( )と【 】と『 』の役割はまったく違う…学校では教えてくれない「カッコ」の適切な使い方
※本稿は、国立国語研究所・編『日本語の大疑問2』(幻冬舎新書)の第3章「文字にまつわるミステリー」の一部を再編集したものです。
■学校では習わない括弧の使い方
( )【 】『 』など、いろいろな括弧をどう使いわければよいですか
回答=岩崎拓也
みなさんは、普段どのような括弧を使っていますか。
最初に思いつくのは、かぎ括弧と丸括弧(「パーレン」や、単に「括弧」とも言う)だと思います。かぎ括弧「 」は、1.の例のように文をくくると会話文であることを表します。これは、小学校の国語科の教科書にも書かれているので、みなさんもご存じだと思います。
ですが、次の2.から4.までの例のように、かぎ括弧は会話文以外でもよく使われています。
1.「そんなこと言ったって、しょうがないじゃないか。」
2.岩崎拓也(2016)「中国人・韓国人日本語学習者の作文にみられる句読点の多寡」
3.外国語として日本語を学ぶ人にとって、「は」と「が」の使い分けはとても難しい。
4.私は「乱切り」の蕎麦のほうが好きです。
2.では論文の題名に、3.はメタ的な語(地の文とは異なる、概念的な語の使い方)に、4.では強調したい語に、それぞれかぎ括弧が使用されていると考えられます。このような使い方は、学校では習わないものです。
では、それ以外にどのような括弧があって、どのように使われるのでしょうか。図表1に括弧の種類と名前、括弧のなかで使われやすい内容を簡潔にまとめてみました。
■情報を目立たせたいか、目立たせたくないか
これらは、日常的に使われる括弧を取りあげたもので、そのほかにも[ ]や《 》など、場合によってさまざまな括弧の使用が見られます。このように、括弧の種類はさまざまですが、どの括弧を使わなければならないか、というようなルールは存在していません。
つまり、書き手が読み手にわかりやすく示せるように試行錯誤している、というのが現状です。
ですが、括弧の機能を考えてみると、情報を目立たせたいか、目立たせたくないか、ということで使いわけができると思います。
■ビジネス文書で最も使用される括弧
以前、私はビジネス文書の研究をしており、クラウドソーシングにおける発注文書を分析していました。この発注文書の見出し2万8896件を調査した結果、最も多く使用されていたのは、【 】(隅付括弧)で62%、次に多かったのは( )(丸括弧)で26%、「 」(かぎ括弧)は8%のみ、という結果でした。
さまざまな括弧があることは先ほど述べましたが、ビジネス文書の見出しにおいては、これら3種類の括弧だけで全体の96%を占めていることがわかりました。
では、最も多くみられた隅付括弧の実例をみてみましょう。
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隅付括弧は黒い部分が他の括弧よりも多く、非常に目につきます。ですので、上の2例のように、用件を端的に表す表現を隅付括弧のなかに書くと、読み手に内容がすぐにわかります。
この隅付括弧はメールでも多用されています。実際に、私に届いている直近のメールを確認してみたところ、以下のような隅付括弧がありました。
このように隅付括弧を使うことで、情報を目立たせることができ、どういう類のメールが来たのかが本文を読まずともわかるようになっています。
■丸括弧のあとの句点はどこに打てばいいのか
目立たせるための括弧があれば、目立たせないための括弧もあります。それは、丸括弧です。丸括弧は、地の文にすると冗長となる情報を書くことによって、文をスッキリみせることができる符号です。
以下の7.では、「1階のホール」の場所の詳細が述べられています。また、8.では、急には来訪しないことを、昔のテレビ番組に喩えて冗談のように言っています。
7.先に1階のホール(正面の玄関入ってすぐのところです)に集合してください。
8.伺う際には事前に連絡しますので、ご安心ください。(「突撃!隣の晩ごはん」みたいに急に来ません笑)
丸括弧は、地の文に書くと複雑になってしまう情報や、わざわざ地の文に書くほどでもないことに使うとよいと言えるでしょう。
話は変わりますが、地の文と丸括弧があるとき、みなさんはどこに句点をつけますか。
9.ミーティングですが、明日の8時でお願いします(朝早くて申し訳ありません)。
