dragon-ball-af.html
このイラストが流れ始め、日本のドラゴンボールファンの間では「アメリカやヨーロッパでドラゴンボールAF(アフター・フューチャー)という同人作品があるらしい」と話題になった。
そのストーリーはフリーザを倒した後、ナメック星の爆発に巻き込まれた悟空は、ヤードラット星になんとか逃げることができた。そこで瞬間移動を教えてもらう修行をしている中、悟空の強い遺伝子を欲しがった神が特殊能力で寝ている悟空の夢の中に入り込み、悟空の子どもを身籠った。そして時は流れ……GTの最終回で悟空が地球からいなくなった後、神と悟空の子どもであるザイコーが地球に襲い掛かる。戸惑いながらも悟飯やベジータたちが立ち向かい……という内容である。スーパーサイヤ人も5や6、10などわけのわからない数字にまで進化している。
しかし、この「ドラゴンボールAF」を読んだことがある人は当時誰もいなかった。アメリカやヨーロッパで作られた作品だから……というわけではない。
というのも、この「ドラゴンボールAF」という作品は……この世界に存在しないのである。
全世界でインターネット黎明期だからこそ流行した都市伝説だった
日本のファンの間で「欧米で高クオリティのドラゴンボールの新作同人誌が出ているらしい!読んでみたいなぁ!」となっていたその頃、同じく欧米でも「日本で高クオリティのドラゴンボールの新作同人誌が作られているみたいだぞ!もしかして公式が作った続編か!?」と同じような現象が起きていたのである。当時は今ほどインターネットが一般的ではなかった上、SNSも普及していなかったため、各地のファンが勝手に解釈して間違った情報がどんどん流れて行った。そのまま「ドラゴンボールAF」の名前だけがひとり歩きし、存在しないのに「なんか聞いたことがある同人誌」というポジションにすっかり落ち着いてしまった。先述したストーリーもどこからとも無く湧いて出た設定が人から人へ伝わって行ったため、「僕は〇〇だとネットで見た」「昔聞いたけど敵は●●だったはず」など100人がいたら100通りの「ドラゴンボールAF」が存在するようになってしまった。
そもそも「ドラゴンボールAF」とはなんだったのか
全ての発端となった1枚のイラストについて、すっかりインターネットが広まった2012年に真相が判明した。作者はダビ・モンティエル・フランコ(DAVID MONTIEL FRANCO)氏で、ただの一般人。スペインのゲーム雑誌「ホビー・コンソーラス」(HOBBY CONSOLAS)の1999年3月号に掲載されたのだが、読者投稿のイラストとして掲載されただけだった。そして作者と思われる人物がブログで「タブロス」という未知のサイヤ人として描いたものだと発言した。さらに最近では読み方も日本で「アフター・フューチャー」だとされていたが「オルタナティブ・フューチャー」が正しい読み方ということも判明している。
「ドラゴンボールAF」とは、インターネット黎明期だからこそ流行した「義経は生きていてモンゴルでチンギスハンになったらしいよ」的な壮大なデマだったのである。
あれ?でも「ドラゴンボールAF(エーエフ)」って作品あるよね?と思ったそこのあなた!
そう!実はドラゴンボールAF(エーエフ)という同人作品は実際に存在する。2006年頃から作成された同人作品で、作者はといぶる(toyble)さん。現在は削除されているが、toybleさんのブログで公開されたり、同人誌も販売されていた。鳥山明さんのような画力で描かれる作品はまさにドラゴンボールの続編そのもの。これが「ドラゴンボールAF(オルタナティブ・フューチャー)」として流れた様々なデマを取捨選択して描かれている作品で、噓から出た実のような、デマ先行で生まれた作品なのだ。
そしてこのtoybleさん、現在は「とよたろう」という名前で同人作家ではなく、プロの漫画家として活動している。描いている作品はVジャンプで連載されている「ドラゴンボール超」。高クオリティの同人作家から、本当に本家ドラゴンボールを描くようになったのだった。
インターネット黎明期でなければここまで拡散されていなかったかもしれない「ドラゴンボールAF」。我々一般ユーザーでも当時よりも扱う情報量や影響力が強くなっている今、情報の真偽を見極める力をきちんと養っていかなければならないだろう。
(Written by 大井川鉄朗)
時はインターネット黎明期の90年代後半から2000年代にかけて…
アニメ「ドラゴンボールZ」の放送が終了した1996年2月。フジテレビ系で続編となる「ドラゴンボールGT」の放送が始まった。翌97年の11月まで、全64話(番外編1話あり)が放送され、漫画原作にはなかったオリジナルストーリーが展開された。黒髪に赤い体毛が特徴のスーパーサイヤ人4が登場し、今となっては賛否両論あるものの視聴者はドラゴンボールの続編の世界観を楽しむことができた。
