アルゼンチン・ブエノスアイレスで、米ドル札のイメージを使ったショーウインドウの前を歩く女性(2023年12月12日撮影)。(c)Luis ROBAYO / AFP

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【AFP=時事】アルゼンチン政府はこのほど、経済危機からの脱却に向けた「ショック療法」の一環として、通貨ペソの対ドル相場を約50%切り下げた。それを受け、スーパーマーケットの従業員マリア・ママニさんは、新価格が書かれたシールを手に店内を回った。

 アルゼンチンでは13日、消費者物価上昇率が前年同月比約160%に達した。ママニさんはAFPに対し、「政府の対策導入後、値段を引き上げている」と話した。

「多くの商品が高騰し始めていて、残念なことにそれは6〜12カ月続く可能性がある」

 別の店のミゲルさんは、値上げは20〜60%、物によっては2倍に跳ね上がっていると語った。ミゲルさんは名字は明かしたくないと言った。

「客に価格転嫁せざるを得ない。他に選択肢はない。来週ももう一段の値上げとなるだろう」

 10日に就任したハビエル・ミレイ(Javier Milei)大統領は、経済危機は緩和に向かう前に一段と深刻化する公算が大きいと語っている。

 経済立て直しに向け、政府は12日、一連の対策を発表した。マヌアル・アドルニ大統領報道官は、「ひん死の状態での集中治療」とたとえた。

 対策としてはペソ切り下げのほか、交通機関・燃料補助金の削減などが打ち出された。新規の公共事業は停止され、政府広告も全面的に停止される。

 目標は歳出を250億米ドル(約3兆5500億円)相当、率にして国内総生産(GDP)の5%削減することにある。経済規模で中南米第3位のアルゼンチンは、慢性的に財政赤字を抱えており、それを改善するのが狙いだ。

■バス料金値上げへ

 国民はしかし、懸念を抱く一方で、ミレイ氏が選挙戦の際に大出力のチェーンソーを振りかざして予告していた、一連の「削減」を甘受する構えのようにも見える。

 三つの職を掛け持ちしているという大学生のカミラ・ヘイグさん(18)は、「生活はぎりぎりで、誰にとっても(削減は)困難が伴うだろう」と話した。

「何か月間かは大変な時を我慢して、いずれより良い国になると信じるしかない」

 首都ブエノスアイレスのある混み合ったバス停で、蒸し暑さの中、利用客は補助金によって乗車1回分52ペソ(約10円)に抑えられたバスを待っていた。

 アルゼンチンは、バスからスブテと呼ばれる地下鉄まで、広範囲かつ効率的な公共交通網を誇る。政府が来年1月から補助金を引き下げれば、利用者の懐は直撃を受ける。

 バス待ちの列に並んでいた郵便局員、セバスティアン・メディナさん(48)は、「値上げには腹が立つが、遅かれ早かれ起きるはずのことだった」と語った。

「料金は700ペソ(約125円)程度に上がるかもしれないと、インターネットで読んだ。発表はまだだが」

 今後数か月ついては、「私たちは危機にはもう慣れっこだが、今回のはこれまで以上に困難なものになるだろう」と予想。「希望を持たねば」と言った。

 やはりバスを待っていた自動車販売員のリアン・ヒメネスさん(27)も、バス料金値上げについて「国民への影響は大きい」としながら、新政権の対策には同意すると語った。「導入されるだろうということは私たちは分かっていた」

■「購買力を破壊」

 ミレイ大統領は11月に行われた大統領選で、債務や紙幣の増刷、インフレ、財政赤字など、数十年間にわたり繰り返された経済危機への怒りを追い風に勝利。

 新政権は、これまでの政権が政策運営を失敗してきた結果、アルゼンチンはハイパーインフレ寸前、完全な「金欠」状態にあると繰り返し喧伝(けんでん)している。

 しかし、ミレイ大統領は、貧困層に対する福祉政策は維持するとの公約に沿う形で、子ども手当てを増額、食事補助券の支給額も50%引き上げた。

 国際通貨基金(IMF)は緊縮策を歓迎。それに対し、アルゼンチン労働総同盟(CGT)は「国民に対する重荷」だとして反発している。

 CGTは、各種の削減措置により「数百万人の国民が社会・経済的な窮状」に置かれ、「購買力は破壊される」だろうとしている。

 2001年のアルゼンチン経済のメルトダウン(破綻)を機に毎年行われているデモが来週、挙行される予定だ。ミレイ大統領としては、就任後初めて、街頭からの洗礼を浴びることになる。2001年にはデモが暴徒化し、約40人が死亡している。

 誰もが耐え忍べるわけではない。

「あちこち移動したり病院に行ったりする」ためにバスを利用しているというロサ・カバニジャスさん(66)にとって、「バス料金の値上げは不安」だ。「良いことだとは思えない」と話した。

【翻訳編集】AFPBB News

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