10.ミーティングですが、明日の8時でお願いします。(朝早くて申し訳ありません)。
11.ミーティングですが、明日の8時でお願いします。(朝早くて申し訳ありません。)
12.ミーティングですが、明日の8時でお願いします(朝早くて申し訳ありません。)。
もしかしたら私が示した例以外の方もいるかもしれません(ちなみに私は9.の句点のつけ方をします)。このように、括弧と句点の組み合わせには、あいまいな部分が存在することがわかります。
■文化庁が出した指針
こうしたなか、令和4年1月7日に「公用文作成の考え方(建議)」が建議され、この括弧と句点の問題が取りあげられ、まとめられています。
ちなみに、この「公用文作成の考え方(建議)」は、約70年前に示された「公用文作成の要領」が時代に合っていないことから新たに示された、公用文の書き表し方の原則をまとめたものです。この文書において、括弧と句点についてまとめられている箇所のなかで、この問題と関係がある部分を引用してみます。
オ 文末にある括弧と句点の関係を使い分ける。文末に括弧がある場合、それが部分的な注釈であれば閉じた括弧の後に句点を打つ。二つ以上の文、又は、文章全体の注釈であれば、最後の文と括弧の間に句点を打つ。
「公用文作成の考え方(建議)」(p.4)
使いわけのポイントは括弧内の文が「部分的な注釈」か「二つ以上の文、又は、文章全体の注釈」かというところです。「公用文作成の考え方(建議)」には、解説(「(付)「公用文作成の考え方(文化審議会建議)」解説」)があり、そのなかに実例が載っていますので、以下に引用します。
文末に括弧がある場合、それが部分的な注釈であれば閉じた括弧の後に句点を打つ。
例)当事業は一時休止を決定した。ただし、年内にも再開を予定している(日程は未定である。)。
さらに、二つ以上の文、又は、文章全体の注釈であれば、最後の文と括弧の間に句点を打つ。
例)当事業は一時休止を決定した。ただし、年内にも再開を予定している。(別紙として、決定に至った経緯に関する資料を付した。)
「(付)「公用文作成の考え方(文化審議会建議)」解説」(p.17)
■括弧内の句点を省略する場合
「二つ以上の文」はともかく、「注釈」が「部分的」か「文章全体」かというのは、場合によって解釈が異なるので、句点のつけ方の基準としては一義的ではないように思えます。そのためか、「解説」には、以下のように注釈があります。
なお、一般の社会生活においては、括弧内の句点を省略することが多い。解説・広報等では、そこで文が終わっていることがはっきりしている場合に限って、括弧内の句点を省略することがある。
例)年内にも再開を予定しています(日程は未定です)。
「(付)「公用文作成の考え方(文化審議会建議)」解説」(p.17)
ですので、基本的には9.のようにすればいいことになります。実は、そのほかにも括弧と句点の組み合わせについての問題があるのですが、ここでは割愛します(気になる方は以下にまとめてありますので、ご覧ください)。
岩崎拓也(2022)「第10回 公用文における句読点」『句読法、テンマルルール わかりやすさのきほん』(2023年12月13日確認)
文化庁「公用文作成の考え方(建議)」(2023年12月13日確認)
■使いすぎにはご注意
括弧は目立たせたり、逆に目立たせなかったりするために使いわけるとよいでしょう。隅付括弧【 】は目立たせるための括弧、丸括弧( )は目立たせないための括弧です。括弧を使うことで、会話文、引用、注釈、強調などであることを読み手に伝えることができます。
なお、括弧の使用上の注意点は、使いすぎると効果が薄くなることです。何を伝えたいのかがわからなくなるので、使いすぎには気をつけたほうがよいでしょう。
今回紹介した以外にもさまざまな括弧がさまざまなところで使用されています。街中などで括弧がどのように使われているか観察してみると、おもしろい傾向がみられるかもしれません。
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岩崎 拓也(いわさき・たくや)
筑波大学 人文社会系 助教
句読点の使い方(句読法)や括弧などといった符号の表記法が専門。定量的なデータを用いて符号の使用実態を明らかにしたいと考えている。
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(筑波大学 人文社会系 助教 岩崎 拓也)