そんな「GT」も放送が終了した1999年から2000年初頭にかけて、ある1枚のイラストが黎明期だったインターネット上に流れ始めた。それはスーパーサイヤ人3のような髪の長さだが銀髪で、銀色の体毛が特徴の筋骨隆々のサイヤ人。そして右下には「DRAGON BALL AF」と書かれている。
※著作権の関係で掲載はできないが書いた本人と思われる人のブログにイラストが掲載されている
https://af-dragonball.blogspot.com/2012/01/dragon-ball-af.html
このイラストが流れ始め、日本のドラゴンボールファンの間では「アメリカやヨーロッパでドラゴンボールAF(アフター・フューチャー)という同人作品があるらしい」と話題になった。
そのストーリーはフリーザを倒した後、ナメック星の爆発に巻き込まれた悟空は、ヤードラット星になんとか逃げることができた。そこで瞬間移動を教えてもらう修行をしている中、悟空の強い遺伝子を欲しがった神が特殊能力で寝ている悟空の夢の中に入り込み、悟空の子どもを身籠った。そして時は流れ……GTの最終回で悟空が地球からいなくなった後、神と悟空の子どもであるザイコーが地球に襲い掛かる。戸惑いながらも悟飯やベジータたちが立ち向かい……という内容である。スーパーサイヤ人も5や6、10などわけのわからない数字にまで進化している。
しかし、この「ドラゴンボールAF」を読んだことがある人は当時誰もいなかった。アメリカやヨーロッパで作られた作品だから……というわけではない。
というのも、この「ドラゴンボールAF」という作品は……この世界に存在しないのである。
全世界でインターネット黎明期だからこそ流行した都市伝説だった
日本のファンの間で「欧米で高クオリティのドラゴンボールの新作同人誌が出ているらしい!読んでみたいなぁ!」となっていたその頃、同じく欧米でも「日本で高クオリティのドラゴンボールの新作同人誌が作られているみたいだぞ!もしかして公式が作った続編か!?」と同じような現象が起きていたのである。当時は今ほどインターネットが一般的ではなかった上、SNSも普及していなかったため、各地のファンが勝手に解釈して間違った情報がどんどん流れて行った。そのまま「ドラゴンボールAF」の名前だけがひとり歩きし、存在しないのに「なんか聞いたことがある同人誌」というポジションにすっかり落ち着いてしまった。先述したストーリーもどこからとも無く湧いて出た設定が人から人へ伝わって行ったため、「僕は〇〇だとネットで見た」「昔聞いたけど敵は●●だったはず」など100人がいたら100通りの「ドラゴンボールAF」が存在するようになってしまった。
そもそも「ドラゴンボールAF」とはなんだったのか
全ての発端となった1枚のイラストについて、すっかりインターネットが広まった2012年に真相が判明した。作者はダビ・モンティエル・フランコ(DAVID MONTIEL FRANCO)氏で、ただの一般人。スペインのゲーム雑誌「ホビー・コンソーラス」(HOBBY CONSOLAS)の1999年3月号に掲載されたのだが、読者投稿のイラストとして掲載されただけだった。そして作者と思われる人物がブログで「タブロス」という未知のサイヤ人として描いたものだと発言した。さらに最近では読み方も日本で「アフター・フューチャー」だとされていたが「オルタナティブ・フューチャー」が正しい読み方ということも判明している。
「ドラゴンボールAF」とは、インターネット黎明期だからこそ流行した「義経は生きていてモンゴルでチンギスハンになったらしいよ」的な壮大なデマだったのである。
あれ?でも「ドラゴンボールAF(エーエフ)」って作品あるよね?と思ったそこのあなた!
そう!実はドラゴンボールAF(エーエフ)という同人作品は実際に存在する。2006年頃から作成された同人作品で、作者はといぶる(toyble)さん。現在は削除されているが、toybleさんのブログで公開されたり、同人誌も販売されていた。鳥山明さんのような画力で描かれる作品はまさにドラゴンボールの続編そのもの。これが「ドラゴンボールAF(オルタナティブ・フューチャー)」として流れた様々なデマを取捨選択して描かれている作品で、噓から出た実のような、デマ先行で生まれた作品なのだ。
そしてこのtoybleさん、現在は「とよたろう」という名前で同人作家ではなく、プロの漫画家として活動している。描いている作品はVジャンプで連載されている「ドラゴンボール超」。高クオリティの同人作家から、本当に本家ドラゴンボールを描くようになったのだった。
インターネット黎明期でなければここまで拡散されていなかったかもしれない「ドラゴンボールAF」。我々一般ユーザーでも当時よりも扱う情報量や影響力が強くなっている今、情報の真偽を見極める力をきちんと養っていかなければならないだろう。
(Written by 大井川鉄朗)