鉄道社員に嫌われる「撮り鉄」だが…

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撮り鉄はなぜ嫌われるのか

 デイリー新潮編集部には、鉄道会社の社員から多数の情報が寄せられているが、中でも彼らを悩ませている存在が“撮り鉄”である。撮り鉄とは、列車の写真を撮影する鉄道ファンの通称であるが、鉄道会社の社員A氏は「ほとんどの鉄道マンが迷惑に感じていると思う」と話すほど、撮り鉄に対して厳しい目を向ける。

【画像】鉄道ファン垂涎? 秋田のローカル線「男鹿線」沿線の風景

 なぜ、そこまで撮り鉄は嫌われるのだろうか。一言で言えば、「鉄道会社にほとんど利益をもたらさない存在」だからである。それでいて「対策に費用と手間がかかる」からなのだという。A氏はこのように話す。

撮り鉄カメラなどの機材を抱えているので、撮影地まで車を使って移動することが多いため、そもそも鉄道を利用しないケースが少なくありません。せいぜい、支払ってもホームで列車を撮影する際の入場券程度。ローカル線を撮影するときは青春18きっぷカメラメーカーは儲かるかもしれませんが、鉄道会社の収支にはほとんどプラスにならないのです」

鉄道社員に嫌われる「撮り鉄」だが…

マナーの悪さが桁外れ

 鉄道ファンにも様々なタイプがいる。もっともポピュラーなのが鉄道旅行を楽しむ“乗り鉄”で、模型を愛でる“模型鉄”、時刻表を読んだり研究したりする“時刻表鉄”、発車メロディなどを録音する“録り鉄”などがいる。そうした中でも、撮り鉄マナーの悪さ、トラブルの発生率は、他の鉄道ファンとは比べ物にならないとA氏は言う。

「撮影のために私有地に立ち入ったり、撮影の邪魔になるからと無断で樹木を伐採したりする撮り鉄も“普通に”います。特急列車のラストランなどになると、大変なことになります。駅の利用者に対し、“どけ!”“邪魔だ!”などと罵声を浴びせ、駅員と小競り合いになったりするのは、もはや恒例行事になっていますから」

 実際、6月15日に岡山から山陰方面を結ぶ特急「やくも」に使用される381系がラストランを迎えたときも、一部の撮り鉄がホーム上で奇声をあげたり、怒号を発する場面があったようで、その光景を収めた動画がネットで拡散される事態になっている。寝台特急、国鉄型車両のラストランや、珍しい臨時列車の運行の際は、こうした罵声や怒号が毎回のように起こってきた。

 ネット上で騒動になる鉄道ファンは、高確率で撮り鉄だ。鉄道会社も頭を抱えているようで、撮り鉄に向けてわざわざ注意喚起をしたり、対策を講じたりしなければいけない事態になっている。「撮り鉄のせいで、鉄道趣味が悪いものであるかのように扱われるのはつらい」と、嘆く鉄道ファンは少なくない。

問題行為を連発、撮り鉄の実態

 ここからは、現役の鉄道会社社員から寄せられた、問題ある撮り鉄の実態を紹介していきたい。既に触れたように、撮影場所の確保のために私有地に立ち入ることを、撮り鉄はまったく悪気もなく行う。しかも、撮り鉄が畑を踏み荒らしたり、植えられた草花の上に三脚を立てたりすると、「鉄道会社に苦情が来る。やってられません」(A氏)。

「珍しい列車が運行されるとき、改札にいると、“〇〇の回送は何時にどこに来ますか?”と聞いてくる鉄道ファンがいる。ホームで撮影するつもりなのかもしれませんが、そもそも駅員は営業列車以外は把握してないことが多いんです。それなのに、答えられないと罵声を浴びせてくることも。なんで撮影のために我々が付き合わないといけないのでしょうか」

 乗務員、特に女性の駅員を盗撮する鉄道ファンは、撮り鉄に限らず多い。女性車掌のB氏は、一眼レフカメラを持った撮り鉄から、何度も盗撮に遭ったと聞く。望遠レンズを覗いているふりをして、駅員や、女子高生を盗撮する人物までいるという。もはや無法地帯だ。

「乗務員のことはフリー素材だと思っているのか、とにかくバシャバシャと撮られますね。特に高齢の鉄道ファンの方が、リテラシーが無いのか、フラッシュをたいて撮影することが多い気がします。最近の若い子は、ネットに上げる時点で乗務員の顔をぼかしたり、隠したりしてくれることが多いのでまだマシですが……」(B氏)

 駅員の写真を無断で撮影し、後日、わざわざ丁寧に渡してくれる撮り鉄もいるそうだが、「撮られていい気分の乗務員は99.9%いないことはわかって欲しい」と、B氏は苦言を呈する。当たり前なのだが、その当たり前が通用しない人が少なくないようだ。

 撮り鉄がホームの黄色い線から身を乗り出して撮影するのは日常茶飯事だが、関係者以外立ち入り禁止の区域にまで入ろうとする撮り鉄も多いという。特に、一眼レフカメラが安価で手に入りやすくなった影響なのか、子どもの撮り鉄も増えており、やはり問題行動を起こす例が後を絶たないとのことだ。

沿線で撮影する撮り鉄マナーを守って

 運転士を務めたこともあるC氏は、「500億歩譲って、ホームで撮影する撮り鉄は、少なくとも入場券は買ってくれているので、まあ……いいか……と思うけれど。列車を利用せずに沿線で撮影している連中は、犯罪に抵触している可能性があるうえ、運転の邪魔になるような迷惑行為が多すぎる」と、撮り鉄に怒り心頭の様子だ。

「フラッシュをたきまくるのは論外ですし、線路わきギリギリの場所に三脚を立てて撮影したり、踏切が鳴り出しても一向にどかずにカメラのファインダーを覗き込む撮り鉄がいる。命が惜しくないのでしょうか……。なにより、こういった撮り鉄が線路に飛び出してくるんじゃないかと、ハラハラしながら運転しているんです」

 C氏は、大きめの草刈りばさみを持った撮り鉄が、線路脇の草藪の中からいきなり出てきた時には「チビるかと思った」という。

「そこは絶対に私有地だし、無許可で入って、撮影のために草でも刈り取ったんじゃないか。列車の写真を撮るためにそこまでするのか、と唖然としました」

趣味で周りに迷惑をかけてはいけない

 さて、そこまでして撮影した写真はいかほどのものなのだろうか。XなどのSNS上には、撮り鉄が撮影した写真が掲載されているが、鉄道写真家のD氏は、撮り鉄が撮影した写真をこう評価する。

撮り鉄って、有名な写真家が撮影したお手本と“いかに同じように撮影できるか”を競っているんですよ。実際、ほとんどの写真が、有名撮影地で撮ったりした、どこかで見たことがある写真と同じ構図だったりするのです。その一方で、機材には金をかけて、100万円以上する高級レンズを持っている撮り鉄は普通にいて、“機材マウント”をとったりする人もいます」

 プロの鉄道写真家と撮り鉄は、まったく別物であるとD氏は言う。そして、こう付け加える。

「彼らの写真は究極の自己満足。もちろん商業写真ではなく、あくまでも趣味の写真ですから、それでもまったく問題はないのです。ただ、趣味のために鉄道会社や沿線の住民に迷惑をかけるのは、いかがなものでしょうか。褒められたものではありませんよね。鉄道ファンのイメージを悪くする行動はくれぐれも慎んでいただきたいものです」

ライター・宮原多可志

デイリー新潮編集部