マイクロプラスチックは人の肺、血液、胎盤などさまざまな場所で見つかっており、人体への深刻な健康被害が懸念されています。さらに、人と動物の精巣を分析する新しい研究により、すべてのサンプルからマイクロプラスチックが見つかったことが報告されました。

Microplastic presence in dog and human testis and its potential association with sperm count and weights of testis and epididymis | Toxicological Sciences | Oxford Academic

https://academic.oup.com/toxsci/advance-article-abstract/doi/10.1093/toxsci/kfae060/7673133

UNM Researchers Find Microplastics in Canine and Human Testicular Tissue

https://hsc.unm.edu/news/2024/05/hsc-newsroom-post-microplastics-testicular.html

Microplastics found in human testicles could be causing sperm counts to fall | Euronews

https://www.euronews.com/green/2024/05/21/microplastics-found-in-human-testicles-could-be-causing-sperm-counts-to-fall

「なぜ、近年になって人々の生殖能力が低下しているのかを考えれば、そこには何か新しい要因があるはずです」と話すのは、アメリカ・ニューメキシコ大学看護学部の環境医学の専門家で、人の生殖器系に対するさまざな環境要因の影響を研究しているシャオジョン・ユー教授です。

同じ大学の教授から、「人の胎盤でマイクロプラスチックが発見された」との研究結果を聞かされたユー氏は、人の精巣もマイクロプラスチック汚染にさらされているのか調べる研究を開始しました。



研究チームはまず、検視された検体を最長7年間保管しているニューメキシコ州医事調査局から、2016年に死亡した16〜88歳の男性23人の精巣を入手しました。また、人間と同じ場所で生活している動物である犬と比較するため、近隣の動物保護施設や動物病院で去勢手術を受けた犬47頭の精巣も収集しました。

そして、サンプルを燃焼させた際に発生するガスを分析する熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法という手法でマイクロプラスチックの量を計測したところ、人と犬の全サンプルからマイクロプラスチックが検出されました。

しかも、人間の精巣から検出されたマイクロプラスチックの平均濃度は体組織1g当たり329.44マイクログラムで、胎盤から見つかった平均濃度よりも大幅に高かったとのこと。また、犬の精巣のマイクロプラスチックは1グラムあたり122.63マイクログラムで、人間の体組織には犬の約3倍もマイクロプラスチックがあることもわかりました。

ユー氏は、「最初は生殖器系にマイクロプラスチックが侵入するのか半信半疑でしたが、最初に犬の結果を受け取った時は驚きました。そして、人間の結果を聞いてさらに仰天しました」と話しました。



人と犬の精巣のサンプルからは12種類のマイクロプラスチックが発見されており、そのうち最も多いのはポリ袋やペットボトルの原料で、マイクロプラスチック汚染の主な原因でもあるポリエチレン(PE)でした。

人の精巣サンプルは化学処理されていたため、精子の数を計測することはできませんでしたが、犬の精子の数とマイクロプラスチックの量を比較したところ、PEは無関係だった一方で、2番目に多いマイクロプラスチックだったポリ塩化ビニル(PVC)は、サンプル中の濃度が高ければ高いほど精子の数が少ないことが確かめられました。

ユー氏によると、PVCには精子の形成を妨げる化学物質を大量に放出する可能性があり、その中には内分泌かく乱物質も含まれているとのこと。また、犬はラットのような他の動物と比べて精子の形成過程が人間と近く、濃度も似ていますが、犬の精子数も減少傾向にあります。そのため、ユー氏らは人と犬の精子の数が減少している背景には共通の環境要因があると考えています。

ユー氏は、マイクロプラスチックが精巣での精子生産にどのような影響を与えるのかを確かめるには、さらなる研究が必要だとした上で、「私はこの研究で人々を怖がらせるつもりはありません。ただ、科学的なデータを提供し、マイクロプラスチックが身近にたくさんあることを認識してもらいたいのです。私たちには、マイクロプラスチックへの暴露を避けたり、ライフスタイルや行動を変えたりすることができるのですから」と話しました。